軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:91 海賊のアジト

ビゴディ海賊団のアジトを聞き出したウンベルトは、ニヤニヤと笑いを浮かべ御機嫌な様子で甲板をうろうろしていた。

偶に、サルヴァートの仲間である砲杖兵士を捕まえ、王都に戻ったら酒を奢ってやろうと話し掛けている。ウンベルトの頭の中では、海賊のアジトを国王に知らせた褒美として出世することになっているようだ。

現在のウンベルトは『兵長』と呼ばれる階級である。これは三〇人程度の小隊を率いる軍人に与えられる階級で、それほど高い階級ではない。

一番低い『兵卒』から『兵曹』『兵長』『大兵長』『小旗尉』『大旗尉』『将軍』と階級は上がる。ウンベルトは今回の手柄で『小旗尉』に昇進するのではないかと期待しているようだ。サルヴァートは海賊のアジトを発見しただけで、二階級特進というのはあり得ないと思っている。

サルヴァートは、こんな男に重要な任務を任せたウドルフォ将軍の見識を疑った。だが、他に海戦が起きるかもしれない任務を任せられる人物が居るのかと考え、残念ながら居ないという結論に達した。

海賊取締り部隊が無くなった後、軍人の中に海の専門家が消えてしまっていたのだ。ウドルフォ将軍も仕方なくウンベルトを選んだのかもしれない。

そのウンベルトは鼻息が荒くなっていた。

「俺が小旗尉になったら、この先もお前らの面倒を見てやるぞ」

ウンベルトは調子に乗っていた。この部隊は、アウレリオ王子が創設した部隊だということを忘れているようだ。

サルヴァートはウンベルトの頭を冷やすために。

「ウンベルト隊長、海賊の証言を鵜呑みにしていいんですか。確かめないとまずいでしょ」

「……そうだな」

少し冷静になったウンベルトが、アジトを確かめるべく動き始める。

ビゴディ海賊団のアジトは、ホルサス島と呼ばれている島だと証言が取れていた。サルヴァートたちはホルサス島の近くまで行き島の存在を確認する。

その島は背の高い木々が生い茂り、島の内側を見通せない島だった。島内部に入るには細長い入江が一つ存在し、そこから入れるようだ。

「なるほど、海賊がアジトにしそうな島です。十中八九間違いないです」

サルヴァートは夜になるのを待って、小舟を出し密かに確かめることを提案した。ウンベルトはサルヴァートの提案が気に入らなかったようだ。

「そんなに待っていられるか。ホルサス島の前方を通過しろ」

ウンベルトはゾッティ号を使って、ホルサス島に海賊のアジトがあるのか確かめると決めたようだ。だが、それは海賊に気付かれる恐れがある。

「待ってください。海賊に気付かれるかもしれません」

「素人は黙ってろ!」

ウンベルトに怒鳴られたサルヴァートは、仕方なく引き下がる。

船員に的確な指示を出すウンベルト。操船に関しては確かな知識と運用経験をウンベルトは持っている。

ゾッティ号がホルサス島の前を横切って通過する。サルヴァートは目を凝らし、海賊の痕跡を探した。入江の奥に建物らしい人工物があるのを見付けた。どうやら、海賊たちのアジトらしい。それに海賊船らしい船が一隻停泊している。

海賊たちもゾッティ号を発見し怪しんだようだ。入江に停泊している海賊船が出港準備を始めた。

サルヴァートは、だから言ったのにと言いたかったが、黙ってウンベルトを睨んだ。

「チッ、海賊共に気付かれた。逃げるぞ」

ウンベルトの命令で、ゾッティ号は港町ジブカへ船首を向け全ての帆を展開する。

風を受けた帆は大きく膨らみ、ゾッティ号を力強く前へと押出し白い波を立てながら進ませ始めた。海賊船は一隻だけだ。大きさはゾッティ号と同等で、大勢の海賊たちが乗り込んでいるのが見える。

海賊船は若干だがゾッティ号より速いようだ。ジリジリと追い上げ、距離を縮めてくる。海賊の顔が見えるような距離になると、弓を構えた海賊たちが矢を放ち始める。

山なりに飛んできた矢が、ゾッティ号の甲板に突き立つ。

ウンベルトがいきり立ち、砲杖兵士たちに海賊船を攻撃するよう命じた。砲杖兵士たちは【鋼矢散弾】の魔砲杖を海賊船に向けると発射。

魔力により創り出された鋼鉄の矢は、大気を切り裂いて飛翔し海賊たちに突き立った。だが、命中率は芳しくない。波の影響で上下する甲板から発射したため、五割の鋼矢散弾が狙いを外した。

命中率はともかく、魔獣を倒すために開発された魔砲杖は、命中すれば致命傷を与える威力を持っていた。五人の海賊が血を流し甲板に倒れる。

「よし、いいぞ。どんどん撃て!」

ウンベルトが金切り声で督戦する。

海賊の一人が魔成ロッドを構え魔術の準備を始めた。サルヴァートはそれを見て警戒を呼び掛ける。

「海賊が魔術を放つぞ。どこかに身を隠せ!」

その声で船員や砲杖兵士たちが帆柱や船縁の陰に身を隠す。その途端、海賊船から火の玉が飛んできた。ゾッティ号の後部甲板に命中し凄まじい爆発音を響かせ爆発。爆風で何人かの船員が吹き飛ばされる。

それを見たサルヴァートは驚く。

「馬鹿な。今のは【爆炎弾】じゃないのか。そうだとすると射程がおかしい」

【爆炎弾】の射程は【鋼矢散弾】の半分ほどである。普通なら届かない距離なのだ。海賊は【爆炎弾】に何らかのアレンジを加えているようだ。

サルヴァートは王都に帰ったら、自分も研究してみようと決めた。

海賊たちとサルヴァートたちの間で、攻撃の応酬が続いた。

海賊船は執拗にゾッティ号を追い回した。

「クソッ、何てしつこい奴らなんだ」

ウンベルトが額に滲み出る汗を拭いながら、サルヴァートに命令を出す。

「お前の魔術で何とかしろ!」

サルヴァートはアウレリオ王子が居れば、こんな無茶な命令は出さなかったのにと思ったが、居ないものは仕方ない。命令に従い、上級魔術を放つ準備を始める。選んだ上級魔術は【火焔剛槍】だった。但し【火焔剛槍】は射程が短いので、命中させるには危険な操船をする必要がある。

サルヴァートは船員に合図をしたら船速を落とすように命じた。

魔術の準備が終了した後。

「今だ!」

幾つかの帆が畳まれ船速が落ちる。海賊船との距離がグッと縮まる。

「 ファナ(火よ) ・ ファニボイス(巨大な槍となり) ・ メルゲ(飛翔し) ・ タジェスタラ(敵を焼き尽くせ) 」

サルヴァートが放った巨大な炎の槍は、海賊船のメインマストに命中し炎を撒き散らす。帆を焼かれた海賊船は急激に速度を落とし離れていった。

サルヴァートを含める全員が海賊船を仕留めるチャンスだと思った。ところが、海賊たちは手慣れた様子で手早く炎を消し、魔術士たちが反撃の準備を始める。

ここで反転しようとすれば、手痛い反撃を食らうかもしれない、とサルヴァートはチャンスだと思ったことを否定する。

その時、嫌な笑いを浮かべたウンベルトが。

「反転しろ。奴らに止めを刺すんだ!」

サルヴァートは慌てた。

「待ってください。ここで反転すれば、奴らの反撃を受けます!」

「馬鹿が。今がチャンスだと分からんのか」

ウンベルトは乗組員に命じ反転させる。ゾッティ号の速度が落ち反転しようと船首の向きが変わり始める。

一旦離れた海賊船との距離が縮まった。

その瞬間、海賊船から魔術による一斉攻撃を受け舷側に大穴が開いた。その衝撃でウンベルトと数人の船員が海に投げ出される。

海賊船と最後の決戦になるかとサルヴァートは思ったが、その反撃を最後に海賊船は離れていく。海賊船のダメージも重かったようだ。

サルヴァートはホッとした。身体から緊張感と力が抜ける。

「ウンベルト隊長を救出しないで、よろしいんですか?」

砲杖兵士の一人から、そう言われたサルヴァートは、舷側に近付き下を見る。ウンベルトが必死で泳いでいる。服を着たまま腰に吊るした剣も捨てていないようだ。

「剣を捨てるんだ!」

サルヴァートが助言した。だが、ウンベルトは気に入らなかったようで。

「五月蝿い。黙って助けろ!」

この一言で、サルヴァートの心に氷の刃が生まれた。

ウンベルトと一緒に海に投げ出された船員は、爆発で死んだか気を失ったようで海に沈んだようだ。

海に残っているのはウンベルトだけ。

ゾッティ号の帆は反転の途中で作業が止まり、横風を受けるだけで機能していない。それでも海流に流されウンベルトから少しずつ離れていく。

「なあ、こういう場合はどうしたらいいんだ?」

サルヴァートが砲杖兵士に尋ねた。本来なら船員に尋ねるべき質問だ。

「海のことはよく分かりません」

「私もそうなんだ。どうしたらいいんだろう」

サルヴァートたちが会話している間も、ウンベルトは罵り、助けろと命令している。

ウンベルトが力尽きようとしている頃、サルヴァートが乗組員と相談しゾッティ号に積まれている小舟で助けに行くことになった。

だが、小舟を海に降ろす途中、ウンベルトの姿が消えた。

「大変です。ウンベルト隊長が見えなくなりました」

サルヴァートは冷めた視線を海面に向け、ウンベルトを探す。

「……死んでしまったか」

サルヴァートはウンベルトの救出を即座に諦め、船員に船の修理を命じた。応急修理が終わった後、王都へ船首を向ける。

王都に戻ったサルヴァートは海賊のアジトを発見したと報告。一緒にウンベルトの死も知らせたが、問題にならなかった。

ただサルヴァートには心配なことがあった。サルヴァートたちにアジトを発見されたと分かっている海賊がアジトを捨て逃げないかということだ。

国王は海賊のアジトを殲滅するように命じた。だが、王国の兵士が海賊のアジトに攻め込んだ時、すでにもぬけの殻になっていた。

サルヴァートの心配が的中したのだ。だが、これほどあっさりアジトを放棄した海賊に不信感を持った。海賊は他にもアジトを保有しているのではないかとサルヴァートは推測する。

その後、アジトを失った海賊は王都付近の沿岸を航行する船を頻繁に襲い始めた。

そのことにより王都と他領との海運が止まり、王都の人々は不安を口にするようになる。

サルヴァートはアウレリオ王子の下へ行き。

「申し訳ありません。海賊共を逃したせいで、このような状況になってしまいました」

「いや、サルヴァートの責任ではない。私が陛下に従い、部隊の指揮権を渡したのが間違いだった」

「海賊共はどういたしましょうか?」

「海戦を覚悟しなければ、海賊を倒せなくなった。問題は船だ。軍船がない以上、民間の船を借りるしかないが、ゾッティ号が破損した件で、海運商が持ち船を他領へ隠しているようだ」

「商人の奴ら……自分たちの問題でもあるというのに」

国王は海賊の対策をウドルフォ将軍に任せた。国王は自分に軍事面の才能がないのを知っており、他の専門家に任せるのがベストだと判断したのだ。

その判断は間違いではない。但し、任せたのがウドルフォ将軍というのは間違いだった。ウドルフォ将軍は明確な方針を打ち出すのに手間取った。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

その頃、リカルドは二隻の小型装甲高速船を完成させていた。小型動力船にアーチ状に加工した六本の鋼鉄製のパイプを骨組みとして設置し潮吹き竜鮫の革を被せたものだ。硬化処理を施した革は鉄のように固くなり、魔術の耐性も残っていることが確認された。

外見は幌馬車を船にしたような形状で、お世辞にもカッコいいとは言えない。だが、銃眼を取り付けた装甲は頼もしい感じがする。

その装甲は何個ものボルトで固定されており、後で元の小型動力船に戻せるようになっていた。

リカルドが試運転前の最後の点検をしていると、そこに意外な人物が現れた。部下を引き連れたサムエレ将軍である。

「王太子殿下の返事も待たずに、作ってしまったようだな」

「海賊共のことを考えれば、少しでも役に立つものが必要だと思ったんです。それにもしもの時のホケ……いや、備えは必要です」

リカルドは保険と言おうとして、この国に保険がないことを思い出した。

「それでどうだ……海賊退治に使えそうなのか?」

「こいつで海賊を退治してください、と言いたいんですが、こういう装備は、運用次第です。十分な訓練を積んだ者が運用すれば、使える装備になると思います」

サムエレ将軍は小型装甲高速船をじっくりと見た。装甲化したことで乗船人数が減り一〇人乗りとなっている。それに装甲と言っても革製なので、何だか頼りない。

「思った以上に小さいな」

この小さな船に乗って、海賊船と戦う光景を想像した将軍は、腕を組んで唸り始めた。小型装甲高速船が勝利する場面が想像できないのだろう。

「試しに乗せてもらえないか?」

「ちょうど試運転で、海に出るところだったんです。いいですよ」

カルボン棟梁とサムエレ将軍、その部下四人を乗せ、海に出た。

操縦はカルボン棟梁に任せ、リカルドは銃眼から【雷渦鋼弾】の魔砲杖を試射する予定になっている。

リカルドは将軍に、王太子が依頼していた船が用意できたのか尋ねた。そうすると、将軍が不機嫌な顔になる。

「ああ、やっと借りられたので王太子殿下に報告しようとしたら、ウドルフォのアホが掻っ攫っていきおった」

ウドルフォ将軍が王命を盾に、サムエレ将軍が借りた船を徴発し海賊退治に使うと言ったらしい。

そこで王太子に相談したら、リカルドが提案した小型装甲高速船を見たいと連絡してきたのだと言う。

「しかし、海賊船と戦うのなら、この小型装甲高速船の方がいいかもしれませんよ」

「どうしてだね?」

「民間船には装甲はないですが、これにはありますから」

将軍は首を傾げた。

「そうかもしれんが、あまりに小型だと頼りなく思える」

魔力炉が温まった小型装甲高速船は、速度を上げた。

「す、凄い速度だな」

将軍と部下たちは小型装甲高速船の速度に驚いたようだ。

「将軍たちが驚いているところに水を差すようだが、装甲を付ける前と比べると速度が上がらんようだぞ」

カルボン棟梁がリカルドに告げた。

「仕方ないです。装甲の重さに加わえ、空気の抵抗もありますからね」

それでも帆船よりはずっと速い。

リカルドたちは岩礁ポイントへ行き、近くから岩礁を的にして魔砲杖の試射を行った。銃眼の直径は二五センチなので視界が良好とは言えない。しかし、十分に狙えるだけの視界がある。

リカルドは岩礁を狙い引き金を引いた。揺れる船の上からの狙撃なので、雷渦鋼弾は狙いを外し海面に着水し水飛沫を上げた。

「どうした。狙いがなっちゃいないぞ」

カルボン棟梁が笑いながら声を上げる。

「んーー、思った以上に難しい」

リカルドは試射を続け、五回試射して命中したのは二回だけ。船上から魔砲杖を撃つ訓練をしていなかったのだから仕方ないが、リカルドは自分の無力さを噛み締め顔を強張らせた。

ただ、魔砲杖の威力は再確認できた。岩礁の一部を砕くほどで、これが船なら大穴が開くだろう。

「そんなに難しいのか」

将軍がリカルドに確認する。

「試してみますか」

リカルドが魔砲杖を将軍に渡す。将軍は銃眼から岩礁に狙いを付け引き金を引いた。雷渦鋼弾は岩礁を飛び越え空に消える。

「なるほど、訓練が必要だな」

将軍が納得したところで、リカルドたちは造船所に引き返した。