作品タイトル不明
413回目 一生に一度の事だから
「わぁーーっ! ガモンが私達にもナイショで何かしているのは知ってたけど、ここを作っていたの? 温室だっけ? まさかこんなに凄いのを作ってるとは思わなかった! ありがとうガモン! 私を一番に招待してくれて!」
「喜ぶのはまだ早いぞティアナ。さぁ、案内するよ」
俺がそう言って手を差し出すと、ティアナは微笑んで俺の手に手を重ねた。
この温室の最初にあるのは広々とした花壇だ。その花の種類や本来咲く季節によって分けられた花壇が、見渡す限り広がっている。
花も雑多に植えるのではなく、色合いによってグラデーションを作るように配置されている。
この花の一つ一つもガチャアイテムと同じ様なもので、美しく咲き誇るそれは魔力を糧に咲いている。つまり季節関係なく、魔力がある限り咲き続ける花なのだ。
ただ、ずっと咲いていては花も疲れるらしいので、咲いている時間と咲いていない時間を作り花を休ませてもいる。その管理を『ドール騎士メイド』であるサクラに一任しているのだ。
「この花もこの花も、冬には咲かない花だし、テルゲン王国にも無い種類だよね? それに色も、私の知らない色があるわ」
「うん、何でも花の色は土の成分と魔力の濃度とかによって変わるらしいな。さらに魔力の性質を変化させると色や形状を変える花もあるとかで、まだこの世にはない色や形状もあるらしいぞ? 今のところそれを見られるのは、この温室だけだ」
「え、それって凄いね! 花の色とかを研究している人達も知らない物がここに咲いているんでしょ?」
「そうだな。正直俺もレティアやここの管理を任せたサクラに聞いただけで詳しくは無いけど、花の研究をしている人達に教えたら喜ぶかもな」
「うーーん、ビックリし過ぎてひっくり返っちゃいそうかな」
「…………確かに」
それに、ここに連れて来いと言われても困るしな、余計な事はしないのが一番か。
「春の花、夏の花、秋の花、冬の花。ねぇ、ガモンはどの季節の花が好き?」
「俺か? …………やっぱり春かな、俺の国の春は特別な花が咲くんだよ」
「特別な花? どれの事?」
「それは後のお楽しみだ。ティアナの好きなのはどの季節の花なんだ?」
「私は夏かな。夏の花が一番鮮やかな気がするの。私はテルゲン王国の中で友人を作るのも難しかったから、ほとんど屋敷で過ごしたりする事が多かったんだけど、リメイアの所に行って花畑を見に行ったりするのが、凄く楽しい時間だったの」
夏の花か。俺としては、夏と言えばヒマワリのイメージが強い。元気な花の代表格な感じもあるし、俺も嫌いではない。小学生の頃なんかは、ヒマワリの種を食った事もあるし。
夏の花壇の方を見れば、ここでもヒマワリには真ん中の区画を用意して、円形の花壇をヒマワリでいっぱいにしてあるからな。でも、夏の花が一番鮮やかに感じるのは、きっとリメイアとの思い出が鮮やかだからだと思う。
季節の花を堪能したあとは、植物で作られた迷路に入る。
迷路と言っても難しい物ではなく、壁となっている樹木の鮮やかな緑や、そこに巻きつく蔦植物の花を楽しむ為の迷路だ。薔薇で作ったアーチや、藤の垂れ下がる屋根なんかも作ってある。
迷路の途中にも花壇や噴水を作ってあるし、噴水では水に浮かぶ花も楽しみながら、俺とティアナは進んでいった。
最初繋いでいた手は、いつの間にか腕を組む形に変わっており、俺達はそのままの状態で迷路を抜けた。
「わぁ…………!」
温室の最後は、『桜のある丘』だ。
当初は桜を丘の上に一本だけ据えるつもりだったが、今では一番上の桜の周囲を大きめに開けて、そこよりも下も桜で埋め尽くしてある。
だから外から見れば丘が丸々桜に埋め尽くされている様に見える訳だ。その様子は、フワフワでピンク色の山のようだ。
「これって…………『桜』よね?」
「お、知っていたか」
「うん、勇者の国に咲く花って事で有名よ? 確か山に自生していたヤツを見つけて植え替えた、って話があった筈だわ。…………ああ、そうね。ガモンの国の花って言ってたものね」
「そっか、これを見せて驚かせたかったんだけどな」
「十分驚いたわ。こんなに綺麗な桜は初めてだし、桜に埋めつくされた丘なんて、初めて見たもの」
満面の笑みで言うティアナは、決してお世辞ではなく本心からそう言っているのが解った。それなら良かったと、俺はティアナを促して桜の丘を登り始めた。
温室のドーム越しだが、青空の広がる中でティアナと腕を組んで桜並木を歩く。出来るだけゆっくりと歩いて丘の上にいけば、ひときわ見事な桜が、俺達を出迎えてくれた。
「凄い…………。こんなに美しい場所は初めてね。桜に囲まれて、更に大きな桜の木の下にいるわ」
桜に囲まれた美しい場所に、心から感動してくれるティアナ。
良かった。俺がこの場所を作ったのはこの為だ。
「…………この場所はさ、俺が自分の一生の中で一番綺麗だと思った場所をモデルにしたんだ」
「…………ガモンの?」
「まだほんの子供の頃の記憶だから曖昧で、実は実際の物よりも誇張して記憶しているのかも知れないけど、俺はこういう大きな桜がある丘から、桜並木を眺めた記憶があるんだよ。…………もうすっかり忘れていて、あれが何処だったのかも解らないけど…………俺の中にある、一番綺麗な記憶なんだ」
「…………そうなのね。それを、私にも見せたいと思ってくれたの?」
「……………………こういうのは経験がなくて、ザックリと雰囲気が大切だと思っていたから、最高の場所を用意したかったんだ。だって、一生に一度の事だから」
俺はティアナに近づくと、小さな箱を取り出した。
ガチャアイテムはそのまま出て来ちゃうから、この箱はレティアに作って貰ったものだけど、大事なのは中身だ。
「…………指輪…………」
「うん。☆5のアクセサリー装備で『加護の指輪』だよ。俺が用意できる一番の物は、やっぱりガチャから出て来る物になっちゃうからな。でも、ここには俺の気持ちも籠っている」
俺は片膝をつくと指輪の入った箱を差し出して、ティアナにプロポーズをした。
「俺と結婚してくれるか? ティアナ」
「…………!!」
俺の言葉に、ティアナは満面の笑みを浮かべて大きく頷くと、俺の手を包み込むように、指輪を受け取ってくれた。