軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 お互いさま、でしょう?

フェルド・オーソクレース。

オーソクレースの第一王子……第一王子!?

「そ、それは、また……すごいですね?」

驚きのあまり変なことを言ってしまう。それなりに高位の貴族ではないかと思っていたが、まさかそれをすっ飛ばして王子とは! それも王位継承権を持つであろう第一王子!

そりゃあ紹介される宿も豪華なわけだ。貴族御用達どころか王室御用達だもの。まして宿屋街の宿などは、王族が視察の時に泊まるためだけに建てられた専用の宿だったに違いない。

「ふふっ、いやごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……人を驚かせるのは、思ったより愉快だね」

「わ、笑いごとじゃないですよこっちは!」

「ごめんごめん。謝罪も含め、落ち着いて話をしなくちゃね。まずは場所を移そうか」

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フェルドに促され通されたのは、またまたまた豪華な一室だった。なんかもう、ここのところ豪華な部屋を見過ぎて逆に感覚がマヒしそうだ。高級すぎて違いもよくわからないし。とりあえずベッドはふかふかだろう。

「ここは客室のひとつでね、長期の宿泊にもよく使われているよ。もしこの国に定住してくれるなら君に……っと、それよりも先に話をしようか」

フェルドはそう言うとあらためて襟を正す。

「まず、身分を隠していたことだ。これはさっきも言ったけど、君に余計なプレッシャーを与えたくなかった。王族だと明かせばどうしても萎縮してしまうと思ってね」

「それはまあ、たしかに」

貴族と王族ではやはり大きな差がある。もしフェルドが王族だと知っていたら、道中の馬車での会話を楽しむことも難しかっただろう。

個人的に『王族』に苦手意識もあるし……経験上ね。

「ただ……素性を隠していたのは、お互いさまだとは思わないかい?」

「え?」

含みのあるフェルドの言葉。私は別に素性を隠した覚えは……

……ある。思いっきり。

「君は、アルミナ王国の『宝石の聖女』だろう?」

私が隠していた異名を、フェルドはあっさりと言い放った。

「正直、アルミナ王国の国防の要、どんな宝よりも大事であろう宝石の聖女が、オーソクレース領の宿屋街にいたなんて信じられなかったけど……今までの君の振る舞い、そして僕を救った治癒の力。全てを鑑みて、そうだとしか思えなかったんだ。どうかな?」

どうやら相当の確信を持って言っているようだ。これは言い逃れできないだろう。

「……おっしゃる通りです。先日までアルミナ王国でそう呼ばれていました。すみません隠していて」

「いやいや、さっき言ったとおり、隠し事はお互いさま。僕のことも許してくれるかい」

「そ、それはもちろん!」

「よかった」

む、なるほどそういうことか。フェルドが素性を隠していたのは、私の方も素性を隠していたことを気負わせないためでもあったんだ。私から秘密を聞き出しやすくするため、あえて対等の立場を作った、と。

なんて賢い人なのだと、素直に感服した。アルミナ王とは大違いだ。

同時に……少し、警戒心が湧いた。ここまで賢く、計算高く、私を導いてきた王子。良い人なのは間違いないだろうが、利用されて捨てられた経験が、どうしても警鐘を鳴らしてしまう。

「私を宝石の聖女と知って、ここまで連れてきたフェルド様は……私に何か、望みがおありなのでは?」

あえて単刀直入に尋ねてみる。誤魔化すか、あるいは。

フェルドは私の言葉に一瞬意外そうな顔を見せた後……真剣な顔で、頷いた。

「……ジュリーナは僕たちの命の恩人だ。それには本当に感謝しているし、恩に報いたいと思っている。それは間違いなく僕の本心だ」

でも、とフェルドは言った。

「同時に僕はこの国の王子で、この国に住む全ての人々のために尽くしたいと思っている。だから君に……協力してもらいたいと願っていたのもまた事実。実はこの国の置かれた状況はあまり楽観的なものではない、助けが必要だったんだ」

フェルドはそう言うと、私に対し深々と頭を下げた。

「あらためてお願いしたい、ジュリーナ、いや宝石の聖女様。この国のために、お力を貸していただきたい。もちろんお礼は……」

「大丈夫ですフェルド様、お顔をお上げください」

フェルドは打算的に、私に利用価値があると思ってオーソクレースまで連れてきた。それもまた事実なんだろう。

だけどそれでいいとも思う。

王族が国のためを想い行動するのは当たり前。アルミナ王国という大国をこれまで守ってきた宝石の聖女が目の前にいて、何もしないという方がおかしいだろう。むしろ私を逃すまいとあれこれ手を尽くしたフェルドは王族として立派だと思う。

それにギブ&テイク、働きに対し相応の報酬、待遇。それは正しい姿だ。フェルドはそこに対し実に誠実に向き合ってくれた。宿を紹介し、食事を世話し、オーソクレースまで馬車に乗せてくれて……宝石店では私を信じ、助けてくれた。

私に聖女としての誇りやら慈悲やらは正直ない、仕事だからやっていただけだ。

でもそんな私だからこそ。

「フェルド様になら、喜んで協力させていただきます」

今は心から、そう言えた。

「聖女様……ありがとうございます!」

フェルドも心からの笑顔で返してくれた。気持ちのいい関係が作れたようだ。

「ただその、聖女様というのはおやめください! ジュリーナでいいです」

「そ、そうでしょうか? しかし……」

「ほらその、お互いさま、でしょう? 私たちの仲ですもの、必要以上に畏まる必要はないと思いますよ」

「……それもそうかもね。じゃあ君も、僕のことはフェルド、と呼んでくれるかな?」

「えっ!? いや王子様にそんな……」

「お互いさま、だろう?」

「う、う……」

困る私、それを楽しそうに見るフェルド。私たちはお互い見合って、ぷっと吹き出した。およそ王子と聖女がするような会話の雰囲気じゃなく、それがおかしかった。

「それじゃお言葉に甘えさせてもらいましょうか、フェルド。あらためてこれからよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく、ジュリーナ」

『キュ!』

「おっとごめん、クルもよろしくね」

『キュ~♪』

……こうして私はフェルドと打ち解け合い、あらためてオーソクレースへの定住を決めたのだった。