軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:47 魔動スクーター

荷車から魔動スクーターを降ろしヴィゴールと二人で点検する。

「問題は無いようだな」

「それじゃあ、試運転といきますか」

リカルドの言葉にエミリアが不安そうな顔をして確認する。

「本当に倒れずに乗れるの?」

「慣れたら誰にでも乗れるようになりますよ」

リカルド達が作り上げたスクーターにはハンドルの中央に起動キー、右に後輪ブレーキレバー、左にクラッチレバーが組み込まれ、左側の足元に前輪ブレーキペダル、右側の足元にアクセルペダルが有った。

このアクセルは魔術駆動フライホイールの魔術回路に流れ込む魔力量を調節することでフライホイールの回転速度を調節する仕組みである。

ただ、このスクーターには単一のギヤ比で動力源からの回転を変えて伝達する変速機しか付いておらず、ギヤの変更はできなかった。

この国の金属加工技術で複雑な変速ギアの開発は無理だと判断した結果である。

リカルドは起動キーを回し魔力バッテリーと魔術駆動フライホイールの導線を繋ぐとスクーターに跨りクラッチを握り締めると同時にアクセルペダルを踏む。

シートの下で魔術駆動フライホイールが回転を始めるのを感じた。リカルドはゆっくりとクラッチを離し魔術駆動フライホイールの回転力を後輪に伝え始める。

魔動スクーターがゆっくりと走り始めた。

「オオッ、動いたぞ」「本当に動いた」

見守っていた見物人の間から声が上がった。

エミリアとヴィゴールの二人は興奮した表情を浮かべている。

初めはバランスが取れずフラフラとして何度か地面に足を着いてバランスを立て直した。だが、一〇分もすると身体がバランスを取ることを覚える。

これほど早く乗れるようになったのは、日本で間藤がバイクに乗った経験があるからかもしれない。

ブレーキのテストをしてみたが、問題ないようだ。ただ、停止と発車時のクラッチ操作が面倒だと感じた。

訓練場を何周か走ると運転のコツが分かってきた。そして、欠点も幾つか気付く。

その一つはタイヤである。魔動スクーターのタイヤは木製のフレームに鉄の輪を付けたもので乗り心地がいいとは言えなかった。

「ウウッ、尻が痛い……タイヤの改良は時間が掛かりそうだから、シートにバネでも入れて衝撃を吸収するようにしよう」

この国でゴムを見たことがないので、ゴム製のタイヤは作れそうになかった。それにサスペンションなどの緩衝装置を開発するのも時間が掛かりそうである。

タイヤの次に問題視したのはスピードだった。魔動スクーターのスピードが時速二〇キロほどしか出なかったのだ。どうやら魔術駆動フライホイールの運動エネルギーが途中で ロス(消失) しているらしい。未熟な技術で作り上げた駆動伝達経路はまだまだ稚拙で問題があるようだ。

間藤(リカルド) の育った家は、父親が修理工場を経営していた。そんな家庭環境で育ったせいなのか、間藤は機械に詳しく、自分なら構造の簡単な二輪車くらいは容易に開発できると考えていた。

だが、一つ一つの部品を一から作らなければならないと判った時、後悔し自転車の開発から始めた方が良かったかもしれないと反省した。

とは言え、魔術士兼魔導職人である自分が自転車を開発するのも何か違うような気がする。

「まあいいか。一応走ったんだから」

リカルドによる試運転が終わった後、エミリアとヴィゴールも乗ってみた。

クラッチ操作とバランスを取るのに苦労していたみたいだが、一時間も練習すると真っ直ぐだけなら走れるようになった。二人ともバランス感覚はいいようだ。

試運転の様子を見ていたモンタがリカルドの身体によじ登り訴えた。

「モキュキュ、キュアキュ」(モンタも乗りたい)

「乗り心地はあんまり良くないよ」

「キュキュキュエ」(それでもいい)

「後で乗せて上げるよ」

「キュエキュ」(楽しみ)

モンタが 小躍(こおど) りして喜んだ。

ヴィゴールが試運転から戻ると魔動スクーターを大勢の見物人が取り囲んでガヤガヤと騒ぎ始めた。

「どうやって走っているんだ?」

「何で倒れないんだよ」

「これってエミリアさんの発明なのか?」

そこに騒ぎを聞き付けたジェズアルド代表理事が姿を現した。

「アッ、代表理事だ。皆、道を開けろ」

ジェズアルドが魔動スクーターの近くまで来てジッと見つめてから、エミリアに話し掛けた。

「これはエミリアさんの発明なのかな?」

エミリアは首を振り。

「いえ、このリカルドの発明です」

ジェズアルドがリカルドの顔を見て。

「オヤッ、君の顔には見覚えがある。確か雑務局に配属された新人ではなかったかな」

リカルドは姿勢を正し自己紹介する。

「はい、雑務局のリカルドです」

「ほほう、こんな非凡な才能を持つ若者が雑務局に埋もれていたとは……イサルコ理事は彼の才能に気付いていたのかね」

イサルコは一瞬困ったという顔をしてから答える。

「はあ、才能には気付いていましたが、このような乗り物を発明していたことは今日まで知りませんでした」

「素晴らしい才能じゃないか。こういう若者こそ、究錬局で研究に従事して欲しいものだね」

代表理事の言葉は重く受け止めなければならない。リカルドの希望には反するが、究錬局へ配置換えするしかないようだ。

「今年の魔術士認定試験が一段落した頃に、リカルドを究錬局に移しましょう」

「うむ、それがいい。究錬局での活躍が楽しみです」

ジェズアルドが満足そうに頷いた。

リカルドは自分を置いてけぼりにして配置換えの話が進むのに唖然としていた。

どうやら魔術士協会の訓練場で魔動スクーターの試運転をしたのが拙かったらしいと気付いたが、時すでに遅く究錬局への配置換えは決まってしまった。

イサルコも代表理事の言葉には逆らえないようだ。何か理由があって雑務局へ配属していたわけでもないので当然だろう。

リカルドはマッシモとなるべく顔を合わせない所に研究室を用意してくれるように頼もうと思った。マッシモと毎日のように顔を合わせるような職場は願い下げだ。

改良点も幾つか見付かったので試運転を終了しエミリア工房に戻った。

取り敢えずシートだけは早急に改良し、アントニオに乗ってもらうことにした。

魔動スクーターは二台作ろうと決めた。一台はアントニオが使い、一台は自分が使いながら改良を続けようと考えている。

「ねえ、魔動スクーターはこのまま開発を続けるとしても、前に言っていた自転車という乗り物を開発した方がいいんじゃないの」

エミリアも同じことを考えていたらしい。魔動スクーターは消費する魔力が多すぎて普通の者には扱えないと感じたようだ。

数日後、アントニオが魔動スクーターに乗って飼育場に向かう。

アントニオは三日間の練習でスクーターの運転方法を覚え、今日から通勤手段として使い始めた。

練習を始めた頃、リカルドはアントニオの左手でクラッチ操作が可能か心配したが、左手はリハビリにより、かなり動くようになっておりレバーを引くくらいの操作は間違いなくできるようになっていた。

朝早く魔動スクーターに跨ったアントニオがアクセルを少し踏み込み発進させる。静かに動き出したスクーターは石畳の道を駆け足と同じくらいのスピードで走り出した。

朝が早いので人通りは少ないが、それでも数人の通行人と行き交う。初めて魔動スクーターを見た人々は目を丸くして走り過ぎる奇妙な乗り物を見た。

アントニオはスピードを上げ、若い男性が全力疾走するくらいのスピードで走り始めた。

それほど時間も掛からず飼育場に到着した。今までの三分の一ほどの時間しか掛かっていないようだ。飼育場には日時計しかないので正確な時間は分からないが、通勤時間をかなり短縮できたのは確かである。

「アントニオ様、それは何ですか?」

ダリオが近付いてきて尋ねた。その後ろに居るエリクとフレッドも不思議そうな顔で魔動スクーターを見ている。

「これかい、リカルドが作った乗り物で魔動スクーターと言うんだ」

アントニオは誇らしそうに胸を張って教えた。

「乗ってるところを見せてくださいよ」

エリクが頼んだ。

アントニオが魔動スクーターで飼育場を一周し戻ってくる。

「いいな、俺も欲しい」

フレッドが呟くように言うとダリオとエリクが頷いた。

魔動スクーターは王都で有名になった。アントニオが魔動スクーターに乗って帰る時、道の両脇に大勢の子供たちと暇な人々が並び見物するようになった。

王都の多くの住民が興味を示し始めると、この新しい乗り物を欲しいと思う金持ちが現れる。

その一人ドナデル侯爵の次男ファーゴが親しい商人のメルザリオに相談した。

「あの魔動スクーターとかいう乗り物を手に入れられないか」

ファーゴは王都のバイゼル学院で学ぶ学生であると同時に魔術士でもあった。二年前の魔術士認定試験に合格しているのだ。

メルザリオは王都で魔術道具の商売をしている商人で、あくどい商売をしているという噂がある。

「あれですか……難しいですな」

「何故だ? あれも魔術道具の一種なのだろう」

「それはそうなのですが、開発中のもので販売はしていないようなのです」

「では、毎日のように乗っているあいつは、何者なんだ?」

「開発者の親族らしく、テストも兼ねて乗っているようです」

「テストだと、どういうことだ?」

「魔術道具を開発する場合、最後に何度も何度も使い続け壊れないかテストするのです。そのテストに合格しないと商品を売ってしばらくした時、商品が壊れるという可能性が残るのです」

ファーゴは納得したという表情を浮かべたが、魔動スクーターを諦めたわけではなかった。

「ふん、そのテストを身内にやらせているのか……メルザリオの抱えている工房で同じものが作れないのか?」

メルザリオは渋い顔をして首を振った。

「無理です。あれは今までに無かった新しい魔術道具なのです。仕組みが分からないのでは作りようがありません」

「その仕組が分かれば作れるのだな」

「まあ、そうですが……エミリア工房の者が教えるとは思えません」

「実物が有れば調べられるのではないか?」

メルザリオはしばらく考え、この貴族の若者が何をしようとしているのか推測してから返事をする。

「ええ、恐らく可能だと思います」

ファーゴの顔にどす黒い表情が浮かんでいた。

メルザリオは、この坊ちゃんが法律に触れるようなことをしようとしているのに気付いた。だが、魔術道具を扱う商人として魔動スクーターに興味があった。実物を手に入れ、同じようなものが製作できれば凄い商売になるという考えも頭に浮かぶ。

商人や職人の間には明確な発明者が存命する発明品と同じ物を発明者の許可なく製作販売してはならないという不文律があるのはメルザリオも承知していた。

だが、この決まりにも抜け道がある。外国からの輸入品は対象外となっているのだ。メルザリオは東の隣国クレール王国にも工房を持っており、そこで同じものを製作し輸入したことにすれば非難されることはないと考えていた。

アントニオが魔動スクーターで飼育場に通い始めて数日後。

第二南門を通って少し進み、海岸の方へ曲がろうとした時、四人の男が前方に立ち塞がった。

アントニオは急ブレーキを踏み、怒鳴り声を上げた。

「危ないじゃないか!」

男たちは無言でアントニオを取り囲み、魔動スクーターからアントニオを引き摺り下ろした。

「何するんだ!」

アントニオは抵抗したが、四人の男が相手では無駄だった。殴られ蹴られながら地面に押し倒され容赦なく蹴られた。

アントニオはリカルドから贈られた魔功銃を携帯しておけば良かったと後悔した。護身用にとリカルドから貰ったのだが、その威力が人間を殺せるほどだと聞いて少し怖くなり、必要ないと家に仕舞ったままになっていた。

男たちが意気揚々と魔動スクーターを持ち去るのを地面に倒れながら見ているしかなかった。

「リカルド、ごめんよ」

そう呟くとアントニオは意識を失った。

アントニオが気付いた時、何か板のようなものに載せられ運ばれていた。

「アッ、アントニオ様。気付きましたか」

ダリオの声だ。ダリオたちが倒れているアントニオに気付き治療院に運んでいる途中だと知った。

大地母神ヴァルルの神官により運営されている治療院に運び込まれたアントニオは治療され、後遺症が残るような事はなかった。

ダリオたちから連絡を受けたリカルドは、治療院に駆け付けた。

寝台で寝ているアントニオを見て、リカルドの心に中に怒りが湧き上がった。

アントニオから襲ってきた奴らの狙いが魔動スクーターだと聞いて、唇を噛み締める。

「ごめんよ、兄さん。考えが足りなかった。こういうふざけたことをする奴らが居ることを予測しなきゃいけなかったんだ」

アントニオはリカルドの頭に手を載せ。

「リカルドのせいじゃない。俺の用心が足りなかったんだ」

そう慰められ、リカルドは逆に落ち込んだ。今回の件は完全に自分の落ち度だと思ったからだ。

魔動スクーターが注目を集めることは予測していたのだ。なのにアントニオの安全を守る努力をせず、アントニオが殺傷能力のある魔功銃を嫌って携帯していないのにも気付いていたのに、別のものを用意しなかった。

リカルドの怒りは襲った犯人には向かわず、何故か自分に向けられた。

その結果、犯人探しは王都守備隊に任せ、アントニオの装備を用意し何らかの方法でパワーアップさせようと決意する。

とは言え、犯人たちを許したわけではなかった。魔動スクーターを奪った相手には相応の罰が下されることを望んでいた。また、犯人たちの目的が魔動スクーターをコピーして販売することだったら苦労するだろうと思った。

エミリアから警告され、魔術駆動フライホイールの魔術回路にはプロテクトを施していたからだ。

治療院から家に戻ったアントニオに自分の決意を語った。

「こんなことが二度と起こらないように兄さんが強くなる必要があると思うのです」

「……そうだな。けど一朝一夕に強くはなれないだろ」

「ええ、そこで兄さん用の装備を開発しようと思うんです」

アントニオはその装備が周りに知れ渡ったら、また襲われるような気がして。

「その装備が原因でまた襲われるってことはないだろうな」

「そこは考えます」

周りから気付かれないような装備なら大丈夫だろうと考えた。