軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53

テレンスとふたりきりになると、アデラもようやく緊張の糸が解けて、全身から力が抜けそうになる。

それでも安全な帝城に入るまでは気を抜いてはいけないと、必死に平静をよそおっていた。

「アデラ、疲れただろう? 少し休んだ方がいい」

けれどテレンスは、そんなアデラを見透かしたように、その肩を抱いて引き寄せる。

「でも」

「もう傍を離れたりしないから、大丈夫だ」

「……うん」

優しく告げられた言葉に、アデラは素直に身を任せた。テレンスが傍にいてくれるなら、もう心配はいらないだろうという安心感があった。

「採掘場は?」

「もちろん、無事だ。採掘場付近にいた人たちは、全員避難させている」

ローレンは、メリッサとスリーダ王国の元王太子ブラインの命を受けた者が、何度も採掘場付近を探っていることに気が付き、見張りを強化していたようだ。

そのため、仕掛けられた爆弾もすぐに発見して、人員を全員避難させることができたようだ。

あのふたりの計画は、噂を流すだけだった。

けれど実際に爆弾が仕掛けられたことで、背後にいるクリスが何か計画していることを悟った。その目的を探ろうとしていたときに、帝城から緊急の連絡が入ったのだと言う。

「イリッタ公爵家の、リンダ嬢からだった」

「え? あ……」

そこでようやくアデラは、彼女宛に手紙を出したことを思い出した。

手紙を受け取ったリンダは、すぐに帝城に来てくれていたらしい。そこでアデラがクリスに連れ出されたと知り、慌ててテレンスとローレンに連絡を入れてくれたのだ。

あまりにも怒濤の出来事が続いて、彼女に手紙を出したことさえ忘れてしまっていた。それなのにリンダは、アデラが危険かもしれないと考えて動いていた。

そこまでしてくれたリンダには、きちんとお詫びとお礼を言わなくてはならないだろう。

「クリス殿下が宝石の販売に執着していたことは、イリッタ公爵令嬢も知っていたからね。でも、まさかクリス殿下の目的が、アデラだとは思わなかった。守れずに、すまなかった」

深い後悔を滲ませる言葉に、アデラは首を何度も横に振る。

「ううん。私がちゃんと、テレンスに言われた通りに帝城から出なければ、何もなかったの。でも、あなたが……」

ふいに、あのときの絶望を思い出して、胸が痛む。

「テレンスが爆発に巻き込まれたと言われて、もうテレンスの無事を確認することしか考えられなくなって。自分ではもう少し、冷静だと思っていたのに」

もしテレンスに何かあったら、二度と誰とも婚約しないと思った。三度目でようやく手に入れたしあわせを、失うかもしれないと思うと平静でなどいられなかった。

そのときのことを思い出して、テレンスの肩に頬を寄せる。

「無事で、本当によかった……」

帝国産の宝石の販売権についても、テレンスは詳しく説明してくれた。

ローレンは宝石の採掘量が安定してきたこともあり、もっと販売を拡大させたいと思っていたようだ。

どんなに貴重な宝石でも、販売できなければ利益を拡大できない。

けれどティガ帝国の皇帝陛下はその貴重さに拘りを持っていて、なかなか国内貴族にも宝石の販売権を与えなかった。

「クリス殿下の話だと、帝国産の宝石の採掘場は、ローレン殿下の領地にあると。だから、販売権も彼の自由だと言っていたわ」

アデラがクリスから聞いた話を伝えると、テレンスはそれを否定した。

「提案はできても、最終的な決定権は皇帝陛下にある。領地はローレン殿下の管轄下でも、採掘場はティガ帝国のものだからね」

帝国産の宝石を広く流通させたいローレンだったが、皇帝は数を制限することで、もっと貴重さを高めようとしていた。

そこでローレンは、テレンスに許可を与えた。国内が無理なら、他の国に多く出回るようにすればいいと考えた。

テレンスが宝石を発掘したチームに所属していたこともあり、皇帝陛下も許可を出してくれたらしい。

そしてテレンスとアデラには、その宝石を広く販売してもらう。

もし国外での販売数の方が多くなってしまえば、さすがにティガ帝国内でも販売許可を出さないわけにはいかないだろう。

ローレンは、そう計画していた。

クリスにも、もう少し待っていてほしいと説明していた。けれどクリスは、どうしてローレンがそう言ったのか、きちんと理解していなかったようだ。

ただ皇族の自分に与えられず、他国のテレンスに許可を与えたことで、蔑ろにされたと憤っていた。

「義務を果たしていないのに、権利だけは得ようとしていたのね」

しっかりと自分で知ろうとすれば、ローレンの目的はわかったはずだ。

それなのにクリスは、ただ自分が除外されたことに対しての恨みしか持たなかった。

そんなクリスに利用されて、彼の思い通りに動いてしまったメリーサとブラインに、少し同情してしまうくらいだ。

ふたりはすでに拘束されていて、取り調べが終わったあとに、ふたり一緒にスリーダ王国に強制送還することになっていた。

ティガ帝国の皇帝陛下は、皇族のクリスが関わっているかもしれないと聞いた時点で、事件のことは伏せると決めたようだ。

だがスリーダ王国の皇族の婚約者だったメリーサに、ブラインが手を出したことには抗議する。もしかしたら採掘場の爆発でさえ、あのふたりの仕業になってしまうかもしれない。

自分を陥れようとしたメリーサだが、何もかも彼女のせいになってしまうことには、さすがに思うことがある。

けれど皇族のクリスが原因だったと公表してしまえば、もともとはスリーダ王国が元王太子を国外に放り出したことが原因だというのに、今度はスリーダ王国が、元王太子が巻き込まれたと抗議してくるだろう。

国同士の関係性を考えると、そうティガ帝国の皇帝陛下がそう判断したことも、間違いではない。

でも、これからクリスはどうなるのか。

そう思ったとき、アデラはふと思い出した。

「そういえば、クリス殿下を思い切り叩いてしまったわ。不敬罪になってしまうのかしら」

「いや」

思いっきり引っ叩いたことを思い出してそう言うと、テレンスは静かに首を振った。

「公式に発表されないだけで、クリス殿下の罪が許されるわけではないからね」

おそらく身分を剥奪され、その上で幽閉されるのではないかと、彼は告げた。

「……そう」

クリスはあれほど負担に思っていた皇族という身分から解放されることになるが、きっと彼はそれにも不満を抱き、嘆いているに違いない。