軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:52 バイゼル城

王都の住民の中には魔獣に怯えパニックを起こす者が現れた。それらの人々は助けを求め城に向かう。だが、城の門は堅く閉ざされ、救いを求める人々を拒絶した。

城から追い返された人々は、仕方なく魔術士協会に逃げ込んだ。一〇人、二〇人までは良かったが、五〇人、一〇〇人を超えると魔術士協会でも頭を抱え始めた。

だが、王都のあちこちで悲鳴が上がる度に、魔術士協会へ保護を求める人々が増える。

一方、守備隊の応援に借り出された近衛兵は一〇人ほどの単位で王都各地に散開し、魔獣の発見と討伐に全力を上げた。

近衛兵のルーカスは、同僚と一緒に港近くの街を駆け抜けた。空き地のような場所でホーン狼五匹と遭遇し戦闘状態となる。

「ホーン狼の動きは素早い、決して一人で戦うな。二人以上で協力し倒せ」

小隊長のガスポロが大声を上げ指示を出した。

五匹のホーン狼は別々の近衛兵を狙って襲い掛かる。

その中の一匹がルーカス目掛け飛び掛かった。盾を掲げ狼の鋭い爪を防ぐと同時に足を踏ん張る。ドスンと衝撃が盾を持つ腕に伝わり、盾が吹き飛びそうになるのを、全力で堪え狼の身体を弾き返す。

一旦離れたホーン狼が威圧するように吠えた。ルーカスはビクッと反応するが、狼から視線を離さず盾を握る手に力を込める。

もう一度ホーン狼が飛び掛かってきた。ルーカスが盾で受け止めると同時に、小隊長のガスポロが槍を突き出す。その穂先がホーン狼の肩に突き刺さる。

狼は血を流して地面を転がった。だが、低い唸り声を上げながら立ち上がる。

「小隊長、一発で仕留めてくださいよ」

「……今のは角度が悪かっただけだ」

ホーン狼は飛び掛かるのを止め、素早い動きで盾を避けながらルーカスの足元を狙って襲ってきた。

慌てて飛び退き、盾で狼の頭を叩く。そこにガスポロの槍が突き入れられ、狼の背中から胸を貫通させる。

ルーカスがホッとして肩の力を抜いた時。

「ぎゃああ!」

近衛兵の一人がホーン狼の角に脇腹を突き抜かれ倒れた。

「援護しろ」

小隊長の声で、ルーカスは盾を握り直し、倒れた仲間の方へ駆け出す。

倒れた同僚の腹に噛み付き引き裂こうとしている狼の腹に剣を突き入れようとした。だが、気付いた狼が素早く避け、空振りとなる。

「畜生、ほんとに素早いな」

ダメージは入らなかったが、狼は標的を倒れている同僚からルーカスに変え襲ってきた。

その隙に小隊長のガスポロが負傷している同僚を担ぎ上げ後方へ退避する。

ルーカスは狼の攻撃を盾と剣で防いでいたが、段々と空き地の端まで追い詰められていく。

「クソッ、小隊長はまだなのか」

そう呟いた時、横から槍が突き出された。戻ってきた小隊長が突き出した槍の先が、ホーン狼の首に突き刺さっている。

五匹のホーン狼を倒した代わりに、近衛兵二人が傷を負った。小隊長のガスポロは渋い顔をして呟く。

「対人用の訓練だけじゃなく、魔獣相手の訓練もすべきだったか」

犠牲を出しながらも守備隊と近衛兵の協力により、王都に解き放たれた魔獣は数を減らし、もう少しで全滅するという頃になって、守備隊と近衛兵に新たな魔獣出現の知らせが届いた。

「何……工房街に炎獄トカゲが現れただと」

新たに現れた魔獣は工房街の炎獄トカゲだけではなかった。商店街に牙猪の群れが現れ、退治しようとした守備隊の多くが負傷したという知らせも届いた。

ガスポロの部隊には商店街へ移動するよう伝令が届いた。守備隊と近衛軍の参謀たちはガスポロたちに牙猪の相手をさせようと考えているらしい。

「牙猪だと……魔術士の支援が必要だ」

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

近衛兵たちが戦っている頃、王都の地下道で数人の男たちが密かに移動していた。普段は守備隊の一部が見回りをしているが、今日は全員が魔獣の対応に回され守備隊の人間は居ない。

「これから城へ向かう。ミュンとモヴァルは施政事務館近くで【魔獣召喚】を行え、私とバジレは貴老館へ侵入する」

施政事務館は高級官僚が仕事をしている場所であり、貴老館は大臣クラスの要人が休憩する場所である。

「ミュンとモヴァルは召喚が終わったら隠れ家に戻れ、どうせ召喚した魔獣の制御は無理なんだ」

「了解。だが、制御できない魔獣はどこへ向かうか分からんぞ」

「仕方ない。万一遭遇したら逃げろ」

ミュンと呼ばれた男が肩を竦め。

「自分が召喚した魔獣に殺されたら洒落にならんからな」

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

魔術士協会へ来て欲しいというイサルコの要請に、リカルドは少し躊躇った。ここに守るべき家族が居るからだ。

「リカルド、行ってくれ。母さんたちは俺が守るから」

アントニオが躊躇っている弟に声を掛けた。

「でも、兄さんに倒せないような魔獣が襲ってきたら」

パトリックがポンとリカルドの肩を叩いた。

「心配にゃー。イサルコ理事から、ここに残ってリカルドの家族を守るように指示されてるがや」

理由は判らないが、どうしても自分が必要な事態が発生しているらしいと理解したリカルドは、魔術士協会へ行くことにした。

「皆、気を付けてね」

「リカルドも気を付けるんだよ」

母親のジュリアが心配そうな顔で声を上げた。

「行きましょう」

タニアの声で家を出ると魔術士協会へ急いだ。

途中、二匹の小鬼族と戦っている近衛兵に遭遇し、魔功銃を使って小鬼族をサクッと倒す。

「私も欲しくなったわ」

タニアが魔功銃を見て告げた。

「魔功銃が欲しければ、魔境に行って妖樹タミエルを倒さないと作れませんよ」

「魔境か。一人で行くのは厳しいわね。一緒に行ってくれる?」

「そうですね。こういうことがまた起きるようなら、魔功銃を量産する必要があるかもしれませんね」

「でも、妖樹タミエルを倒して魔功蔦を手に入れないと駄目なんでしょ」

「何とか種を手に入れて飼育できないかと考えているんですよ」

「危険な妖樹を飼育する事業だと国の許可が必要になるかもしれないわね」

今までは逃げてもあまり害のない妖樹クミリの飼育だったので、行政からの邪魔は入らなかったが、妖樹タミエルとなれば危険視する者も多くなるだろう。

「王太子の支援が有れば、可能だと思うんです」

「そうね。でも、その前に今回の騒ぎを終わらせなければならないわ」

……そうだった。今回の魔獣騒ぎは誰の仕業なのだろうか? 王家の敵対勢力は数多いが、これだけの騒ぎを引き起こせるのは限られている。

「私はクレール王国の仕業じゃないかと思うの」

タニアが第一候補に挙げたのは、ロマナス王国と領土問題で争っているクレール王国である。

クレール王国は王都の東にあるボニペルティ侯爵領の東隣に位置する国で、ボニペルティ侯爵領との間で小競り合いが続いていた。

「クレール王国か……何か違う気がするな」

「だったら誰だというの?」

「分からないけど、クレール王国だったらボニペルティ侯爵領を狙う気がする」

リカルドとタニアは話をしながら進み、間もなく魔術士協会に到着した。

魔術士協会の正面に在る窓口会館は避難してきた人々で溢れかえっていた。

「イサルコ理事の所へ行きましょ」

リカルドたちは人混みを掻き分けて進み、窓口会館の奥にある扉へ向かった。

「凄い人の数だね」

「理事たちは家に帰り戸締まりして隠れているようにと言っているんだけど、家だと不安らしくて帰ろうとしないのよ」

小鬼族が家の扉を打ち破り中の住人を殺した事件も起き、決して家の中が安全だとは言えない状況になっていた。魔術士協会に避難してきた人々の中には小さな子供たちを持つ家族も多く、子供の泣き声が聞こえてくる。

奥の扉から窓口会館を出た二人は、究錬局へ行きイサルコの部屋に入った。

「呼び出して済まなかった」

「ちゃんとした理由があるんですよね」

「ああ、今回の騒ぎは数人の魔術士が【魔獣召喚】を使ったのだと思うのだが、リカルドはどう思う?」

「自分もそう思います」

「だったら、その魔術士たちを倒さなければ、幾ら魔獣を倒しても騒ぎが収束せんのは分かるな」

リカルドとタニアは頷いた。

「もしかして、その魔術士たちを捕まえろと言うんですか?」

「いや、捕まえるのは近衛兵に任せろ。君たちには城に行ってもらう」

「何故、城へ?」

「冥界ウルフを討伐した後、サムエレ将軍と話したんだが、魔境にしか棲息していないはずの冥界ウルフが王都近くをうろうろしていたのは、誰かによって召喚されたからに違いないという意見で一致した」

「でも、今回の騒ぎで召喚されたのは、小鬼族やウルファル、ホーン狼です」

イサルコは深く頷いてから。

「炎獄トカゲと牙猪が現れたと報告があった」

「魔術士の出番じゃないですか」

イサルコが溜息を吐いた。

「討伐局のシスモンド局長が配下の魔術士全員を炎獄トカゲや牙猪が出現した商店街と工房街へ派遣した」

商店街に討伐局の魔術士が派遣されたと聞いて、リカルドは安堵した。家族のことやベルナルドたちが心配だったのだ。

「魔獣絡みで王都に異変が起きた時、城に冥界ウルフを倒せる人材を送ってくれと将軍から頼まれた」

リカルドとタニアは納得できないという顔をした。城には宮廷魔術士が居るからだ。

「宮廷魔術士が居るじゃないですか」

タニアが疑問の声を上げた。

「宰相と将軍は宮廷魔術士長を信用していないらしい。万一に備え腕利きの魔術士を城に待機させたいと要請されたのだ」

「分かりました。城で待機していればいいんですね」

「私も一緒に行くから」

イサルコとタニアも城で待機するつもりらしい。

三人で城に向かうと、城から出てくる宮廷魔術士たちと出会した。

「どういうことでしょう?」

近衛兵の半分が街に出ている状況で、宮廷魔術士までも城を出るのでは警備が危険なほど薄くなる。

「分からん。将軍に訊いてみよう」

城に入り将軍の部屋を訪ねると苦虫を噛み潰したような顔をしているサムエレ将軍が待っていた。

「将軍、どういう状況なのです?」

イサルコが尋ねると将軍が吐き捨てるように答える。

「街に牙猪と炎獄トカゲが現れたと聞いた国王が、側近のアルフレード男爵の進言で宮廷魔術士を派遣するよう命じた」

さすがに宮廷魔術士全員を派遣することはなかったが、大部分の宮廷魔術士が城の外に出たようだ。

「騒ぎを起こしている張本人は誰だとお考えですか?」

イサルコが将軍に尋ねた。

「未だに奴らの狙いが判らぬので、特定できないでいる」

リカルドが考えていた以上に、王家の敵対勢力は多いようだ。

その時、施政事務館の方で膨大な魔力が放出された。

「イサルコ理事、向こうの方で何かが起きたようです」

魔力を察知したリカルドが施政事務館の方を指差し告げた。

施政事務館では家族の心配をしながら高級官僚たちが騒ぎが収まるのを待っていた。心中では城を飛び出し家族のもとへ駆け戻りたいのだが、宰相から待機が命じられているのだ。

施政事務館の窓から外を眺めていた官僚の一人が、悲鳴のような声を上げた。

「そ、そんな……」

同僚が顔を青褪めさせるのを見て、近くに居た者たちが外を確認する。

「おいおい、冗談だろ。魔獣だ。魔獣が出たぞ!」

その叫び声で施政事務館が騒然となった。

城に現れたのは一匹の冥界ウルフだった。

「窓を閉めろ」

「上の階に避難するんだ」

ドタバタと騒がしい音がして、一階に居た者は二階へ移動した。

冥界ウルフは召喚者の意図したものとは異なる行動を取り始めた。出現した近くの施政事務館を襲うと予想していたのに、国王が居る太守閣へ向かった。

当然、太守閣を守っている近衛兵と居残りの宮廷魔術士と戦うことになった。

冥界ウルフは最初に近衛兵に襲い掛かり地獄を作り出す。

「盾兵は前に出ろ」

「駄目だ。槍が突き刺さらない」

冥界ウルフには近衛兵の剣や槍が通用しなかった。反対に、冥界ウルフの爪が閃く度に赤い血が舞い上がり、兵士たちの悲鳴が鳴り響く。

「宮廷魔術士は何をしているんだ」

近衛兵たちの叫びに応えるように、宮廷魔術士の攻撃魔術が冥界ウルフを襲った。【地爆槍】四つ、【火炎竜巻】三つが冥界ウルフに命中し爆発炎上する。

高さ五メートルの炎の竜巻が巨大狼を囲むように生まれ高熱で焼こうとする。だが、冥界ウルフの毛皮は高温の炎にも耐えるだけの耐火能力を持っていた。

冥界ウルフは炎を掻き分け火炎竜巻の囲みから脱出し姿を見せる。

同時刻、城に魔獣が現れたのを知ったリカルドたちは、太守閣に向かった。

太守閣は城の敷地の中央に聳える石造り五角形の建造物である。その要塞のような建物の正面に陣取っている近衛兵たちが血塗れになって倒れていた。

「遅かったか」

イサルコが呟いた。