軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46

それからは何事もなく、パーティを終えることができた。

アデラはリンダを含めた複数の女性と親しくなり、今後も手紙のやり取りをすることを約束して別れる。

楽しくて、そして有意義なパーティだった。

最後に主催者のイリッタ公爵とリンダに挨拶をして、退出した。

ひとつだけ気になるのは、押しかけてきたメリーサの存在だ。

「アデラ、疲れたのか?」

帰りの馬車の中でぼんやりとしていたアデラを、テレンスが気遣ってくれる。

「ううん。大丈夫。今日はありがとう」

改めて礼を言うと、テレンスは何のことかわからない様子で首を傾げた。

「ええと、このドレスと、パーティに連れて行ってくれたこと。それから、私たちがお喋りをしている間も、ずっと傍にいてくれたこと」

そう言いながら、さすがにありがとうの一言で済ませるわけにはいかないと思い直す。

「ごめんなさい。ありがとうだけでは伝わらないわね」

「ドレスを贈るのも、傍にいるのも、パートナーとして当たり前のことだ。礼を言われるほどのことではない」

アデラの謝罪にそう答えたテレンスは、そっとアデラの手を握る。

「有意義な話し合いができたようだね」

「ええ、とても。イントリア王国に帰ってから、役立つことばかりよ。でも……」

メリーサのことが気になると、正直に告げた。

今回のことは、主催のイリッタ公爵からメリーサの父であるピーラ侯爵に抗議をしてくれるらしい。でもメリーサのことだから、反省などせず、招待状を送らなかったリンダが悪いと言い張るだろう。

「同行していたのは、スリーダ王国の元王太子殿下だと思うの。そこまでしたのなら、このまま引き下がるとは思えなくて」

「そうだな。注意しておこう」

考えすぎだと言われることも覚悟していたが、テレンスは真摯にそう言ってくれる。

アデラも不安をテレンスに打ち明けたことで、少し気持ちが楽になった。

公爵邸は帝城のすぐ近くだったので、まもなく馬車は到着し、アデラはテレンスと別れて滞在している部屋に戻る。

「おかえりなさいませ」

帰りを待っていた侍女に着替えを手伝ってもらい、今日はもう休むことにした。

(あ、そうだわ)

その前に、今日知り合った女性たちの名前と爵位、そして彼女たちが取り扱っている装飾品の種類を書き記しておく。

イントリア王国に帰国してからも、忙しくなりそうだ。

それに、ティガ帝国の貴族でも、あの宝石を自由に販売できるわけではないと知った。他国出身のテレンスに許可が与えられたことに、反発する者がいないとも限らない。その辺りは慎重になるべきだろう。

(それと……)

テレンスは宝石の事業をアデラに任せてくれると言っていたが、きっと父はあまり良い顔をしない。

女性は表舞台に出ず、影から支えるのが美徳とされている国だ。

けれどアデラが成功すれば、きっと評価も変わる。失敗すればさらに悪評を買うことになるだろうが、それこそ今さらだ。

(絶対に、成功させてみせるわ)

そう強く決意していた。

メリーサはあれから、パーティに押しかけたときに連れていた婚約者ではない男性と、あちこちに出かけているらしい。

とても綺麗な顔をしているが、メリーサと同じくらい傲慢な男性らしいと聞いて、それがスリーダ王国の元王太子だと確信する。

アデラが予想していたように、ふたりはすっかり意気投合して、派手に遊び歩いているらしい。

スリーダ王国の元王太子を、国の許可を得ずに入国させたことがどれだけのことなのか、メリーサはきっと、理解していないのだろう。

最初はさすがに様子見をしていたようだから、何事もないから大丈夫と勘違いをしてしまったのかもしれない。

だがそれは、皇太子のローレンの策略である。

彼女の罪状を増やして、ティガ帝国の皇族であるクリスとの結婚を破談にするために、静観しているに過ぎない。

メリーサにしてみれば、今まで侍らせてきた男性と同じように考えているのかもしれないが、相手は友好国ではない国の、元王太子である。

そしてメリーサと同じように傲慢に振舞い、隠れる気もない元王太子も、彼女と同じような人間なのだろう。

(たしかにふたりは、お似合いね)

メリーサが仕掛けてくるのではないか。

そう警戒していたのが馬鹿らしくなるくらい、彼女の行動は、考慮の足りないものだった。

そんな中、テレンスは毎日のように、皇太子のローレンに会いに行っていた。

深刻そうな顔をしているときもあって気になるが、メリーサがあの状態ならば、心配はいらないかもしれない。

スリーダ王国の元王太子を引き入れて遊び歩いている今の状態なら、向こうの有責で婚約を解消できる。これ以上メリーサが何かする前に、自分たちはさっさと帰国した方が良いのかもしれない。

それに、予定よりも滞在期間もかなり長くなってしまった。

テレンスは帰国する前に、宝石の採掘場を視察したいようだ。

その間にアデラをひとりにしまうことを気にしていたが、ちょうどアデラにも、リンダから会いたいと連絡があった。

そろそろアデラたちが帰国すると聞き、その前に話がしたいと言ってくれたのだ。装飾品の試作をいくつか、アデラに渡したいらしい。

それを聞いたテレンスが、皇太子のローレンに許可を取ってくれて、テレンスが留守にする日、アデラは帝城でリンダと会うことが決まった。

その日はローレンも地方への視察で不在らしいが、帝城ならば、メリーサが無断で押しかけることはできない。

「帝城なら安全だと思うが、この部屋からは出ないように。少し遅くなるかもしれないが、心配はいらない」

テレンスはそう言い、アデラの赤みを帯びた金色の髪をそっと撫でる。

「ええ。いってらっしゃい」

アデラはそう言ってテレンスを送り出し、リンダの訪問を待つ。

面会は午後からの予定だった。

まったりと過ごしていると、昼過ぎに侍女が彼女の到着を教えてくれた。

案内されてアデラの部屋を訪問したリンダは、付き添いの人たちに大きな荷物を持たせていた。どうやらすべて試作品らしい。

挨拶を交わし、それから彼女の試作品をひとつひとつ、見せてもらう。

可愛らしいデザインのものが増えているのは、イントリア王国で販売することを見越したものだろう。

「素敵だわ」

どれも素晴らしくて、思わずそう口にしていた。

リンダの顔が、ぱっと輝く。

「ありがとう。こんなに持ってきてしまって、呆れられてしまうかと思いました」

「そんなことはないわ。どれも素晴らしいもの」

厳選したが、それでもかなりの数になった試作品を貰い受け、イントリア王国での反応を見ることにした。

すっかりと話し込んでしまい、気が付けばもう夕方である。

部屋から出ないようにと言われていたアデラは、見送りができないことを詫びて、リンダと別れた。

そろそろテレンスも帰ってくるだろう。

そう思って待っていたが、周囲が暗くなっても、まだ彼は帰って来なかった。

遅くなっても心配はいらないと言っていたが、時間の経過とともに、少しずつ不安が積み重なっていく。

アデラは何も手に付かず、ただ黙ってソファーに座り、テレンスの帰りを待っていた。