軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72.お母さま盛りすぎです

「わたくしたちがまずご相談したいのは、後見人手続きについてです」

切り出した私の言葉に、ゲンダッツさんズはまたそろって目を見開いた。

「後見人、でございますか」

「はい。わたくしの後見人に、エクシュタイン公爵さまがなってくださることになりました」

「エクシュタイン公爵さまが」

ゲンダッツさんズの目がさらに見開いた。

「ええ、エクシュタイン公爵家現当主、ヴォルフガング・フォン・デ・クランヴァルトさまです」

うん、噛まずに言えたわ。

「それは……まことにおめでとうございます」

ゲンダッツさんズがまたそろって頭を下げた。

やっぱ、公爵さまが後見人になるって、おめでたいことなのね。

と、私は今更ながらに思っちゃったんだけど、お母さまはにこやかに返事をしてる。

「ありがとうございます。公爵さまには、生涯ゲルトルードの援助をするとおっしゃっていただきましたの」

「それはまた、なんとも喜ばしいことでございますな」

おじいちゃんゲンダッツさんも、本気で嬉しそうに言ってくれちゃったわ。

うん、まあ、おめでたくて喜ばしいことなんだろう。

「その件について、明後日のお昼に公爵さまが我が家を訪れてくださることになっています。それまでに、必要な書類を用意してもらいたいのです」

私が背筋を伸ばして言うと、ゲンダッツさんズにピリッと緊張感が走った。

そして2人でさっと視線を交わし、深々と頭を下げた。

「謹んでお受けいたします」

そう答えたのは、若いゲンダッツさんだった。

そして若いゲンダッツさんは、私たちに問いかけた。

「後見人手続きを進めさせていただくにあたり、何か特記すべき内容などはございますか?」

「わたくしからひとつだけ、公爵さまにお願いしたことがあります」

お母さまがまっすぐにゲンダッツさんズを見つめて言った。「ゲルトルードが望まぬ結婚は求めない。それだけをお願いし、公爵さまはご了承くださいました」

おじいちゃんゲンダッツさんがすっと目を細め、そして静かに頭を下げた。

「かしこまりました。それについては間違いなく特記致します」

そこで一拍置いて、ようやく場の空気がちょっと緩んだ。

おじいちゃんゲンダッツさんは本当に嬉しそうに、まるで娘と孫を見るかのようにお母さまと私に優しい視線を向けてくれた。

「本当にようございました。エクシュタイン公爵家の現当主さまは、領民からも慕われておられるよいご領主さまだと聞き及んでおります。そのようなおかたがゲルトルードお嬢さまの後見人になってくださるとは。なんとも心強いことでございますな」

お母さまも嬉しそうだ。

「ええ、公爵さまはゲルトルードのすばらしさをよくわかってくださっていますの。誰よりも優しくて聡明なゲルトルードが持っている才能や地位を、誰かに利用されてしまわないよう、庇護が必要だとおっしゃってくださって」

「お、お母さま、それは……」

めちゃくちゃお母さまフィルターがかかりまくったご感想です、というのをどう伝えればいいのか。私があわあわしてるのに、お母さまは止まらない。

「本当にゲルトルードはわたくしの娘にはもったいないくらい、すばらしい娘ですのよ。聡明さも飛びぬけていて、誰も思いつかないようなすばらしいことを形にしてしまいますの。実はゲルトルードが発案したものをいくつか、意匠登録したいと思っているのですけれど」

「意匠登録でございますか」

ゲンダッツさんズの目がまたもや見開いちゃった。

でもまあ、話は戻ったというか、その話をしなきゃいけないんだから、結果オーライよね。

って、思ってたのに、お母さまってばますますノリノリなんですけど。

「ええ、公爵さまも大変ご興味をお持ちで、意匠登録に関してもご同席を希望されておりますの。新しい産業になる可能性もあるとまでおっしゃってくださって」

「新しい産業、でございますか!」

いやもう、ゲンダッツさんズもびっくりだよね? 話、盛りすぎだよね?

私は思わず咳ばらいなんかしちゃった。

「いえ、まさかそこまではないと思いますわ。公爵さまが過大に評価してくださっているようで、申し訳ない限りです」

私がにっこり、いやちょっと顔は引きつってたと思うけど、笑顔でなんとかいなしたのに、お母さまは引いてくれない。

「あらルーディ、実際に貴女が考えたあのパンは、国軍の携行食糧に採用したいと公爵さまはおっしゃっていたじゃないの」

「国軍の携行食糧でございますか!」

ゲンダッツさんズ、再びびっくり。

いや、確かにそれはそうなんですけど!

私がどう説明しようかと、またもやあわあわしちゃってると、客間の扉がノックされた。お母さまが応えると、聞きなれたいつもの声が聞こえた。

「失礼いたします。ツェルニック商会頭取さまご一同と、商業ギルドのかたがたがお見えになりました」

音もなく開いた扉から顔を出したのは、ヨーゼフだった。

ぎょっとばかりに腰を浮かしかけた私は、かろうじて踏みとどまった。

だってヨーゼフ、まだ寝てないとダメじゃないの! なんで仕事しちゃってるの!

となりでは、お母さまも浮かしかけた腰をなんとかとどめてる。お客さまの前でヨーゼフに注意するわけにはいかない。

それがわかってるものだから、ヨーゼフときたらいつも通りきっちりと執事の衣装をまとい、口元に柔らかな笑みを浮かべて言ってくれちゃうんだ。

「お通ししてもよろしゅうございますか?」

あとでお説教しますからね!

という意味を込めて、一瞬だけヨーゼフをにらむと、私はにっこりと答えてみせた。

「ええ、お通ししてちょうだい」