軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:82 炎滅タートル

リカルドはベルナルドの店に行き、煌竜石が手に入らないか相談してみた。

「煌竜石ですか……残念ながら、売り切れてしまいました」

王都で煌竜石というとアスカリ火山で採取出来る赤の煌竜石である。照明の魔術道具を作る時に必要なものなので、一定の需要があるらしいが売り切れというのは珍しい。

「何か理由があるのですか?」

「詳しいことは知らないのですが、雷の魔術を研究するために必要らしいです」

リカルドは意外な答えに驚いた。

「まさか、雷導ピックを作っているのか」

ベルナルドが『雷導ピック』とは何かと尋ねるので、発表会で発表した内容を伝えた。

「なるほど、それで魔術士の皆さんが一斉に雷の魔術を研究し始めたわけですな」

リカルドが次に煌竜石が入荷するのはいつか確かめる。

「それが……」

「どうかしたんですか?」

「アスカリ火山の採掘場に、炎滅タートルが出たそうなんです」

炎滅タートルはアスカリ火山の火口を住処としている魔獣なのだが、繁殖期になると冠大トカゲを捕食するために火口から降りてくるらしい。

その魔獣は火炎亀の上位種で『滅』の文字が付くほど恐れられている魔獣だった。

リカルドは赤の煌竜石を取りに行こうと考えていたが、炎滅タートルの話を聞いて迷い始めた。炎滅タートルは高温と炎に対して高い耐性を持っており、リカルドが得意としている【火】の魔術で仕留められるか不安になる。

「今、アスカリ火山へ行くのは止めた方がいいです」

リカルドは、ベルナルドの忠告を聞きながらも諦められずにいた。

「でも、研究に煌竜石が必要なんですよ」

「そんなに急ぐ研究なんですか?」

「いや、そういうわけでもないんですが」

迷った末、リカルドはパトリックを誘って、アスカリ火山へ行くことにする。パトリックを誘ったのは、【水】の魔術を得意としているからである。

それに相手が亀の化物なら、敵わない時には逃げられるとリカルドは判断した。

準備を整え、ある晴れた日の早朝に王都を出発。

リカルドは新しい装備を身に着けていた。鋼鉄サソリの外殻で作った胸甲・籠手・脛当てである。プラスチックのように軽く鋼鉄のように頑丈な防具は、貴族の持ち物と言ってもおかしくない装備だ。

鋼鉄サソリの外殻は強靭で、職人も加工するのに苦労した力作である。十二歳のリカルドはひょろりとしており、黒光りする新装備が浮いているように見えた。

「なんや、新米魔獣ハンターみたいだがね」

パトリックが笑いながら言う。

「身に着けているうちに、馴染んできますよ」

二人はゆっくりとアスカリ火山へ向かう。

「そういえば、教えた【雷渦鋼弾】の使い勝手はどうですか?」

「得意な魔術の一つやと言えるようになったがね」

パトリックは嬉しそうに答えた。

「その分だと討伐局への転属も近いんじゃないですか」

「転属願いは出しているんやが、中々承認されんがね。もう少し実績が必要らしい」

「実績ですか。雑務局で実績を上げるのは難しいですからね」

「そうなんや。今回の旅で大物でも仕留めれば実績になるんやが」

リカルドは研究の手伝いという名目で、雑務局からパトリックを借り出している。パトリックは、雑務局としての依頼遂行中なのだ。

「ところで、【雷渦鋼弾】を魔砲杖に組み込む研究はどうなったんや?」

「一応、試作品は完成したんですが、二級の魔成ロッドを使った魔砲杖なので、製造単価が馬鹿高くなってしまいました」

「王太子殿下は、高くても構わないと言っとったがね」

「でも、数を揃えるには製造単価を下げないと駄目だと、サムエレ将軍に言われました」

「アウレリオ王子から依頼された魔砲杖のように、王太子殿下から属性色ロッドを手に入れて組み込んだらいいがね」

「それも考えたんですが、【雷渦鋼弾】は【火】と【地】の複合魔術なんですよ。たぶん属性色ロッドも二つの属性を使って魔力コーティングしなければならないと思うんです」

「それは難しそうだがね」

リカルドは一度に魔力コーティングするのは無理なので、二度に分け杖の上下で属性を変えた属性色ロッドを作ってみたが、上手くいかなかった。

また、杖の左右で属性を変えられないか魔力コーティングしてみたが、属性励起した魔力の制御は難しく失敗した。

そんな時、魔力炉のアイデアが閃き、その研究に熱中してしまったのだ。

リカルドたちはアスカリ火山の麓にある赤の煌竜石が採れる採掘場に到着した。

前回採掘した崖へと向かう。目的の崖が見え始め、同時に冠大トカゲも見え始める。

「相変わらず、冠大トカゲが多いですね」

「一匹なら簡単なんやが、集団で襲ってくるから厄介だがね」

煌竜石が取れる地層が 露(あら) わになっている場所に近付き、襲ってくる冠大トカゲを魔術で仕留める。

最初の冠大トカゲは、パトリックが【崩水槍】で仕留め、次はリカルドが【嵐牙陣】で仕留めた。次々と襲ってくる冠大トカゲを魔術で排除し、採掘可能な場所を確保する。

「炎滅タートルが出るとか言うとったが、居ないようだがね」

「今のうちに採掘しましょう」

二人はツルハシを地層に打ち込み掘り始める。赤い煌竜石が地面に零れ落ち、それを拾ってはツルハシを打ち込む。

その作業を二時間ほど続けた時、冠大トカゲが騒ぎ始めたのに気付く。甲高い鳴き声を上げながら、リカルドたちの方へ走ってくる。

「これはヤバイがね」

リカルドは冠大トカゲの数が三〇匹を超えているのを確認し、逃げることを考えた。

「逃げましょう」

煌竜石は二人で四〇個ほど集めている。少し物足りないが必要とする最低限の量は確保していた。

二人が逃げようとした時、冠大トカゲの移動方向が少しおかしいのに気付く。リカルドたちの方へは向かわず、二人の目の前を通り過ぎ逃げていくのだ。

「これって、まずいがね」

「冠大トカゲが必死で逃げていくということは、やはり炎滅タートルですか」

「それしか考えられんがね。逃げるがや」

リカルドたちは冠大トカゲを追って走り出した。しばらく走った時、背後から何かが追ってくるのを感じ、二人は振り向く。

そこには体長七メートルほどの巨大な亀が居た。甲羅はオレンジ色で炎のような模様がある。

ドスドスと地響きのような足音を響かせ迫る炎滅タートルを見て、リカルドは今の時期に煌竜石を採掘に来るという判断が間違いだったと思った。

二人は必死で逃げるが、炎滅タートルの速度も同じ程度で逃げられない。

「亀なのに、何で走るのが速いんだ」

「文句を言ってないで、速く走るがね」

「得意の【水】の魔術で何とかなりませんか?」

リカルドがパトリックに確認した。

「あの硬そうな甲羅を見てみい、上位魔術やないと駄目やと思うがね」

二人はわいわい言いながらも全力で逃げた。

息が荒くなったパトリックが提案する。

「ハアハア……リカルドの上級魔術を試してみるがね」

リカルドは頷き、触媒を用意した。走りながら魔術を発動するのは難しい。リカルドはなんとか魔力を制御しデスオプロッドから魔力を放出し触媒を撒く。

放出した魔力が属性励起したのを確認し、リカルドは立ち止まり呪文を詠唱する。すぐそこまで巨大な魔獣が迫っている状況だと度胸が必要だ。

「 ファナ(火よ) ・ ラピセラヴォーン(太陽の如く輝き) ・ スペロゴーマ(弾け飛べ) 」

ロッドの先に光り輝く灼熱の玉が生まれ、炎滅タートルの方へ弾け飛ぶ。

陽焔弾に気付いた炎滅タートルは、甲羅の中に頭と手足を引っ込めた。陽焔弾は甲羅に命中し炎を撒き散らせてから上空に弾き上げられた。

「だ、駄目だ。逃げろ!」

リカルドは全速で逃げ出した。パトリックが慌てて後を追う。

甲羅から頭と足を出した炎滅タートルは、速度を上げて追い駆けてくる。

「駄目だ、追い付かれる」

「リカルド、何とかするがや」

「そ、そんなことを言われても……そうだ」

リカルドは【泥縛】用の触媒を取り出し、【泥縛】の魔術を炎滅タートルの目の前に発動した。

魔術で生まれた泥沼に、炎滅タートルの両前足と頭が沈んだ。リカルドとパトリックは立ち止まって見守る。

「泥沼の中で、逆立ちしとるがね。あれで仕留められると思うか?」

リカルドは泥沼から突き出した甲羅と後ろ足を見て、昔見た日本映画の一場面を思い出す。あれが人間の足ならミステリーなんだけど、と一瞬思う。

その時、泥沼の中で逆立ちしている炎滅タートルの周囲から炎が吹き出した。

炎滅タートルは口から炎のブレスを出せるのだ。

「ミステリーじゃなくて、やっぱり怪獣映画じゃないか」

リカルドが呟いた。

二人は一目散に逃げ出す。二人の背後では炎のブレスを使って泥沼から抜け出した炎滅タートルが、怒り狂って周囲にブレスを撒き散らし始める。

どうやら泥が眼に入り、一時的に目が見えなくなっているようだ。

逃げることに成功したリカルドたちは、疲れ果て地面に座り込んだ。

「いやあ、死ぬかと思ったがね」

「やっぱり繁殖期には近寄らない方がいいようです」

リカルドは【陽焔弾】だけでは、対処できない魔獣も居ると痛感し、【火】以外の上級魔術も研究しようと決めた。

リカルドは王都に戻ると魔力炉の研究を続け、熱を魔力に変換する魔術回路を完成させた。但し、魔術回路の基盤に赤の煌竜石を使ったために、熱から変換された魔力の中に若干だけ属性励起された魔力が混ざることが判明する。

元々煌竜石には魔力を属性励起させる効果がある。魔力炉の魔術回路から作り出される魔力の全てが属性励起されるなら使い道があるのだが、煌竜石の魔力を属性励起させる効果は弱く魔力の一部だけしか属性励起しないのが問題だった。

その魔術回路から作り出される魔力を魔力バッテリーに充填できなかったのだ。

これにはリカルドも頭を抱える。因みに、その魔力は魔術や魔術道具にも使えなかった。

「魔力を属性励起しない煌竜石というのはないのだろうか」

魔術士協会の図書館で調べてみた。煌竜石の研究書の中に白水晶という宝石のことが書かれており、偽煌竜石と呼ばれているらしいのを知る。

白水晶は硬度や質感は煌竜石と同じなのだが、魔力を流し込んでも属性励起しないらしい。

「もしかすると、この白水晶が探しているものかも」

リカルドは王都で宝石を扱っている商店に行き、店主に白水晶がないか尋ねた。

「ございます。ですが、女性に贈るのなら白水晶より金剛石がよろしゅうございますよ」

リカルドが金持ちだと見抜いた店主は、高価な金剛石を勧める。

「いや、贈り物じゃない。白水晶が欲しいんです」

白水晶はアプラ領の山岳地帯で採掘される宝石で、それほど人気のある宝石ではないらしい。リカルドは店にある白水晶全部を購入した。

魔術士協会に戻り、白水晶に魔術回路を刻み込む。通常の魔術回路は、豆粒大の黄玉樹実晶に刻むので大量の因子文字を刻むことができない。

そこで幾つかの黄玉樹実晶に分けて刻み、組み合わせて完成させるのだが、煌竜石や白水晶は黄玉樹実晶より何倍も大きいものがあるので、一つに必要な全ての因子文字を刻める。

因子文字を刻み込んだ白水晶に合わせて鋼鉄製の枠を作り、そこに白水晶を填め込む。煌竜石や白水晶は炭素の結晶である金剛石とは違い高温に高い耐性があり、火の中に放り込んでも焼けることはなかった。

そのまま炎で炙っても問題ないのだが、そうすると表面に煤とかが付着するので、金属の枠に填め込み枠を火で炙ることにしたのだ。

火鉢のようなものを用意し、そこに少量の薪を入れ火を着け、その炎で白水晶を填め込んだ金属枠を炙り始める。

リカルドは白水晶に少量の魔力を流し込んだ。その途端、白水晶の中に刻まれた魔術回路が働き出し、熱を魔力に変換し始めた。

発生した魔力の一部は魔術回路を稼働させるために使われるが、余剰分は白水晶から放出される。リカルドは放出された魔力を調べ、純粋な魔力だと確かめた。

「よし、成功だ。やはり白水晶は煌竜石だったんだ」

リカルドは動力炉の燃焼室をどうするか検討し、ストーブのような形にしようと考えた。

この世界ではストーブが普及していなかった。どこかで作られたものはあるかもしれないが、ほとんどの家は暖炉を使用している。

地球でもストーブが普及したのは、十八世紀にベンジャミン・フランクリンが鉄板で囲ったストーブを開発してからだと聞いた覚えがある。

暖炉と違い密閉性が高いストーブは、給気調整が可能で熱効率も高い。

リカルドは長方体のストーブに似た魔力炉を設計し、コンテナハウスの製作を頼んだガロファロ工房に製作を頼んだ。

一〇日ほど時間が掛かるというので、リカルドに待ち時間ができた。

リカルドは久しぶりに飼育場の方へ向かう。

飼育場に建物が増えていた。二棟の従業員宿舎、大きな倉庫、二つのサイロだ。元々在った作業小屋の半分に床板が張られ、新型の機織り機が運び込まれていた。

作業小屋に近付くと、カタン、トントン、カタン、トントンという機を織る音が聞こえてくる。作業小屋は機織り小屋に変わり、ジェシカ達が毎日タオル生地を織っていた。

「リカルド様、見てください。皆タオル生地が織れるようになったんですよ」

タオル生地で作った商品は飛ぶように売れていた。そのことを知ったミケーラやジェシカは張り切っている。

「ご相談があるのですが」

ミケーラがリカルドに声を掛けた。

「何でしょう?」

「機織りの人を増やしたいのです。五人ほど」

「機織りに関しては、ミケーラさんにお任せしますので雇っても構いませんよ」

「ありがとうございます」

新しい倉庫へ行くと、アントニオが積み上げられた塩干しバカラの数をチェックしていた。

「兄さん、忙しそうだね」

「何言っているんだ。忙しいのはお前のせいなんだぞ」

アントニオは妖樹の飼育だけでも忙しいのに、バカラ漁と塩干しバカラ作りを始めたことを言っているのだ。

「ごめんよ。忙しいなら、人を雇おう」

「そうなんだが、雇ってもすぐに戦力にはならないからな」

「教育は必要だと思うけど、単純作業なら大丈夫でしょ」

「考えてみよう」