軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

273回目 ゆるい規定

映画を見終わったのか、ヴァティーが戻って来た。よほど感動したのか、その目を泣き張らしている。

『よ、よがっだのぅ。ごれほど感涙するのはひざじぶりよのぅ…………!』

まだ感動を引きずっているのか、顔は笑顔だが鼻声だ。長いこと、このダンジョンに引き籠もっているヴァティーにとって、テレビの世界は刺激が強かったらしい。

『アルジャーノン! 何を途中でいなくなっとるのだ! 感動を分かち合えなかったではないか! あとでもう一度みるぞ! その時は一緒に見るのだ!!』

「はいはい。それはともかくとして、ヴァティーにお話があります」

『む? 何かの?』

俺達のテーブルについたヴァティーにお茶を出し、ヴァティーがそれを飲んで少し落ち着いた所で、俺達は話を切り出した。

『…………むぅ。『技巧神の大工房』とな? …………よもや『神』がそこまで肩入れするとはの。『天界規定』から考えればギリギリよの』

「…………『天界規定』ってなんです?」

『うむ。『神』と言う存在は言うまでもなく高次元の存在よ。ゆえにあまり低次元の世界に関わると、それだけで世界を壊してしまいかねん。生物や自然が食物を循環して存在しておるように、次元と言うのも隔絶しておるようで、そう言う意味合いでは繋がっておる。低次元の崩壊は、高次元に少なからず影響を与えるので、高次元存在が低次元に手を出す事は自らの首を優しく絞めるようなものよ。…………要は『あまり良くない事だから、気を付けよう』という決まり事よな』

ほほぅ。そんな決まり事があるのか。神様ってのも、案外しがらみが多いらしい。

「でも、ヴァティー様はここにいますよね。大丈夫なんですか?」

『妾は最大限に力を落としておるからな。だがまぁ、それはともかくとして、だの。『神』の名を冠する程の工房か。アルジャーノンは使ってみたかろうの』

ヴァティーは悩むように腕を組んで天井を見上げると、少しして頷いた。

『この場からガモンの所に直接『転移』できるのであれば、妾にも益のある話よの。だからこのダンジョン内にガモンの拠点を作る事も、アルジャーノンがガモンのクランに在籍する事も反対はせん。…………ただのぅ…………』

「何か気になる事でもありますか?」

『…………羨ましい。なぜ妾はフレンドになれぬのか、それが悔しいのぅ…………』

まあ気持ちは解るけども。そんな事を言われてもなぁ…………。

『のうガモン、ダメ元でもう一度だけ見てくれんかの? 妾はどうしてもフレンドになれぬのか?』

すがるように上目遣いをしてくるヴァティーがあざとい。今はホムンクルスの姿だから、普通の美少女なのだ、中身がアレだと解っていても、ホントにあざとい。

「ま、まぁもう一度みるくらいは構いませんけど、流石に無いと…………。あれ?」

ヴァティーに泣き付かれて、フレンド登録ができるリストを開いてみたのだが、その最後に『ヴァティー』の名前があった。

え? なんで? 人間しか登録できないんじゃないの?

「…………ある。『ヴァティー』の名前が…………」

『本当か!?』

「えっ!? ヴァティーが登録できる!?」

「マジですかい!?」

『そそ、それ早く登録じゃ!! 消えてしまう前にフレンド登録をしてたもれ!!』

「お、おう!!」

俺はすぐさまヴァティーをフレンドとして登録した。そしてフレンドになった証として、軽く『フレンド・チャット』を教えたら、ヴァティーは飛び回って喜んだ。

『これは良い! これは良いのぅ! 妾の退屈はもう終わりそうだの!』

調子にのったヴァティーは『フレンド・チャット』を使って目の前にいるアルジャーノンとチャットをしている。口に出しながらのチャットって何か意味があるのか? とは思うが、楽しくて仕方がない子供のようなものだと考える事にした。

それにしても、女神がフレンドになっちゃったな。…………いやぁ、アレが俺のフレンドかぁ…………。

そんな事を考えながらヴァティーの本体を見上げていると、後ろから焦ったような声が聞こえた。

『む!? な、なんじゃ、チャットが出来なくなったぞ!? ガ、ガモンよ! チャットが消えたぞ! どういう事かの!?』

「えっ?」

急にヴァティーにそんな事を言われたので、フレンド一覧を見てみると、ヴァティーの名前だけが灰色になっていた。他の名前と違って、光が抜けたような色合いだ。

『こ、これ! どうなっておるのだ!?』

「待って! ちょっと待って! 揺らさないで!!」

すがり付いて来たヴァティーにガクガクと揺らされながらスキルの画面を見ていると、ヴァティーの名前に光が戻った。そしてヴァティーの目の前にもチャットの画面が戻ったみたいで、ヴァティーも少し落ち着いた。

…………いったいどういう事なのか?

「……………………もしかして…………? ガモンくん、ちょっとヴァティーの本体を見上げてみてください」

「お、おう」

アルジャーノンに言われてヴァティーの本体を見上げる。するとまた、ヴァティーは『フレンド・チャット』を使えなくなったらしい。

「ガモンくん、今度はこちらのヴァティーをよく見て」

何となく状況を察した俺が、ホムンクルスのヴァティーを眺めていると、ヴァティーのチャットが再び復活した。

「…………どうやら、人間しかフレンド登録出来ないって決まりは確かにあるらしいけど、その裁定はガモンくんに一任されるみたいだね。ガモンくんが『人間』だと判断すれば、誰とでもフレンドになれるみたいだね」

…………マジで? 俺のスキルって、そんなにゆるい規定で動いてたの?