軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

475回目 真の狂乱

魔王になったと宣言した奈落が手を広げると、床に闇が広がり、そこから黒い痣が、まるで茨の様に身体中に巻き付いている『聖エタルシス教会』の信者達がせり上がって来た。

彼らは一様に生気が無く、真っ赤になった眼から赤黒い血の涙を流し、その口から覗く下は青く変色していた。

気配で解る。あれは『眷族』だ。奈落は最悪な事に、『聖エタルシス教会』の信徒を元にして、眷族を作ったようだ。

あの様子では、眷族にされた者達は既に死んでいるだろう。その姿はまるで、ゾンビのようだった。

「まさか!? ドートニー枢機卿まで!?」

仲間達の方から、シエラの叫び声が聞こえた。その言葉に俺は眷族ゾンビ達を見渡した。すると確かに、その眷族ゾンビの中には、シエラの上司であるドートニー枢機卿の姿があった。

そして事ここに至って、ようやく俺のスキルが『緊急クエスト』を知らせて来た。…………いくら何でも遅すぎる。

これは恐らく奈落が、いや奈落のスキルが、神々の眼すら欺く力を持っていると言う事なのだろう。

《緊急クエスト》

『魔王『ナラク』の討伐!! (期限:三日)』

・かつての『勇者』が闇に堕ち、『郷愁の禍津像・ヒト』を体内に取り込み、魔王『ヒト』をも取り込み魔王となってしまった。ナラクの勇者スキルの闇は、すでに西の大陸を死の大地に変えてしまっている。これ以上被害が広がる前に、魔王『ナラク』を討伐してほしい!!

依頼主:暗黒神『メルアネク』

報酬:『☆5クラッシュレア・進化チケット』

ザッと眼を通したが、予想以上にヤバイ事になっているようだ。

それにしてもコイツ、本当に神々の眼を欺けるらしいな。しかも魔王『ヒト』か。…………いや、人間だって動物だし、俺も『ヒト』の禍津像がある可能性を考えた事くらいはあるが、こんな形で出て来るとは思っていなかった。

そして、こうしている間にも眷族ゾンビは増えていくが、同時に戦える者達も集まりつつある中で、奈落の前に出たのは、シエラだった。

シエラの目元には、涙を流しそれを拭った跡もあったが、その顔に浮かんでいるのは悲しみよりも怒りだった。

その手は強く握り締められ、右手に持った☆5『轟雷の神杖』を奈落に突き付け、叫んだ!

「マッカシー枢機卿!!…………いえ違いますね! 魔王『ナラク』!! なぜこんな事が出来るのです!!」

『…………こんな事とは?』

「…………っ!? …………貴方がこんな姿にした人達の中には、貴方が昔から知る友人も! 同僚も! 教え子達だっていたでしょう!! なぜこんな事が出来るのです!! 貴方にとっても、大切な人達である筈でしょう!!」

『いや、全く』

「!?」

シエラの叫びは至極真っ当で、それは心の底からの魂の叫びだった。

だが、奈落はその叫びに眉ひとつ動かさず、淡々と答えた。シエラの言う大切な者達は、奈落にとっては全くの無価値だと、そう察するのに余りある態度だった。

だから解った。コイツは完全に壊れている。

この奈落と言う男に何があったのかは知らない。知っている事よりも、圧倒的に知らない事の方が多いのは確かだ。

俺は、シエラと奈落が話している間に身に付けた☆5装備を確認しながら前に出る。

自分の言葉が何一つ届かないと理解してうつむくシエラの肩を叩き、彼女をティアナに任せて奈落の前に立った。

「魔王『奈落』。神々の眼を欺いていたのには驚きだけど、今回の事でバレたぞ? 俺のスキルに、お前の討伐クエストが出て来た」

『もはや隠す意味もないからな。…………フン。なるほど、ずいぶんと囲まれているな』

「お前がどれ程強いのかは解らないが、いくら眷族がいるとは言っても、この人数を相手に勝てるつもりか?」

俺の言葉に、奈落とその眷族ゾンビを囲む仲間達と各種族の戦士達が武器を構えた。

『この人数に勝てるかだと? そんな訳ないだろう。コイツらは足止めだ。俺は最初から、ここで戦う気は無いからな』

「…………なに?」

刹那、俺達のいる神殿の柱から、俺に向かって闇の触手が伸びた! 俺の体は、その内の何本かに絡め取られて宙に浮いた。

同時に、俺に伸びる影の触手を邪魔しようとしたアレスやシエラ、バルタにカーネリアも、闇の触手に腕や脚を捕まれていた。

…………油断した。コイツはずっと、自身が操る闇を、柱などの側に潜ませていたのだ!

『…………余計な物もくっついて来たな。だがまぁ、同じ事か』

「くそっ!? なんだこれは!!」

闇の触手は、俺達をしっかりと捕まえているが実体が無く、剣やナイフで斬っても瞬時に再生してしまう。

『慌てる必要はない、それはただの道だ。…………勇者ガモン。俺の領域に、招待しよう。お前を殺す為に』

奈落の言葉と共に、俺の視界が暗転した。そして次の瞬間には地面に投げ出され、俺は突如として、見も知らぬ荒野に放り出されていた。闇の触手と接していた仲間と共に…………。