軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6

シンディーの母ジネットの調査は、思っていたよりも簡単に終わった。

ジネットの亡き夫のひとりに、ガロイド商会の代表がいたのだ。

彼が代表を務めていた頃はかなり大きな商会だったが、その死後は急速に力を落とし、今は細々と運営しているようだ。

亡くなった代表の息子が、父の突然の死を不審に思い、ひそかに調査していた。

彼は亡き父から商会を受け継いでいるが、資産のほとんどを遺産としてジネットに奪われてしまい、相当苦労したらしい。そして父の死もその遺言も不可解だと、ずっと真相解明の機会を伺っていた。

しかしジネットはレナードの父親と再婚して、伯爵夫人になってしまった。

貴族が相手では、下手に動くこともできない。

伯爵の保護下にいる彼女を訴えるには、相当の覚悟と証拠が必要となる。

それに、ジネットが自らの過去を伯爵に語っているとは思えない。おそらく自分を陥れるための罠だと涙ながらに訴えるだろう。

(きっとオラディ伯爵は、妻を信じる。そして、平民の彼は不敬罪で捕らえられてしまう可能性もあるわ)

彼も、そう考えたのだろう。

だから、何とかして貴族が相手でも覆せないような、確固たる証拠を集めようと奮戦していた。

そこでアデラは、屋敷の使用人に命じて彼と接触してもらい、集めた証拠や証言を提供した。

これで彼は、悲願を達成することができるだろう。

仕掛けはこれですべて終わり、あとは結果を待つだけだ。

あの手紙がテレンスのところに届けば、彼はすぐに帰国するだろう。

そして被害を最小限にするため、オラディ伯爵家を守るために、弟や義妹、場合によっては自分の父でさえ容赦なく切り捨てるに違いない。

(本当に、冷たい人だわ……)

テレンスはとても優秀で、若手の中でも将来は有望だと言われている。それでもアデラは、彼の冷酷さを恐ろしいと感じていた。

(でも、私も同じね)

そんな彼をこうして利用している自分もまた、冷たい女なのだろう。

思い合っているふたりを結婚させてあげよう。

そんな理由をつけて、こうして淡々と事を運んでいるのだから。

本当はレナードが、アデラと結婚して爵位を継ぐことを望んでいることも。シンディーが心底レナードを愛しているのではなく、ただアデラに対する対抗心でレナードを誘惑したのだということも、知っている。

ふたりは今、予想外の事態に慌てて、必死に噂を否定して回っていた。

それを聞く度に、私に遠慮しなくてもいいのにと笑顔で友人たちに告げていたのはアデラだ。

あれからレナードからの手紙も、シンディーからの連絡もすべて無視していた。

自分でも、恐ろしい女だと思う。

でもアデラをこんなふうに変えてしまったのは、レナードであり、シンディーだ。

仲良くしようと思っていた。

将来の夫として。

いずれ義妹になる人として。

レナードの横暴さを、シンディーの我儘を、限界まで許してきた。

その結果が、彼のあの言葉だ。

因果は巡る。

これから彼らに不幸が訪れたとしても、それは彼ら自身の行いが原因である。

この日は、王城で夜会が開かれていた。

アデラはいつものように、従兄のエイダーにエスコートを頼んでいる。

あらかじめお願いしていたように、早めに来てくれた従兄と一緒に、馬車で王城に向かう。

エイダーは、母の兄であるソーヴァ侯爵の三男で、嫡男にはすでに妻子がいる。

次男は騎士団で頭角を現しており、すでに第二騎士団の副団長になっていた。

三男のエイダーはあまり身体が丈夫ではなく、騎士団に入ることも他家に婿入りすることも望まずに、いずれ神官になるらしい。

でも昔から年下のアデラを可愛がってくれて、直前にエスコートを頼んでも必ず来てくれる。

「今日は、随分早く到着したね」

穏やかで優しいエイダーは、アデラの手を取って歩きながら周囲を見渡してそう言った。

まだ会場にもほとんど人がいない。

「ええ。少し、面倒なことになりそうだったから」

アデラはにこりと笑って、そう答えた。

不穏な噂が流れているこの状況で、レナードがいつものようにシンディーと一緒に夜会に参加するとは思えない。必死に噂を否定しようとして、アデラを迎えに来るはずだ。

だから、彼が訪れる前にさっさと会場に向かったのだ。

アデラがいなければ、いつも通りにシンディーをエスコートするしかない。

ふたりはまだ義兄妹だ。

兄が義妹をエスコートしても変に思われることはない。

(今までは、ね)

しばらくすると、次第に顔見知りの令嬢たちが到着し始めた。

噂を知っている彼女たちは、アデラがいつものように従兄のエイダーと一緒にする姿を見て、納得したような顔をしている。

やっぱりあの噂は本当なのね。

そう囁く声が聞こえてきた。

「アデラ、大丈夫かい?」

ひそひそと囁く声が聞こえたのか、エイダーが心配そうに尋ねてきた。

「ええ、もちろん。私は大丈夫よ」

噂のなかった頃のほうが、ずっとつらかった。

きちんとした婚約者がいるのに、毎回従兄にエスコートされているアデラを周囲はどう見ていたのだろう。

そう思うと居たたまれない気持ちになるが、噂を知った者たちは皆、今までのことを思い返して納得しているに違いない。

あの日々も、無駄にはならなかった。

そんなことを考えていると、ふと会場が騒がしくなった。

振り返ると、シンディーを連れたレナードが姿を現したようだ。

ふたりは、いつものように寄り添っていなかった。

シンディーは不安そうにレナードを見上げているが、彼は義妹を顧みない。

そしてアデラを見つけると、シンディーをその場に残して駆け寄ってきた。