軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4.どう考えても思わせぶりだった

学園を卒業して以来の急な来訪に驚いた。

目の前のエドガーはパリッとしたスーツを着て大人びて見えた。

「リーゼ、久しぶりだな。元気だったか?」

「エドガー! ええ、久しぶりね。元気よ、エドガーは?」

「俺も忙しいけど、まあなんとか」

久しぶりでも私たちの関係は変わっていない。気の置けない友人のままでいられたことが嬉しい。

「今日はどうしたの?」

「ああ、遅くなったけどこれを渡したくて。代筆屋、上手くいっているんだろう? おめでとう」

エドガーが手を差し出した。そこには可愛らしいピンク色の花束がある。私はそれを受け取ると香りを嗅いだ。ほのかに甘い匂いがする。

「ありがとう。嬉しい」

「それで、俺も仕事を頼みたいんだ」

「お客様になってくれるの? 私に依頼するのは高いわよ?」

「そこは親友割引でお願いします」

エドガーは姿勢を正しぺこりと頭を下げた。エドガーにとって私は親友だったらしい。そんな気はしていたけど、言葉にされると落胆してしまう。その気持ちを隠すようにツンと言った。

「もう、しかたがないわね! 特別よ。それで何を代筆してほしいの?」

「ああ、月に一回出す自己啓発レポートなんだけど、査定の対象になる。俺は来年昇級試験を受けたいから、完璧なレポートにしたいんだ」

「それは代筆が許されるの?」

「ああ、頼んでるやつは多いよ」

王宮に提出する公文書を代筆する資格を私は持っていない。それは資格と高位貴族の身元保証人が必要になる。エドガーの依頼は個人のレポートだから引き受けることができそうだ。

「一応、料金表を見せてほしい」

「いいわよ。はいどうぞ。枚数で金額が変わるの。エドガーは何枚くらいになりそう?」

「あ……本当に高いんだな。えっと、たぶん二十枚くらいになると思う」

エドガーが頭を抱えて項垂れた。その枚数だと確かにそれなりの値段になる。

ちなみに私の料金表はブロワさんが作ってくれた。最初はもっと安くしようとしたが、私の文字に見合った適正価格じゃないと注意されてこれが妥当な金額だと言われた。実績がないので高すぎてもいけないが安売りしてもいけないらしい。

今までお客様に高いと苦情を言われたことがないので自分では高いと思っていなかった。

エドガーとは長い付き合いで、子供の頃はたくさん助けてもらった。恩返しの気持ちを込めて親友価格を適用してあげよう。

「エドガーは特別に半額にしてあげるわ。でも紙の代金は別にかかるけどいい?」

紙は依頼主に負担してもらうことになっている。貴族に送るものだったり、恋文だったりすると依頼主は紙にこだわりを持つ。受け取った相手の心証にかかわるから。高価な紙を指定されることが多いので料金に含めると赤字になってしまう。

「本当か?! 助かるよ。ありがとう。さすが親友だな」

「調子がいいわね。ふふ」

仕事の話が終わるとエドガーの近況を聞いた。エドガーは王宮文官の試験に合格すると、学園の卒業と同時に貴族籍から抜けて平民となり宿舎暮らしをしているそうだ。

まだ使いっ走りだけど頑張っていると、笑いつつ誇らし気に胸を張る。彼なりに努力ししっかりと自立をしている。私が代筆することでエドガーの力になれるのなら嬉しい。

後日、ブロワさんにエドガーの割引の話をしたら呆れられてしまった。そして叱られた。

「大切なご友人とはいえむやみに割引したのはよろしくありませんな」

「でも私のことを応援してくれて仕事を依頼してくれたのです」

「本当に応援するのなら正規の料金を払うのが筋でしょう。それが本当の友人だと思いますよ」

「そう……なのでしょうか?」

私は曖昧に返事をした。

「それに他のお客様がこのことを知ったら気分を害するとは思いませんか?」

「あ……」

私はエドガーに喜んでほしくて他のお客様のことまで考えが及ばなかった。確かにブロワさんの言うとおりだ。

「どうしよう」

今更エドガーに割引をやめるとは断りづらい……。ブロワさんは苦笑いを浮かべるとやれやれと肩を竦めた。

「そのご友人にはしっかり口止めをしてくださいね」

「はい。そうします」

それを伝えるとエドガーは申し訳なさそうに絶対に人には言わないと約束してくれた。そして毎月エドガーのレポートの清書をすることになった。

「リーゼの文字は綺麗だな。上司からも読みやすいって絶賛されてるよ。ありがとう」

「どういたしまして」

「そうだ。今度の休みに食事に行かないか? もちろん奢るよ。お礼をさせてほしい」

「気を遣わなくていいのよ」

「せめてそれくらいさせてくれよ」

「じゃあ……ごちそうになろうかな」

お誘いは代筆の割引のお礼だから、その時の一回で終わりだと思った。ところがその後もエドガーは私を誘うようになった。食事だけじゃなくカフェ、植物園、買い物に図書館など、どれも女の子が好みそうな場所に連れて行ってくれた。「あっ! これはデートだ」と思った。会った日の別れ際は必ず「またな」で別れる。

私は次第に期待しはじめた。好意を寄せていた人がデートに誘ってくれる。これは私を好きだと言っているも同然よね。そうなるとその先の未来、すなわち結婚を意識するようになった。エドガーとの将来を想像するようになった。

実は私は代筆屋をはじめたときに独身でいる覚悟をしていた。

万が一問題がある人と結婚してしまうと、家を継ぐ姉に迷惑をかけてしまう。貴族籍を抜けて平民になっても縁を切るわけではないのだから。だけどエドガーなら元伯爵子息で身元もしっかりしていて、王宮で文官として働いているので問題ない。身分の問題も私が貴族籍を抜ければ、すでに平民となっているエドガーと結婚できる。

エドガーの態度を見る限り私たちは両想いだと感じられた。きっと近いうちに彼の口から結婚の話が出る、そう密かに期待していた。でもエドガーは言葉にしてくれない。だから私から告白しようとしたのに、エドガーはナタリーを選んだ。

(思わせぶりな行動をしておいて、酷くない? 誰だって期待するわよね?)