軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65.やっとフルーツサンド

結局、後見人の件は保留にして、私たちは客間へと向かった。

シエラを連れて客間の前まで歩いていくと、ナリッサがワゴンを押してサッと合流してくれた。ワゴンの上のお皿には、マルゴが切り分けてくれたフルーツサンドが見事に盛り付けてある。

「まあ!」

思わずお母さまが声をもらしちゃったけど、その気持ちわかりますってば!

だってこんなにきれいで美味しそうなフルーツサンド、テンション上がりまくり!

顔を見合わせたお母さまが、うふふふっと笑ってから自分の頬を両手で押さえて表情を整えてる。ホント、こういうお母さまってめちゃくちゃかわいい。

そして澄ました顔を貼り付けたお母さまは、客間をノックして扉を開けた。

「お待たせして申し訳ございませんでした、公爵さま」

私もお母さまに続いて室内に入り、お母さまに倣って正式な礼をする。

「お待ちいただきありがとうございます、公爵さま」

私たちの姿に、ソファでくつろいでいた公爵さまの眉が、ちょっと上がった。

その公爵さまの後ろに控えていたイケメン近侍さんが、思いっきりサワヤカな笑顔を振りまいてくれる。

「これはこれは。伯爵家未亡人の黒いお衣裳もよくお似合いですが、ゲルトルード嬢のその若草色のお衣裳も本当によくお似合いですね」

近侍さんが、ね、そうでしょう閣下? と公爵さまに振ると、公爵さまも眉間にシワをよせたままだったけど、うなずいてくれた。

「そうだな。お2人ともよく似合っておられる」

これには、お母さまが嬉しそうに答えちゃった。

「ええ、娘のこの衣装は出入りの商会が見立ててくれたのですけれど、本当にゲルトルードの美しさをいちばん引き立ててくれる衣装を選んでくれますの。ほかにもまだ何着か注文しておりますので、仕上がってくるのが楽しみでしかたありませんわ」

なんかお母さまが饒舌だ。

それにシエラも超にこにこしちゃってるし、ナリッサも心なしかどや顔っぽい。

「お母さま、それより公爵さまをこれ以上お待たせするわけには……まず、こちらのおやつを召し上がっていただきましょう」

私も一応笑顔でお母さまを促す。

お母さまは素でにこにこ顔をしたままうなずいた。

「ええ、そうね。せっかく貴女がマルゴと考えて作ってくれたおやつですものね」

その言葉を合図にしたかのように、すっと前へ出たナリッサが優雅な動作でフルーツサンドのお皿をテーブルに置いた。

「ほう」

「へえ」

公爵さまと近侍さんの目が見開く。

さすがに私もちょっと、どや顔しちゃったよ。

「なるほど、こうやって果実やクリームを使えば、具材をパンにはさんだおやつになるというわけか」

「見た目も華やかでとても美味しそうですね。それに、クッキーやパイのように焼く必要もないですから手軽に作れそうです」

公爵さまも近侍さんも、感心しきりだ。

うん、私もさらにどや顔になっちゃうよ。

だってね、マルゴってば本当に天才なの。この美しい切り口はどう?

私が並べた紫と黄緑の葡萄は、粒が大きくて各2個ずつ計4個しか切り口に並べられなかったけど、黄と紅の葡萄柚はていねいに交互に重ねられ、いずれもホイップクリームの白をはさんで本当に色鮮やかな切り口を見せてくれてる。

それに杏のジャムサンドも、ジャムだけでなくホイップクリームと角切りの杏を混ぜてはさみ、ボリュームも色合いもすばらしい出来になってるし。

そんでもって、ボリュームたっぷりでやわらかいこのフルーツサンドを、まったく崩さずにスパッとまっすぐカットしてくれてるんだから、本当にマルゴはすごい。

ナリッサが優雅に茶器を用意し、近侍さんもすぐに給仕を始めた。

もちろん、イケメン近侍さんも食べる気満々なのが丸わかりなので、近侍さんのお席も用意した。

私たちも席に着くと、ナリッサがお茶を淹れてくれる。

そして、お皿の上のフルーツサンドを手に取ろうとして、お母さまがちょっと困ったように片手を頬に当てた。

「これは手で持って食べるのは、ちょっと難しいかしら?」

そうなんだよね、フルーツサンドってボリュームがある分、食べづらいっていうのがネック。大口を開けてかぶりつくのが一番なんだけど、それでもクリームが垂れちゃったりフルーツがはみ出しちゃったり、結構な惨事になりやすいんだよね。

ここはやっぱりアレだ。

私はシエラに声をかけた。

「シエラ、厨房へ行ってさっきの蜜蝋布を持ってきてくれる?」

シエラが答えるより早く、ナリッサが答えた。

「こちらにお持ちしております、ゲルトルードお嬢さま」

さすが超有能侍女ナリッサである。いや、話題に出てたことだし持ってきてくれてるだろうとは思ったけどね。

「ありがとう、ナリッサ」

蜜蝋布を受け取った私は、もう一度シエラに声をかける。「シエラ、鋏を持ってきてほしいのだけど」

「あの、小さいものでよろしければ、こちらに」

シエラがエプロンのポケットから糸切り用の小さな鋏を取り出した。

ううむ、さすが元お針子、シエラも有能侍女だわ。

「十分よ。ちょっと貸してもらえるかしら?」

受け取った私は、大きな四角い蜜蝋布にその鋏を入れた。

蜜蝋布を切り始めた私のようすに、お母さまが驚いている。

「切ってしまって大丈夫なの、ルーディ?」

「はい。蜜蝋をしみ込ませているので、切っても端はほとんどほつれません」

鋏が小さいから切り口がガタガタになっちゃったけど、私は大きな蜜蝋布を四等分に切り分けた。

そしてその1枚をぱたぱたと折って袋状にし、そこにトングでそっとつかんだフルーツサンドを差し入れた。

「お母さま、こうしておけば手に持って食べても大丈夫です」

蜜蝋布で包んだフルーツサンドを差し出すと、お母さまの顔がぱあっと輝く。

「これなら、せっかくの『さんどいっち』をつぶしてしまわずに食べられるわね」

「はい、ここを持って、この端を折りながら……ちょっとお行儀は悪いですけれど、このまま上から食べていただければ。クリームや果汁をこぼしてしまっても手を汚さずに済みますし、蜜蝋布は汚しても水洗いできますから」

あ、グレープフルーツの果汁はちょっと酸味が強くて危険かな? うーん、まあ、べったり果汁を滴らせるくらいでなければ大丈夫なはず。

私はすぐにほかの蜜蝋布も折って、公爵さまと近侍さんの分も用意する。

そして、お母さまの最初の一口を待った。

「美味しいわ!」

お母さま、素で喜び過ぎです。でもめっちゃかわいいからOKです。

私は笑顔で公爵さまと近侍さんにも、蜜蝋布で包んだフルーツサンドを差し出した。

「どうぞお召し上がりくださいませ」

フルーツサンドを受け取った公爵主従が食べ始めた。

「うむ、美味いな」

「ええ、本当に。クリームの甘みと果実の酸味が絶妙ですね」

「それに、こうして包んであると実に食べやすい」

公爵さまの眉間のシワも心なしか開いてる気がする。

私も自分の分を手に取って食べ始めた。

いや、まじで美味しい。ホンットにマルゴ天才。クリームのホイップ具合も甘さも絶妙で、べたつかず果物の酸味でさっぱりといくらでも食べられちゃいそうだわ。

お母さまもにこにこ顔で食べてる。よかった、本当に気に入ってくれたみたい。今度は木苺のフルーツサンドも作ってあげよう。

「お母さま、そのうちこのサンドイッチを持って、家族でピクニックに行きましょう。かごいっぱいにおいしいサンドイッチをぎっしり詰めて持って行って、晴れた空の下で食べたらきっともっと美味しいですよ」

「なんてすてきな計画なの、ルーディ!」

私の言葉にお母さまが本当に本当に嬉しそうに笑った。「リーナも一緒に3人で森へ行って、水辺で遊んだり木の実を採ったり、考えただけで幸せな気持ちになれるわ」

ええ、お母さま、私もです。

そう思いながらお母さまと目を見かわせ、私たちはうふふふと笑いあった。