軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

81.私は、金鉱脈を、掘り当てた!

今日は昨日ほどもお寝坊しなかった。

いや、まあ、少々お寝坊だったんだけどね。でもしょうがないでしょ、もう連続でぐったりするほど濃すぎる日々なんだもん。

お母さまも、それにアデルリーナも、まだ眠そうだったけど一緒に起き出し、着替えて厨房へと降りた。

「おはようございます、奥さま、ゲルトルードお嬢さま、アデルリーナお嬢さま」

マルゴはすでに来ていて、厨房にはいい匂いが漂ってる。

そしてもう、なんだかなし崩し的に今日も厨房で朝ごはんだ。

「ゲルトルードお嬢さま、この黄色いソース、本当に使い勝手がようございますね。お野菜ならなんでも合いますですよ」

マルゴが新しいマヨネーズを作りながら、感心したようすで言ってくれる。

私たちは、そのマヨネーズを使ったサンドイッチにぱくついていた。

「ええ、本当に美味しいわ。このソースなら生のお野菜でも、とっても美味しく食べられるもの」

お母さまは笑顔でそう言ってくれて、アデルリーナもにこにこ顔で言ってくれちゃう。

「はい、本当にお野菜がどれも美味しいです。この、おイモのサラダも本当に美味しいです」

アデルリーナは本当にポテトサラダが気に入ったようで、小さく切ったにんじんも混ぜてあるのに、まったく気にしたようすもなく美味しそうに食べてる。

ああもう、どちらかというと食の細かったアデルリーナが、あんなに嬉しそうに美味しそうに、いっぱいごはんを食べてくれるなんて。マルゴ天才。そんでもってアデルリーナは本当になんでこんなにかわいくてかわいくてかわい(以下略)

朝からたっぷり妹にデレちゃった私は、とりあえず切り替えてマルゴに言った。

「ええ、このソースはマヨネーズっていうのよ」

「『まよねーず』で、ございますか」

マルゴはちょっと首をかしげながらうなずいた。

まあ、確かにちょっと不思議な音の響きでしょうね、この国の言葉からすれば。サンドイッチも、ちょっとなじみがない響きなのでみんな最初は戸惑ってたし。

でもま、そういうのは気にしない。私が自分で言いやすいように、慣れた名前で呼びたいだけだから。

「このマヨネーズ、トマトソースを少し混ぜたり、刻んだ玉ねぎと刻んだゆで卵を混ぜたり、少し手を加えて味を変えても美味しいわよ」

「へえ! それはまた、おもしろそうでございますね」

マルゴは目を見開き、興味津々という顔つきで身を乗り出してきた。

「マヨネーズって、お酢もたくさん使うからさっぱりしてるでしょ? だから、油を使ったお料理にも合わせやすいのよね。玉ねぎとゆで卵を刻んで混ぜたものを……」

フライにかけて食べると、とっても美味しい……そう言おうとして、私はハッとした。

あれ? フライ……っていうか、揚げ物、揚げるって、なんていうんだっけ?

その瞬間、私の脳内言語が切り替わったんだけど、日本語の『揚げる』に該当する、この国の言葉がわからない。

あれ? 私が知らないだけ?

でも、揚げ物料理って、この世界ではいままで食べたことない……よ、ね? あれ? あれれ?

目の前でマルゴが、興味津々な顔つきで私の言葉を待ってるんだけど、私はいま自分が発見してしまった事実に、めちゃくちゃ衝撃を受けていた。

もしかして、この世界って……『揚げ物』が、ない?

いや、待って、揚げ物、油で揚げる料理って、前世の世界でも歴史は古かったけど、ものすごく普及したのって20世紀に入ってから、とかだったような気が……日常的に揚げ物に使えるほど大量の食用油の供給体制が、長らく整わなかったからとかなんとか……。

そうよ、確か英語で『揚げる』という意味の言葉が一般的になったのが、20世紀に入ってからとか……何かで読んだ記憶がある。いや、あんなに揚げ芋食ってる人たちが、よ?

それだったら、いまこの世界、この国だって、もし揚げる料理があったとしても、ほとんど普及していないって考えていいんじゃ……。

私はゴクリと、本当にゴクリと喉を鳴らしちゃった。

そんでもって、我が家の厨房の棚に目を遣る。そこには、油の入った大きな壺が何種類も並んでいる。貴族家とはいえ、はっきりいってドケチな我が家の厨房でもコレよ?

そう、この世界での食用油の供給は、たぶんすでに十分な状況になってると考えて間違いない。

でも、『揚げ物』はまだ普及してない……?

私は目の前のマルゴの顔を見、いったん視線を落とし、思わず呼吸を整えちゃった。

「ねえ、マルゴ?」

「なんでございましょう?」

「ええと、平民でも貴族でもいいんだけど……その、大量の油を熱して、そこに食材を投入して調理する、そんなお料理って何か知ってる?」

「大量の油、で、ございますか?」

マルゴの眉間にシワがよった。

「そうよ、浅い鉄鍋に油を引いて炒めるのではなく、深いお鍋にいっぱい油を入れてぽこぽこ泡が出てくるくらい熱くするの。そこに、お肉やお野菜やお魚を入れて調理するの」

眉を寄せ、首をかしげてマルゴが考え込んでる。

そして、なんだか困ったようにマルゴは言ってくれた。

「申し訳ございません、ゲルトルードお嬢さま。あたしは、そういうお料理は見たことも聞いたこともございませんです」

うおぉぉぉぉぉーーーー!

揚げ物、揚げ物がない!

フライドポテトも唐揚げも天ぷらもトンカツもフライもコロッケも揚げパンもドーナッツもポテトチップスもない!

ナニソレ、レシピ作り放題じゃない!

私は興奮のあまり、飛び上がりそうになっちゃった。

だってレシピ、めっちゃ売れる。

いやもう、確実に売れる。

私、レシピの金鉱脈を掘り当てちゃったよ!

揚げ物のレシピなんて、ちょっと考えただけでもずらずら出てくるもん。基本的なお料理はもちろん、アレンジだって簡単にできちゃうし。

しかもそれ全部が、この世界、この国では『目新しいお料理』になるんだよ! しかもしかも、唐揚げとかコロッケとか、もう苦手だっていう人のほうが珍しいような大人気のお料理じゃない?

これはもう絶対、レシピ本を作らなきゃ!

ええもう、貴族の晩餐に唐揚げや天ぷらをどっさり並べて差し上げるわよ! ええ、ええ、このさいカロリーは気にしない!