作品タイトル不明
176回目 創造神話
タミナルの街を出発して三日目。
ジョルダン王国の王都『ジョネイブ』まであと少しとなった所で、俺達は『◇キャンピングカー』に乗ったままで王都へ入る偽装工作の為に外に出ていた。
いや実際にそれをやるのはドゥルクなんだけどな。そのドゥルクは今、アルグレゴ小隊が乗る馬を用意するために、ここではない別の世界に繋がる穴をあけるべく、長い呪文を唱えていた。そして…………。
『……………………開け!!』
呪文をすべて唱えたドゥルクの杖の一振りで空間に穴が空き、穴の向こうの果てしなく広がる草原が見える世界から、キラキラとした美しい馬が十六頭出て来た。
霊獣は虹色に輝く、光のエフェクトの様な物をまとっているが、あれは全て『霊獣』がまとう魔力の残滓であるらしい。
『おーー、おぬしら久しぶりじゃのぅ。元気しとったか?』
『『ブルルルルッ!』』
ドゥルクの呼び掛けに馬達が集まり、ドゥルクに体を擦り付けようとしている。だが、ドゥルクは幽霊で実体は無いので馬の体はすり抜けてしまっていた。まあ、ドゥルクが慕われているのは伝わって来る光景だ。
「綺麗だな、あれが『霊獣』か…………」
「はい。この世で最も魔力に愛された種族です。ドワーフ、エルフ、魔族など魔力に長けた種族は多くいますが、どの種族も得意とする属性を持っています。しかし『霊獣』だけは全ての魔力を扱う事ができ、神の使いとも言われる種族です。一説には『神獣』が地上の生物と交わって生まれた種族とも言われています」
そう俺の横で解説をしてくれたのはアレスだ。霊獣とは、騎士を目指す者ならば誰もが憧れる種族であり、かつて霊獣に騎乗して戦った騎士王がいたと言う伝説もあるそうだ。
「ん? あれ? 確か『ウマ』の神獣がいるって聞いた事があった筈だけど、その神獣の子孫って事か?」
「いえ、それとは別の 既(・) に(・) 滅(・) び(・) た(・) 方の神獣ですね。世界に溢れる生物の『真祖』である、始まりの獣達の事です」
「…………どういう事?」
「これは神話の話なので、正しいとは限りませんが、それでも良ければ語りましょう」
「頼むよ」
アレスによると、元々この世界は植物も動物も存在しない死の世界だったと言う。
ただそこに在るだけの、世界になんの影響も及ばさない虚無の世界。周囲の世界は命に溢れているのに、その世界にだけは何もなかった。
そんな死の世界に、ある時とてつもなく巨大な黄金の船が現れた。
巨大な船はどこから来たのか大量の水と共に現れ、それが『海』となった。
次に船の放つ黄金の輝きが『昼』を創り、船が持つ影が『夜』となった。
船を進ませる無数の櫂の動きは『風』を呼び、船にくっついていた植物の種がその風によって舞い散り、死の大地に『森』を創った。
そして世界が『死の世界』から『生命ある世界』に生まれ変わると、その黄金の船は世界に降り立ち、その中から無数の『神獣』が出て来た。
どんどん世界を埋め尽くしていく『神獣』。やがて世界には神獣を元とした様々な動物が溢れていき、役目を果たした黄金の船は世界と同化して、この世から姿を消し、世界が出来上がった。
「これが世界の始まりの神話です。『霊獣』達は、その時に世界を満たした神獣達の子孫だと言われています。我々よりも血が濃いため、『霊獣』として力を持っているのだと、言われていますね」
「へぇーー。面白い神話だな」
アレスが語る神話は、地球で言う所の『天地創造』と『ノアの方舟』を足したような内容だった。
神話だから誰かが作った話なんだろうが、面白かった。…………案外、勇者としてやってか来た日本人が作ったのかも知れない。勇者自体は昔から来てるみたいだし、あり得そうだ。
「で、今の神話に出てきた神獣の子孫が、あの霊獣だって言われている訳だ」
「そういう説があるってだけですけどね」
いま聞いた神話を踏まえて、改めて霊獣に目を向けると、気のせいか霊獣達の放つキラキラとした魔力が、これまで以上に輝いて見えた。
今回、ドゥルクの提案で力を貸してくれる霊獣は十六頭で、その内の二頭は馬車を引いて貰う。なのでアルグレゴ小隊で騎馬として使うのは十四頭だ。
「ウム、では騎乗するメンバーを決めようと…………」
「「「「俺が乗ります!!!!」」」」
「……………………落ち着け」
アルグレゴが小隊に声をかけると、その場にいる二十人が一斉に声を上げた。その光景に俺は少し驚いたが、横にいるアレスが「霊獣に乗るというのは、騎士を目指した者の憧れですからね」と言い、俺は頷いて小隊の兵士達を見た。
なるほど、憧れの霊獣に乗れる機会が巡って来たから、あの食い付きな訳だ。霊獣の数は十六頭、そこから馬車に二頭引かれるから残りは十四頭。当然アルグレゴがその内の一頭に乗るから、十三頭。
二十人の内、十三人しか乗れないなら、必死にもなるか。
その後、小隊からの自分がアピールに揉みくちゃにされたアルグレゴが全員を一喝し、霊獣に乗るメンバーは霊獣自身に選ばせる事になった。
その結果、霊獣に選ばれたアレスまで乗る事になり、小隊から乗れる者がさらに減ったのは余談である。