軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

468回目 滅びを望む者

シエラが所属している場所でもある『聖エタルシス教会』。そこで枢機卿をしている者の中に『マッカシー=レレブスター』と言う枢機卿がいた。

ティアナの父、レクター=カラーズカがテルゲン王国の王となる際に、戴冠式を執り行った枢機卿である。

彼が得意とするのは魔法で、強力な光の魔法を使い、更に治癒魔法では死んでから僅かな時間しか経っていない者を生き返らせる事すら出来る『奇跡の人』だ。

当然信者からの人気も高く、次の教皇へと推す者は信者だけでなく、王侯貴族の中にすらいた。

だが信者の一部、同じ枢機卿の一部にはマッカシーを危険視する者もいる。それは偶然に、マッカシーの闇を覗き見てしまった者達だった。

しかし、それは極一部に過ぎず、マッカシーは圧倒的な人気の下で次期教皇に一番近い席に座っていたのである。

「猊下、やはり『レナスティア』に入り込むのは難しそうです。上手く国に取り入っていた者達も、あの『レティア』と言う魔導生命体の審査を抜けられませんでした」

「…………フム。やはり勇者のスキルの一部なだけはあるか。敵の情報は得られないか。…………しかし、これもまた試練ゆえだな。まあ苦難が増えたところで、私の道は変わらぬ」

マッカシーの執務室にて、机の上の書類から視線も上げずに答えるマッカシーに対して、部屋の隅で頭を垂れているのは暗部の指揮官である。

神の代弁者たる『聖エタルシス教会』において、汚れ仕事を請け負う暗部は、枢機卿の中でもそれなりの地位に居なければ存在も知らぬ教会の『闇』だ。

その設立者はマッカシーであり、暗部の指揮官は、誰にも知られていないがマッカシーが愛人に産ませた息子である。

だが、そこに親子の親愛などある筈もなく、マッカシーにとって息子はただの道具に過ぎず、暗部の指揮官にとっても父は自身の使い手に過ぎなかった。

その証拠に、マッカシーは同じ部屋の中にいる息子に一切の興味も無く、その姿を視界に入れようともしないのだ。

「しかし、やはり空の上は厄介です。強力な結界もあるので、奴等が空にいる限り打つ手がありません」

「…………であれば、やはり時期が来たと言う事だろう。私が決行日に選んだ日は正しかったのだ。神がそう言っておられる」

そう言って顔を上げたマッカシーの視線の先には、大きな絵が掛けてあった。それはマッカシーが自身で描き上げた大作『滅びの日』。

その絵には、世界を襲う滅びと、それに立ち向かう者達が描かれているのだが、立ち向かう者達の顔は一人残らず絶望している。すでに決まってしまった滅びに絶望しながらも、それを受け入れていながらも、歯を食いしばり心を震い立たせている。そんな絵だ。

「…………滅びが近い。神が定めた滅びであるが、人々はそれに抗うだろう。歯を食いしばり、涙に濡れながらも抗い、しかし神の定めた滅びを覆す事が出来ずに死に絶える。その様は、さぞや美しかろう…………」

世にある物は、何であれ滅びる。それは真理だ。世の中に始まりの解らない物は数あれど、それが滅びに向かって進んでいる事に疑いの余地はなく、如何にして滅びるかが重要だとマッカシーは考えていた。

マッカシー枢機卿は、暗く歪んだ『破滅願望』を抱えているのだ。

「では、決行日に変更は無いのですね?」

「無い。決行日は勇者の婚約式が行われる日だ」

そう口にして、マッカシーは虫でも追い払うように手を払い、それを感じ取った暗部は影に消えた。

「…………クククク。これで世界が終わる。そしてようやく、私も終わる…………」

おもむろに立ち上がり、『滅びの日』の前に立ったマッカシー枢機卿が自身の体に魔力を込めると、その肌の表面には幾つもの光の回路が浮かび上がった。

それは『魔力回路』と言う、自身の体に魔力を刻み、魔法を使える様にする回路である。

本来、『魔力回路』と言う物は重なり合う事は無い。人の体に刻む事が出来る回路には限りがあり、よほど注意深く刻む場所を吟味して操作しなければ、余白ばかりのスカスカ状態になり、使える魔法も少なくなる。全てをキッチリとミクロ単位で敷き詰め、全ての属性魔法を習得したのは大魔導師『ドゥルク=マインド』ただ一人である。

だが、マッカシーの体に刻まれた魔力回路は重なり合っており、更にその全てが生きていた。

何故そんな事が可能なのか。その理由が、徐々に露になる。

魔力回路の明滅と共にマッカシーの体が波打ち、いたる所で波紋が広がるようにぶつかっては新たな波紋を生んでいく。

そうしてその全てが収まった時。そこには黒髪黒目の少年が立っていた。

我聞がその姿を見れば、間違いなく驚いただろう。そして駆け寄ったに違いない。何故ならその顔立ちは、日本人のソレなのだから。

その少年の名は『黒部 奈落』。まだ宇宙にある『方舟』が不安定で、魔王を落としていた大昔に『勇者召喚』によってこの世界にやって来た日本人である。