軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.お母さまとお友だち

「それにしても、今日は本当にいいお便りが届いたわ」

お母さまは嬉しそうに自分の手の中にある封筒2つを見つめる。

ヨアンナの手紙のほかにもう一通あるのだけれど、それには差出人の名前がない。けれどこちらにまで香ってくるほどはっきりと薔薇の香りがしたためてあり、上質な紙を使った封筒で立派な封蝋が捺してあるのだから、貴族からの手紙、それもおそらく上位貴族女性からの手紙であることには間違いなさそうだ。

私のその視線に気がついたお母さまは、うふふふと楽しそうに笑った。

「こちらはわたくしのお友だちからよ。学生時代からとても仲良くしてもらっていたの」

お母さまはその封筒を胸に抱いて言う。「我が家がこのような状況になったと知って、すぐに手紙を送ってくれて。わたくしもすぐお返事を書いたのよ。こうしてまたお友だちとやり取りができるようになって、本当に嬉しいわ」

本当に嬉しそうなお母さまのようすに、私はちょっと胸が痛くなった。

だってもうずっと、お母さまはお友だちと手紙のやり取りをすることすら、自由にできなかったのだから。

あのゲス野郎は、お母さま宛に届いた手紙も、お母さまが出す手紙も、すべて検閲してた。そして自分に都合の悪いことがほんの少しでも書いてあれば、いや、そんなことがまったく書いてなくても、当然のようにそれらをすべて破り捨てていた。それもわざわざ、お母さまの目の前で。

たぶん、ヨーゼフが執事をしていた頃は、ゲス野郎の目をかいくぐって多少のやり取りもできていたのではないかと思う。お母さまがこれほどヨーゼフを信頼しているくらいだもの。でもヨーゼフが下働きに落とされたこの数年間は、お母さまは本当に孤独だったはずだ。

それでも、ゲス野郎が死んだと知ってすぐ連絡を寄こしてくれるなんて、お母さまには本当によいお友だちがいるんだと、私は少し安心した。

「お母さま、新居が落ち着いたらぜひ、そのかたをお茶にお誘いくださいませ」

私がそう言うと、お母さまは嬉しそうながらちょっと困ったように微笑んだ。

「そうね、でも忙しいかただから、なかなか難しいかもしれないわね」

そう言ってからお母さまは、少し考えてまた楽しそうに笑った。

「ああでも、もしわたくしが軽装馬車の手綱を握って彼女を誘いに行ったら、絶対大喜びしてくれるわ。そしてきっと、自分にも手綱を握らせろって言うのよ」

私はその言葉にちょっと驚いてしまった。でも、そういうことを喜んでくれるようなお友だちなんだと思い、なんだか楽しくなってしまう。

「それならばなおのこと、ぜひ」

「ええ、落ち着いたら一度考えてみましょう」

お母さまも嬉しそうに笑ってうなずいてくれた。

ホント、お母さまをこんなにも笑顔にしてくれるお友だちなんだもの、大歓迎よ!

それからお母さまは、私の顔を見つめて言った。

「ルーディ、学院に通っている間の社交は、正直に言って打算が絡むことが多いものです。けれど、自分が本当に望んでいれば、なんの損得もなく共通の趣味や話題でずっと楽しくお付き合いできる、本当のお友だちも見つかるものなのよ」

お母さまは私の手を取った。「貴女にもそんなお友だちができることを、わたくしは祈っていますよ」

そしてお母さまはアデルリーナの手も取った。

「リーナ、貴女もよ。貴女は学院に上がるまでまだ何年かあるけれど、ぜひ覚えておいてちょうだいね。本当のお友だちは、何にも代えがたい宝物になるのだということを」

「はい、お母さま!」

私たちが話している間、ずっとおとなしく座っていたアデルリーナは、お母さまから話しかけてもらって本当に嬉しそうだ。

本当にアデルリーナはかわいくてお行儀がいいから、決して人の話に割り込むようなことはしない。でも意見や感想を求められたら、きちんと話せる。退屈そうな顔なんか絶対しないで、ちゃんと私たちの話を聞いてるんだよね。

本当になんで私の妹はこんなにかわいくて賢くてかわいくて賢くてかわいくてかわいく(以下略)。

それにしても、お友だちかあ……。

私はこっそりと息を吐きだした。

正直に言って私は、貴族のご令嬢がたとどう付き合えばいいのか、さっぱりわからない。前世の日本庶民としての記憶が邪魔をしている部分もあるのだと思う。だけど、この世界の貴族令嬢として生きてきたこれまでの記憶を手繰ってみても、どうにもわからないんだ。

だって私は学院に入学するまで、ほかの貴族のご令嬢やご子息と、顔を合わせたことすらまったくなかったんだもの。

通常、貴族家の子どもは魔力が発現することで大人のふるまいを求められるようになる。

そうなると、正式な社交はまだだといっても、同じ階級の貴族家同士で親子のお茶会が催され、まずは保護者同伴で子どもの社交が始まる。だから、学院に入学する頃までにはたいてい、同じ年ごろで顔見知りの令嬢や子息がいるものなんだ。

でも我が家は違った。

お母さまは完全に籠の鳥にされていたし、あのゲス野郎がなんの価値もないと判断を下した私に手間暇お金をかけるわけがない。

だから私は、子どもの社交というものを一切経験しないまま学院へ入学した。

入学してからは、一応名門伯爵家の令嬢だということで何度かお茶会の声もかかった。私も頑張って参加してみた。

でも、まったく、本当にまったく、彼女たちの会話についていけなかったんだよね。

なんていうのかこう、腹の探り合いみたいな持って回った会話ばかりで、本当にどこでどう突っ込んでいいのか、どこでどう流せばいいのかも、これっぽっちもわからないの。

おまけにお茶会用のドレスを用意しなきゃいけないのも大変で。

一応、学生の間の社交は制服でOKなんだけど、上位貴族となればそうも言ってはいられない。私服のお茶会も当然あって、しかも女の闘いっていうか、ドレスの良しあしによるマウンティングも当然あるんだよね。

いやーもう、面倒くさいったらないの。

そもそも、伯爵令嬢にあるまじき枚数のドレスしか持っていない私に、いったいどうしろと?

それでもう私は早々に諦めて、お茶会のお誘いをいただいてもなんとか理由をつけて断るようになっちゃった。そしたらもう、お茶会のお誘い自体が来なくなっちゃった。それはそれで、私としては気楽でよかったんだけど。いや、貴族令嬢としてはダメダメなのはわかってるんだけど。

なのに、私が伯爵家の爵位持ち娘になったとたん、お茶会の声がかかっちゃうわけよ。まさにお母さまの言われた『打算が絡む』社交の始まりになっちゃったのよね。

いやーもう、ホンットに、まったくもって、こんな状況で本当のお友だちができるとは、我ながら到底思えない。

それに、これからまだ増えるのよ。

私が養っていかなくちゃいけない『家族』が。

お母さまとアデルリーナだけじゃないの、ヨアンナの一家だって我が家に来てもらうつもり満々だし、これから料理人の面接だってある。

その全員の生活が、私にかかってるの。

爵位存続のための結婚を考えるとどうにも気が重くなっちゃうんだけど、とにかく爵位持ち娘になっちゃった以上、私がなんとかしなければ我が家は全員路頭に迷っちゃうのよ。

結婚のタイムリミットは6年。マールロウ男爵だったお祖父さまの信託金は今後15年間受け取れるけど、その間になんとかしなくちゃいけないの。

それに、そもそも信託金はお母さまのお金なのよ。できるだけ残しておいて、お母さまにはこれから先ずっとゆったりと過ごしていただきたいの。いままでさんざん辛い思いをされてきたんだから。

そりゃあ私だって、お母さまがあんなに嬉しそうに話されているような仲の良いお友だちができたらなって思わないわけじゃない。

でも、ごめんなさい、お母さま。

私は当面お友だちを作ってる余裕はなさそうです。