作品タイトル不明
427回目 『ケガレ者』
世に言う『希少鉱石』とは、鉄や銀や金などが、魔力やモンスターの影響を受けて時間をかけて変質した物を指す。
鉄は『ダマスカス』になり銅は『ヒヒイロカネ』、銀は『ミスリル』となって金は『オリハルコン』になる。
そして『アダマンタイト』はダンジョンからしか入手できず、『アンオブタニウム』についてドワーフな何の情報も持っていない。未知の金属である。
ちなみに白金は、様々な希少金属を加工する時に必要になる希少素材である。必要な量こそ少ないが、希少金属、それも上位の物を加工するなら、白金がないと何も出来ないまであるのだ。
「この火山地帯ってのは、その『オリハルコン』までの希少金属が全て採掘できる特殊な地でな。それもこの火山地帯の山脈全てを 甲(・) 羅(・) と(・) し(・) て(・) 持(・) つ(・) 『神獣』が地下深くに眠っているからなんだ」
「……………………え? は!? この火山地帯を? この火山地帯の山々が『神獣の甲羅』だって言ったのか、今!?」
「おう、その通りだ。ここは亀の『神獣』である『ラーヴァゼタートル』の甲羅の上だ。この火山地帯の溶岩が冷え難くて流れてるのは、その神獣が飲み込んだ溶岩に神獣の血が混じっているからだ。それが白金の代わりに希少金属の加工に使えるから、俺達はその溶岩をも大切に扱っている」
「…………いや、もう規模が大き過ぎて何が何やら」
「まぁそんな訳で、俺達は神獣と共存共栄でやっている…………つもりだった」
「つもり? …………と言うと?」
「自分が動けねぇのをいい事に、甲羅の上を勝手に掘り進められて愉快な気持ちになるヤツはいねぇって事だな」
ドワーフとしては、背中の火山を掘り進めて鉱石を採取しつつ、神獣である『ラーヴァゼタートル』の背中を他の者達から護っているつもりだった。
背中の平和は俺達が護るから、対価として鉱石を掘らせてね。と、お互い持ちつ持たれつでやっていけていると、勝手に考えていた。
しかし神獣の真実の気持ちは、『人の背中で毎日カンカン言わせやがって! ウゼェ!!』と言う気持ちだったようだ。
そのイライラから来る負の感情は、『ラーヴァゼタートル』の体から瘴気を生み出した。『ラーヴァゼタートル』自体はその巨体さもあって、この程度の瘴気は何でもない。人がイライラのあまりに貧乏揺すりをする程度のものだ。
だが、その神獣の背中に暮らすドワーフやモンスターにとっては、自らの体を変質させるほどの量と濃度だったのだ。
「単純な疑問を聞いていいですか? …………引っ越さないの?」
「ここほど鍛冶に向いている地なんか他にねぇんだよ」
「…………それはそうかも知れないけど」
「ともかくだ。その当時、俺達は火山地帯の表面は掘れるだけ掘っちまっててな。地中に掘り進んで広げた場所を中継地として使っていたんだ。より甲羅の近くまで掘り進める為にな」
かなり広めに掘ったその場所は時間をかけて更に大きく広くなり、最初は天幕だったものから家が建ち、徐々にひとつの町のようになっていったそうだ。
ドアルガン達は、いずれはその場所を第二のドワーフの里にするつもりだった。
そんな中で、神獣のイライラから発生した瘴気は徐々に上へと進んでいき、とうとう中継地に溢れ始めた。
それが始まったのが真夜中だったのは、もはや運が悪かったとしか言えず、その為に中継地で寝泊まりをしていた多くのドワーフが瘴気に晒されてしまった。
瘴気はドワーフの体に入り込み手足の末端から腐らせた。その場にいたドワーフのほとんどは命こそ無事だったが手や足を失い、二度と鍛冶の出来ない体になってしまった。
「ワシらの親や兄弟もやられての、瘴気に濃く侵された手足を切断してそれ以上の侵食は止められたが、体内には瘴気が残ってしまった。ただの瘴気ならばそこまではならぬのだが相手は神獣の瘴気だ、その事故から既に数百年は経っとるが、瘴気が完全に消える事はなかった」
「我らも治療法は探したのですが、神獣の瘴気は強力で、あの『エリクサー』ですら手足を再生させる事はできませんでした。『エリクサー』が浸透するのを、瘴気が邪魔したのです」
瘴気に侵されて手足を失ったドワーフ達は「ケガレ者」と呼ばれている。彼らは既に鍛冶仕事が出来る体ではないのだが、どうしても彼らは鍛冶に、そして里に貢献をしたかった。
彼らの造った中継地は、今も瘴気に侵されている。濃度こそ薄くなったが、それでも立ち入るには覚悟が必要だ。
さらに瘴気が満たされた事によって、そこには岩石系のモンスターまで出現する様になった。希少鉱石を核として、瘴気によって生み出されたその存在は、倒せば希少鉱石が手に入る新たな鉱床となった。
「半分ダンジョンと化した訳だが、やつらは瘴気の外には中々出て来ない。そこでケガレ者達が、その瘴気の中に入ってモンスターを釣り上げて引っ張ってくる事になった。言っとくが無理にやらせている訳じゃねぇぞ? これはあいつらが、里の役に立ちたいと願い出てくれた事だ」
ケガレ者達の中には、足がダメになった者もいるが、彼らは彼らで、あまり里の儲けにはならないような釘やネジなんかの細かな製品を作っているそうだ。
ドアルガンが長く抱える願いとは、いつかケガレ者たる彼らを治し、再び鍛冶仕事をやらせてあげる事であるようだ。