軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258回目 邪眼族

「…………今なら話しても大丈夫ですぜ。一フロアに邪眼族は一体だけですんで、今は安全でさぁ」

バルタが倒れている邪眼族の側でそんな事を言うので、近づいてみたのだが、倒れている邪眼族は確かにピクリとも動かないが、眼がガッツリ開いていて視線が合い、俺は思わずビクリと震えてしまった。

「…………マジで? 眼が開いてんだけど」

「蛇ですからね。そりゃ気絶しても眼は開いてやすぜ。瞼がねぇですからね」

蛇ってそうだっけ? と、さらに近づいて見てみる。…………確かに眼の焦点は合ってないな。コッチを見ているようで見ていない。ちゃんと気絶している様だ。

「そういやバルタ。邪眼族ってのは『邪眼』を持っているって言ってたよな? 大丈夫なのかこれ?」

「問題ありやせんぜ。邪眼族の『邪眼』は第三の眼なんで、額の所がバックリ開いてなければ平気ですぜ。もし開いていて魔力が通っていたなら、3秒程で石にされやすがね」

「…………マジかよ」

俺はついビビって倒れている邪眼族から距離を取った。だがバルタは、おもむろに邪眼族の側にしゃがみ込むと、何やら邪眼族の懐を探りはじめていた。

「何してんだバルタ?」

「ちょっと待っててくだせぇ。…………お、あったあった」

バルタが邪眼族から探り出したのは、手の平サイズのメダルだった。そこには蛇の頭を持ち、上半身は人で下半身が丸ごと蛇という姿をした彫刻が掘られていた。

「それは?」

「これは邪眼族の崇める、女神のレリーフメダルでさぁ」

「…………女神?」

バルタは女神だと言うが、そのレリーフの上半身には厚い胸板がある。この胸板を見て『女神』だって言うのは、ちょっと無理がないか?

「言いたい事は分かりやすがね? 基本的には蛇なんで胸が必要無いだけでさぁ。ほら、ここに卵を抱いているのが分かりやすかい?」

バルタが差し出して来たそれを見ると、確かに掘られている女神は、その蛇の下半身で大きな卵を抱いていた。

なるほど、邪眼族の女神か。モンスターにも信仰ってものがあるらしい。

「このレリーフメダルは階級を表しているのか、階層が深くなるほど素材が変わるんですぜ。邪眼族から剥ぎ取っても邪魔にならず、金になるのはこれくらいなんで、これだけは回収しやすぜ」

「お、おう」

…………信仰の対象を奪うってのはちょっとアレだが、ダンジョンに来た以上、手ブラでは帰れないのも事実。邪眼族を殺せない以上は魔石とかも手に入らない訳だから、これくらいは貰っておこう。

「じゃあ次にいきやすぜ。いつまでもここにいると、毒が襲ってきやすからね」

「ああ、言ってたな」

このダンジョンに入る前に、バルタから聞かされた注意事項にそれはあった。

このダンジョン、一フロアに長く留まると、壁や床から毒が染み出して来るらしい。

それが結構ヤバイ毒であるらしく、身体機能にダメージがあるだけでなく、装備が腐食するとか。そんなもんを邪眼族と戦う前にくらったら一溜りもないし、倒した後だとしても、そんなダメージをくらって次に行ったらジリ貧でやられてしまう。

このダンジョンは、幾つかある安全エリア以外では、休憩する事も儘ならないダンジョンなのだ。まさに最難関。

そんな事情もあるので、俺達は先を急いだ。そして、ある一ヶ所で立ち止まる。

そこは壁や床に、まるで巨大な肋骨のような物が埋め込まれている場所だ。それが天井から壁に床と、グルリと一周している。ここが、フロアの切り替え場所なのだ。

つまりこの骨を跨いでしまえば、そこはもう別フロアであり、邪眼族がまた一体だけ居る訳だ。そしてそのフロアを四つ繋げたものが一階層となるらしい。

「……………………(クイクイ)」

「…………(コクリ)」

まだフロアを跨ぐ手前だが、バルタが何も言わずに合図を送って来たので、俺も口をつぐんだ。

そしてフロアを跨ぎ、そのフロアを見回る邪眼族を発見し、バルタがスリングショットを使って一撃を与えて気絶させる。

後はこの繰り返しである。それは階層が変わってもだ。階層を進むと、邪眼族の装備が良くなったり持っているレリーフメダルの材質が変わったりはするが、作業としては単調な作業だ。

このダンジョンは敵は邪眼族しか居ないし、一フロアに居るのも固定で一体だ。その代わり、このダンジョンでは宝箱も見ないし、手に入るのは邪眼族の持つ女神のレリーフメダルだけだ。

にも関わらず超絶難易度の最難関ダンジョン。そりゃ誰も来ないし攻略もされない訳だ。

階層を進んでいると、八階層と九階層の間に初めての扉があった。道を塞いでいるのではなく、壁に埋め込まれている扉だ。

このダンジョンに来て初めて見る扉に。ああ、ここは本当にダンジョンなんだなと再認識した。何だかあまりにも代わり映えしない景色に、洞窟をただ進んでいる様な気になっていたのだ。

「ふぅ。旦那、この中は安全地帯ですんで、今日はここまでにしやしょう」

「ああ、そうしよう。…………何もしてないのに、やたら疲れた」

「ここに連れて来た奴は、皆そう言いやすぜ。まあ、今日は早く休みやしょうや」

ダンジョン『邪眼族の螺旋迷宮』、一日目終了。…………先がどれだけあるのか知らないが、これを何日も続けるとなると気が滅入るな…………。