軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 蒼の魔石

洞窟を進み辿り着いたのは、開けた空間。

そこに足を踏み入れた途端、私たちは自らの目を疑った。

「なっ……」

「こ、これは!?」

目に飛び込んできたのは、洞窟の中とは思えないような目もくらむような輝き。

青色に輝く空間が広がっていた。

洞窟のあちこちから、青色の結晶……恐らくは宝石が生えていたのだ。それらが私の光の魔法を反射し、洞窟全体をキラキラと青く輝かせる。まるで宝石箱の中に入ったかのような光景だった。

瘴気に満ちた洞窟の奥に、こんな神秘的な光景があるなんて。

「これはまさか……『蒼の魔石』か!?」

フェルドが驚愕の声を上げた。『蒼の魔石』、聞いたことのない単語だ。

「あおのませき? 知らない言葉です、響きからして『紅の宝玉』と関係が?」

「ああ、アルミナにいた君は知らなくて当然かもね。その通り、『蒼の魔石』は『紅の宝玉』と同じく魔力が集まってできる石だ。というより、『紅の宝玉』の変種がこの『蒼の魔石』といえるね」

「変種?」

変な石、ということだろうか。

「『紅の宝玉』ができる際、不純物が混ざったりして魔力のバランスが崩れることがあるんだ。魔力はデリケートだからそれだけで性質がまったく変わってしまう、元は同じものなのに、こうして赤ではなく美しい青の輝きを持った宝石になるんだ」

「へ~、これが元は『紅の宝玉』だったんですか」

興味を持った私は近くの『蒼の魔石』に手を伸ばした。青色をしたその宝石、『紅の宝玉』とは正反対の存在に見えるが、元は同じものだったなんておもしろ……

「おっと、触らない方がいいよ」

私の手をフェルドがそっと抑えた。

「え、なんでですか?」

「見せた方が早いね」

私に代わってフェルドが『蒼の魔石』へと手を伸ばす。そしてフェルドの手が石に触れた瞬間。

ビシッ、と音を立てて魔石にいきなりヒビが走り、まるで爆発するかのように砕け散った。

「え! ば、爆発した?」

「『蒼の魔石』はとても不安定な物質で、少しの刺激で魔力を放出してしまうんだ。なにせ『蒼の魔石』に含まれる魔力というのは、破壊の魔力だからね」

「破壊の魔力……?」

「『紅の宝玉』の真逆だと考えればわかりやすいかな、瘴気を防ぎ、傷を癒す『紅の宝玉』は自然魔力、言い換えると生命の力を持っている。一方の『蒼の魔石』は生命を壊す力、いわゆる攻撃魔法と同じエネルギーの塊なんだ。荒々しい攻撃魔力は自然魔力と比べて不安定になるんだよね」

つまり……

『紅の宝玉』は癒しの力を持つ安定した魔力を宿し。

『蒼の魔石』は攻撃の力を持つ不安定な魔力を宿す、と。

表裏一体、存在は近しいが見た目も性質もまるで真逆。そうした不思議な関係を持つのが、紅と蒼、それぞれの石ということか。

「それにしても、こんなものが存在するなんて知りませんでした」

聖女として『紅の宝玉』に長く触れ、人一倍詳しいつもりだったが、表裏を成すこんな石があったなんて。ちょっと悔しいような気もする。

「無理もないさ、結界で瘴気を遠ざけ、純粋な自然魔力が満ちているアルミナでは『蒼の魔石』は基本的にできないだろうしね。むしろ君が『蒼の魔石』を知らないことは君の能力の証明になると思うよ」

そんな私の気持ちを見越してかフェルドがフォローしてくれた。彼が言うならそう考えておこう。

「と、いうより……」

その時ふと、フェルドが声のトーンを落とした。

「本来なら『蒼の魔石』はその不安定さから、大きくなる途中で人知れず魔力を放出して消えていくはずだ」

「あ、なるほど。こう、トランプタワーを立てていくみたいなものですもんね、ちょっとの揺れでわーってなっちゃいそうで」

「ああ、愉快なたとえだけどイメージしやすいね。そう、大きなトランプタワーを立てるのが難しいように、『蒼の魔石』を人が観測できることは珍しい。それも……ここまでの規模と大きさは異例も異例だ」

たしかに……あらためてこの空間に目を向ける。

あちこちにきらきら輝く『蒼の魔石』、青く輝く神秘的な空間。

中には腰ぐらいの大きさの結晶もある。さっき、フェルドが触れただけで『蒼の魔石』のひとつが爆発したことを考えると、その異常さがわかる気がする。

「これは僕の推測だけど、この洞窟は今、濃い瘴気で満ちている。瘴気も魔力だ、それによって抑えつけられるようにして、ここまで大きくなるほど『蒼の魔石』が成長したんだろう」

青く輝く美しい光景は、悪しき瘴気があったからこそ出来上がったというわけだ。なんだか皮肉な話。

「……あれ?」

と考えた時、ふと疑問点が湧いた。

「でもそれ、おかしくないですか? 『蒼の魔石』を作る魔力自体は『紅の宝玉』と同じなら、瘴気がいっぱいの場所にできるのは変な気が」

『紅の宝玉』によって瘴気除けの結界ができるように、『紅の宝玉』を構成する自然の魔力……つまり生命の魔力は瘴気とは真逆の性質だ。

本来、瘴気が濃いなら自然魔力は少なく、逆に自然魔力が多ければ瘴気は少ないはずだ。こんな瘴気が濃い場所に『紅の宝玉』ができることはない。それならば『蒼の魔石』だってできないはず。

「そうだね、その通りだ。この状況が成り立つには、何かがないと起こりえない。瘴気を押しのけるほど大量で強い自然魔力が溢れるような何かが……」

「その何か、というのは……」

「まだわからない、とにかく異常事態なのは確かだ。それに瘴気が混ざった石の問題については『蒼の魔石』とはまた別だ、その関係性も調べる必要がある」

「う、うーん? なんだか難しくなってきましたね」

「とにかく先へ進まなきゃならない、まだ奥があるみたいだからね」

私たちの調査の目的はあくまでモース村の瘴気の原因探し。今、もっとも怪しいであろう川にあった瘴気混じりの石の発生源を探っているところだ。『蒼の魔石』は瘴気とはまた別件、調査の目的とは関係ない。

「ここを通って先へ進もう。『蒼の魔石』がここにある理由もその先で……」

フェルドがそこまで言った時だった。

ズシン。

洞窟を揺るがすように……重い音が、奥の暗闇から響いた。

何か、来る。