軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 クールな騎士団長

『紅の宝玉』も装備し、準備万端。

フェルドの方の準備も済んだらしいので、いざ問題の農村へと出発だ。

「一緒に来る兵士さんはこれだけなんですか?」

用意された馬車は2つ、片方は私たちが乗るとして、もう片方が兵士のためのものだろう。そのそばに控える兵士は、わずか5人だった。

「ああ、あまり兵士を多くすると移動速度が遅くなるし、食糧の心配も出るからね。少数精鋭で行くことにしたんだ」

なるほどたしかに、特に今回は人がいる村へと向かうわけだから、移動先に迷惑をかけないようにという配慮でもあるのだろう。

「それに君がいれば、魔物に遭遇することもまずないだろうしね」

「ふふん、その通り、信頼してくれていいですからね。万一の時は宝玉もありますし」

フェルドから貰ったネックレスを撫でる、基本的な魔物除けや治癒は宝玉がなくてもできるが、宝玉があれば段違いに有効な魔法が使える。これがあれば百人力だ。

「ああ、もしいざという時……特に君の身が危うくなった時は遠慮なく宝玉を使っていいからね。ネックレスのことは心配しなくていい、もし使い果たしてしまってもすぐ新しいものをプレゼントするよ。むしろ……」

おや? この流れは……

「そうなった方が、君にプレゼントする機会が増えて嬉しいくらいさ」

「おお~」

「え、どうしたの?」

「あいえ、こちらの話。ありがとう、フェルド」

キセノさんが予想した通りの台詞をちゃんと言ったので思わず歓声を上げてしまった。さすが長く仕えたメイドさん、主のことがよくわかっている。

「もっとも『紅の宝玉』が必要なくらい危険なことにはまずならないだろう。僕もいるし、兵士たちも選りすぐりの精鋭だからね。特にこの……パイロ!」

フェルドが待機する兵士たちに声をかけると、その内の1人が兜を脱いで進み出た。

それは兵士たちの中でも若い兵士だった。すらりとした長身で、一見するとあまり頼もしくは見えない。髪で片目を隠しており、兵士というより傭兵か冒険者といったワイルドさを感じさせた。

「彼はパイロ、この国の騎士団長だ。まだ若いが、実力はオーソクレースでも随一だよ」

「お初にお目にかかります……パイロです」

パイロ、と紹介された彼は小さめの声で挨拶した。緊張してるわけでもなく、単にそういうダウナーな性格なんだろう。わかりづらいがうっすら微笑んでいて、ちゃんと敬意は感じられる。

「結界の視察の時は別件で同行できなかったが、もし彼がいたら魔物に不覚をとることもなかっただろう。でもそうしたら君とは出会えなかったんだから考えものかもね」

フェルドが高く評価する、その腕前は本物だろう。私より少し上くらいの若さなのにたいしたものだ。

しかしあらためて顔を見ると中性的でなかなか整った顔立ちをしている。だがそれ以上に全体にまとうクールな雰囲気、どこかで見た覚えがあるような……?

「彼はキセノの兄でもあるんだ。似ているだろう?」

「あっ! たしかにそうですね」

そうだこの雰囲気、メイドのキセノさんそっくりだ。なるほどよく見れば髪色に髪質、目元の感じがそっくり。

「妹ともども、オーソクレース家の皆様に仕えさせていただいております。お見知りおきを」

パイロは丁寧な所作で膝を突き、お辞儀をした。こういうしっかりとした感じもキセノさんとよく似ている。

「キセノと同じく僕とは同年代なのもあって昔からよく話す仲でね、特にパイロは僕の剣のライバルでもあるんだよ」

王族、特に若い王族は国を守る人間として、魔物と戦う実力も求められるため、幼い頃から剣の腕を叩きこまれるという。フェルドと同年代のパイロはその相手役を長く務めてきたのだろう。

「今では僕もやることが増え、実力差は開いてしまったが……君へのリベンジ、諦めてないからね」

「ええ……俺も楽しみにしていますよ」

2人はそう言うと、拳をちょんと突き合わせた。

パイロと話すフェルドはなんだか今まで見たことがない、友達と話すかのような緩んだ雰囲気がある。同性で同年代でライバル、立場を越えた絆のようなものがあるんだろう。

「あ、申し遅れました、私はジュリーナ・コランダムです。えーっと……」

名乗ろうとして、私は困った。今の私はなんだろう? オーソクレースの客? それではなんだか他人行儀だ。フェルドの友人、というのもちょっと違う気がする。

聖女……というのがやっぱり一番いいと思うけど……

「……宝石術師です! どうぞよろしく」

結局無難なところに留めておいた。間違いではないし、オーソクレースではこれが通りがいいだろう。

「ジュリーナ、君は……」

フェルドが何か言おうとしたが、

「フェルド様! 出発前にご報告したいことが」

と、伝令の兵士がやってきて中断される。

「おっと……ごめんジュリーナ、待っててね」

「ええ、いってらっしゃいませ」

多忙なフェルドは伝令の方へ。あとには私とパイロが残された。せっかくなのでこの機会に親睦を深めるとしよう。

「パイロさんは、フェルドととても仲がいいんですね」

「ええ、僭越ながら……剣を交えることが多かったからかもしれません。剣の上では、対等ですので」

うーん、男の友情って感じ。性別は置いといても私には友達らしい友達はいなかったからなあ、ちょっと羨ましい。

「でも、それを言うなら……ジュリーナ様と一緒にいるフェルド様は、とても楽しそうに見えます」

「え? そうですか?」

「ええ、特に最近は何かと心労も多かったようで……久々にフェルド様の明るいお顔を拝見できました。あなたのおかげでしょう」

ま、国の問題を解決する手段を得たのだから当然だろう。

「よければこれからも……あの方に、寄り添ってあげてください」

「はい、もちろんです」

王子に仕える兵士として、何より彼のことを考えているんだろう。一見すると無愛想にも見えるダウナーなパイロだが、内面では熱いものを持っているようだ。

あ、そうだ。

ここはひとつ、あれをやって反応を見てみよう。

「パイロさん、ちょっとこちらを見てもらえますか?」

「なんでしょうか」

「ふっふーん♪ クル、おいでー」

『キュ?』

ポケットの中のクルに指で合図し、私の手の平に来るように促す。

ぴょん、とクルが私の手に乗った。

「じゃーん!」

そしてクルをパイロに見せつけた。妹のキセノさんはクルにメロメロだったことだし、よく似た兄妹のパイロもきっと、新鮮なリアクションを見せてくれるに違いない。

「おお……かわいいですね」

だがパイロのリアクションは思ったよりも薄かった。うーん、こっちは徹底してクール系か。

いやよく見ると口角が上がっている……私に挨拶したときより、ほんのわずかにだが上に。やっぱり好きなんだ、小動物。

「好きなんですよね、こういうの……おいしそうで」

「おっ!?」

『キュ?』

私は慌てて手を引っ込め、クルをポケットに戻した。聞き間違いか? 恐る恐るパイロの顔を見る。パイロは私を見て微笑み……

「ジョークです」

と言った。ジョーク? ホントに?

「すみません、私のジョークはわかりづらいからやめろと、妹にもよく窘められるのですが……好きでして、つい」

どうやら彼なりに私を楽しませようとしてくれたようだ。心臓に悪い。

しかし真面目な顔してしれっとジョークを飛ばすとは……思ったより面白い人なのかもしれない。

そうこうしているうちにフェルドも戻ってきた。報告はとりあえず今回の件とは関係のないことだったそうだ。

ともあれ、私たちは馬車に乗り込み、農村へと出発したのだった。