軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

497回目 胸の穴

『グゥッ!? 何だこれは!? 穴!? なんで穴が急に空く!?』

ヒトガミは自身の胸に突然開いた穴に狼狽している。いや、誰だってそんな事になればそうなるだろうが、本人も理由が解らないのか。

更にその穴は、ヒトガミが触れようとしても触れられ無いらしく、穴の少し前で手を弾かれている。

ただの穴じゃない? それに、ヒトガミを拒絶しているのだとしたら、あれは…………。

「…………まさか『奈落』か?」

『…………バカな。完全に消えた者が、それもただの矮小なニンゲンごときが、ヒトガミである我に何をすると言うのか』

「…………ただの人間だから、じゃねぇですかね?」

「何か解るのか、バルタ?」

「いえね、胸に大穴が空く気分ってのは、あっしも妹達がああなった時に、味わいやしたからね。アレが恐らく、闇の勇者ナラクの心にあった『胸の穴』なんでしょうぜ」

「奈落の『胸の穴』…………」

確か奈落は、自分の暮らしていた街をスキルの暴走で滅ぼした『闇の勇者』だったな。犠牲となったその中には、奈落の妻子も含まれていたと言う。

そんな事があれば、ましてそれが自分のスキルによって起きた事だと言うのなら、そりゃ胸に大穴の一つも空くだろう。

『グッ!? こ、今度は何だ…………!?』

胸に大穴が空いたヒトガミが身を捩る。すると、胸に空いた穴の中でバチバチと白い放電と青い火花が散り始めた。

そしてその穴の中に虹色のモヤが出現し、その中心から、荒く削られた像が現れた。

「『郷愁の禍津像』!?」

ヒトガミの胸の穴に現れた一つの像だったが、現れた途端にヒビが走り、その一部が砕けた!

その中に入っていたのは、一部しか見えていないがどうやら『骨』だ。真っ白な骨に、何やら赤い文字の様な物が彫り込まれているような、『骨』。

『バ! バカな!! 何故それが出て来る!?』

俺達の前に現れて以来、常に余裕を崩さなかったヒトガミが、ここに来て目に見えて狼狽していた。何とか胸に手を入れて『骨』を掴もうとするが、その胸の穴に謎の力で弾かれてヒトガミは手を入れられないでいた。

あの『骨』が何なのかはまだ解らない。だが、どうやら隠していた様子もあり、俺達に知られたくなかった何かである事は間違いない。

それならもちろん、攻撃しない手はないのだ。

「やるぞ! アレス! バルタ!」

「はい!!」

「いきやすぜ!!」

三人同時にヒトガミに斬り掛かる! 狙うはヒトガミの胸の穴だ。当然ヒトガミもそれを読み、反撃もしてくる。

『舐めるな貴様ら!!』

ヒトガミは自身の身体を変化させて腕を増やし、その全ての腕の先を剣のように鋭くして、俺達の攻撃を防いだ。

自らの身体の形を変え、硬さを変えての対処は今まで通り、ではあるが。

「ガモン殿!!」

「ああ、チャンスだ! 畳み掛けるぞ!!」

俺達はその動きを見て、チャンスだと捉えた。

何故なら、確かに防ぎ方自体は今まで通りだが、足りないからだ。

今までならば、防いだ後には必ず反撃があった。それは例えばヒトガミの足元から突き出してくる影の槍だったり。

攻撃を防ぐと同時に生えた新しい腕での攻撃だったりした。

だが今回は、それが無い。更に言えば、ヒトガミの身体の動きも悪くなっている。

その原因となっているのは、やはりあの『胸の穴』なのだ。あの穴がヒトガミの身体の変化を邪魔しているから、ヒトガミは前ほど自由に身体を動かせないでいた。

「手を止めるな! 攻め続けるんだ!!」

『グウゥッ!?』

常に余裕を見せ、やたらと気に障る甲高い声で笑っていたヒトガミから、笑い声が無くなった。

それはそうだ。一見すると関係なく見えるが、身体は連動している。腕を骨折でもして吊っている時は、バランスが崩れて歩き方に相応の負担を強いるものだ。

それが胸の大穴ともなれば、動きがおかしくなるのも当然。…………つまりは。

「今が倒す千載一遇! 覚悟しろ! ヒトガミ!!」

『バカが!! 多少動きに不便が出ても、我は不死身だ! 貴様らニンゲン如きに倒されなどしない!!』

ヒトガミの言う通り、三人で同時に掛かってなお、俺達はヒトガミを倒す決定打を打てずにいた。どんなに斬ってもヒトガミのダメージにはならず、怯ませることも出来ていなかった。

だが、ヒトガミもまた焦りがあるのも確かだ。それほどまでに、『胸の穴』とそこに見える『骨』は厄介なのだろう。

「ガモン!! 離れて!!」

「!!」

それは、カーネリアの声だった。

ヒトガミと斬り結んでいた俺は、その声に反応して『ヘルメスの靴』に魔力を込めて、後ろへと大きく跳んだ。

アレスとバルタもまた、カーネリアが何かをするつもりだと悟って後ろに引く。

そして俺達三人が逃げたタイミングで、カーネリアの放った、空を覆わんばかりの『極大火球』がヒトガミへと撃ち込まれ、大きく渦を巻く火柱となった!

それは、カーネリアが持つ最大の魔法だ。俺達がヒトガミに攻撃を続ける中で、シエラは治癒魔法を俺達に飛ばして援護をし、カーネリアは最大火力をぶつける為に魔力を練り上げていたのだ。

…………当然、これで終わりだとか甘い事は考えていない。だが、この戦いの終わりは、確かに近づいていた。