軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10.助っ人確保

お母さまの実家であるマールロウ男爵家は地方貴族だ。

国から領地を賜った中央貴族であるクルゼライヒ伯爵家とは違い、最初からその地で暮らしている地元の郷士というか名士が国から爵位を賜って領主になっている。

マールロウ男爵家は歴史もあり、かなり裕福な名門男爵家として数えられてるけど、地方貴族の場合それほど代が続かず領主が入れ替わることも珍しくない。

現在のマールロウ男爵家は、一人娘だったお母さまが伯爵家に嫁がされちゃったというか実質的に強奪されてしまったので、遠縁の男子を養子に迎えて跡を継がせたのだそうだ。ある意味、領主一族が入れ替わったと言っていいのかもしれない。

実際、その養子として入った現男爵家当主とは、お母さまはもともとあまり交流がなかったらしく、お母さまの両親が亡くなられたいまはもうほとんどやりとりをしていなかった。

「地方で暮らしておりますと、中央の情報にはどうにも疎くなってしまいます。新聞も2日遅れで届くほどですから」

ゲンダッツさんは苦笑しながら言う。「それでも新聞の死亡広告でクルゼライヒ伯爵の急逝を知りまして、大急ぎでお支払いの手続きをいたしました。手続きの処理にはどうしても数日かかってしまいますので、先にお知らせの手紙をお送りしたのですが、どうやらその手紙が遅れてしまったようですな」

そう、ゲンダッツさんが事情を説明してくれた手紙、いまさっき届いたのよ。この世界の郵便事情、あんまり当てになんないわ。

でもホント、めっちゃいい人よね、ゲンダッツさんって。

だって、お祖父さまの信託金の存在なんて誰も知らなかったんだから、ゲンダッツさんが知らん顔して横領しちゃっても誰にもわからなかったんじゃないの?

それを律儀にも、こうして支払いの手続きをしてくれたんだから。

お祖父さまもたぶん、こういうゲンダッツさんの人柄を見込んで信託契約をされたんだろうねえ。

こういう人なら大丈夫だろうと、私はお母さまとアイコンタクトを交わし、我が家の現状についてゲンダッツさんに話すことにした。今後のことについても、ぜひ相談に乗ってもらいたいと思ったからだ。

「なんと、『クルゼライヒの真珠』を、売却されたのですか……」

私たちの現状説明を聞いたゲンダッツさんは、なんだか茫然としたように言った。

「それはまた、思い切ったことをなさいましたな……」

そんなこと言ったって、まさかお祖父さまが信託金を遺してくださってたなんて夢にも思ってなかったんだから、しょうがないじゃん。

思わず私が口をとがらせてしまいそうになった横で、お母さまがおっとりと言った。

「でも後悔はありませんわ。わたくしたちがこれから暮らしていくために、何ができるか十分考えた末に行ったことでしたもの」

お母さまはさらに、嬉しそうに言う。

「それにゲルトルードが知恵を絞ってくれて、本当によい条件で買い取ってもらえましたのよ。おかげで、これからわたくしたちが暮らしていける家も買えることになりましたし」

「では、ご新居の当てはございますので?」

目を見張ったゲンダッツさんに、私が答える。

「はい、わたくしたち3人が暮らしていくに十分なタウンハウスを買い取れる見込みが立ちました」

って、手付金がどうなってるのか、昨夜あれからクラウスに確認するの忘れてたわ。謎の振込金のおかげでそれどころじゃなくなっちゃってて。

そう思ったとたん、ヨーゼフがクラウスの来訪を告げに来てくれた。

いや、ゲンダッツさんが我が家にやってきたって時点で、クラウスを呼んできてくれるようカールに頼んで商業ギルドへ走ってもらってたんだけどね。超ナイスタイミング。

私たちはクラウスを客間に招き入れ、ゲンダッツさんを紹介した。

振込金の謎が解けただけでなく、ゲンダッツさんがマールロウ男爵家の顧問弁護士だったということに、クラウスもすごく安堵したようだった。

「ゲルトルードお嬢さまからご指示のあったタウンハウスの手付金は、本日早々に納めて参りました。それで先方は、1日も早く本契約を交わしたいとのことなのですが」

クラウスの言葉に、私はしっかりとうなずく。

そしてゲンダッツさんに向き直って言った。

「ゲンダッツさん、もしよろしければ、本契約に立ち会っていただけませんか? 弁護士のかたにお立ち合いいただければ、本当に心強いですから。もちろん、立ち合い手数料はお支払いいたします」

購入を考えているタウンハウスの売主については、商業ギルドでのこれまでの取引状況からまず大丈夫だろうとはクラウスから聞いているのだけれど、こちらは世間知らずな貴族夫人と令嬢だからね、どこで足元を見られてしまうかわからない。

だから本契約の前に弁護士に相談するかどうか、お母さまとも話していたのよね。

ただ、あのゲス野郎の使ってた顧問弁護士なんて絶対頼りたくないし、かといってどの弁護士に相談すればいいのか、商業ギルドで紹介してもらうにしても『クルゼライヒ伯爵家』として頼む以上いろいろと制約もあるだろうし、悩みは尽きない状況だったの。

そこへ、なんていうかもう棚から牡丹餅のように、元男爵家顧問弁護士ゲンダッツさんが登場してくれちゃったんだから、これはもう頼りにせずにはいられないってもんでしょ。

果たしてゲンダッツさんは、少し驚いたように眉を上げたものの、すぐににっこりとうなずいてくれた。

「私でよろしければ、喜んで」

そしてゲンダッツさんは早速、クラウスが持参していたタウンハウスの物件資料と売買契約書の確認を始めてくれたんだ。