軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:35 王都の地下道

リカルドは魔功銃を三丁作り上げた。一丁はエミリアに進呈し、もう一丁は兄のアントニオに与えようかと考えている。

妖樹を飼育する仕事は危険を伴うからだ。今は妖樹クミリを飼育しているので危険はないが、この先妖樹トリルなどを飼育するようになった時、危険な目に遭う可能性が有る。

妖樹トリルの飼育は、魔成ロッドの材料確保のために実現したかった。この王都近辺には妖樹がほとんど居らず、どうやって魔成ロッドの材料を確保するかで悩んでいたのだ。

魔功銃を仕舞うヒップホルスターの製作もエミリアに依頼した。

魔功銃の製作と魔導職人の技術を学ぶ間に暑い季節が半分ほど過ぎ、雑務局の仕事にも慣れた頃。

実験飼育場では、スラム街に住んでいた三人の少年を雇った。

リカルドと同年代の少年たちで背の高いダリオ、鷲鼻のエリク、耳の大きなフレッドである。この三人はロマーノ棟梁が推薦してくれた少年たちだった。

少年たちの親は死んでおり、三人共天涯孤独の身の上だった。

リカルドが初めて三人を見た時、三人共痩せており、薄汚れた服を着ていた。

アントニオは三人を集めると実験飼育場について説明した。

「君たちには妖樹たちが食べる雑草を刈り集めてもらう」

「「「分かりました」」」

三人共しっかりしているようだ。

「アントニオ様、俺たちスラム街の空き家で寝泊まりしていたんだけど、そこから通うことになるの?」

アントニオはスラム街まで距離があるので毎日歩かせるのは大変かと思った。

「通うのが嫌なら、作業小屋に寝泊まりしてもいいぞ」

リカルドが寝泊まりできるようにと考えて建てた小屋は完成していた。但しリカルド一人が寝泊まりするのを想定して建てたものなので一人部屋なのだ。

小さな寝室が一つと炊事場、ちょっと広めの部屋が一つ。この広めの部屋で食事をしたり、事務仕事をしたりするつもりだった。リカルドは、この小屋を雑用小屋と呼んでいる。

「作業小屋でもいいです。ありがとうございます」

ダリオが代表して礼を言った。この三人の中ではダリオがリーダー的な存在のようだ。

そうと決まれば寝具や服を買ってやらねばならないとアントニオは思った。リカルドから雇った少年たちのために使うようにと金貨二枚を貰っているので資金は十分である。

アントニオは三人に買ったばかりの荷車を引かせて買い物に街に向った。

街で安物の寝台とシーツ、毛布を購入した。他にも食器や鍋などの調理器具、古着と下着を二着ずつ。生活に必要なものを購入すると実験飼育場に戻り、荷車から荷物を下ろした。

その後、荷車を引いて王都の東に広がる農業地帯へ行き、 麦藁(むぎわら) を大量に購入してきた。この麦藁を寝台に敷き詰め、その上にシーツを被せればベッドの完成である。

食料は基本的にアントニオが購入して持ってくることにした。リカルドがキャリーカートという便利なものを貸してくれたので、三日分ぐらいをまとめ買いして運ぼうと考えている。

料理はエリクが得意だと言うので任せることにした。

アントニオは三区画を見回り、妖樹達が順調に成長しているのを確認した。

第一区画の妖樹クミリは魔境で見たクミリと同じほどまでに成長している。実を付けた妖樹クミリも同じほどだったので、このクミリもやがて花を咲かせ実を着けるだろう。

第二区画のサザミの枝を接ぎ木した妖樹(オリーブに似ているのでオリーブ妖樹と命名)は鈴なりの白い花を咲かせていた。

この花の数から想像するとたくさんの実が生るだろう。

第三区画の杏妖樹は動きが一番少なくなっている。元気がないのかと心配するも栄養として吸収する雑草の量は一番多く、接ぎ木したシュラム樹の枝も順調に成長しているようなので大丈夫だろう。

リカルドはアントニオから実験飼育場の様子を聞いて、暫くは兄に任せておけば大丈夫だろうと判断した。

最近は依頼書と結果のメモ書きを報告書に纏める雑務局の仕事も要領が分かり、ノルマ分を午前中だけで終わらせられるようになった。

そして、空いた時間を有意義に使っているかと言うと……ちょっと精神的な疲れが溜まっていたので、のんびりしている。

魔術士協会の敷地内には芝生と常緑樹が植えてある公園のような場所があり、その木陰で昼寝をしたりボーッとしていたりする。

モンタは木に登って飛ぶ訓練を始めたようだ。リカルドはその様子を眺めながらぽやぽやとしたのんびりした時間を楽しんだ。

そんな日が一〇日ほど続いた頃、新人教育担当のクラレッタに呼び出された。

二階にある第二控室に行くとレミジオとビアンカも呼び出されたようで先に来ていた。

「君らを呼んだのは、報告書の作成だけでは時間を持て余しているようだからよ」

レミジオが苛立たしそうにクラレッタを見て。

「僕は研究で忙しいんだ。用件を言え」

彼は報告書の作成を使用人に任せ、新しい複合魔術の研究をしていたらしい。

マッシモが提出した研究論文は魔術士の間に波紋を広げ、別の複合魔術を見つけ出そうという魔術士が続出した。レミジオもその一人で、【風】と【火】の複合魔術を研究していた。

クラレッタはレミジオをちょっと睨んでから。

「雑務局に来ている依頼の一つをあなたたちに引受けてもらうことにしたの」

リカルドは魔術士協会内で昼寝をしていたのはまずかったかと反省した。クラレッタに見られて仕事を押し付けられることになったようだ。

「それで依頼と言うのは何ですか?」

「王都の地下に地下道があるのを知ってる?」

そんなものが有るとは知らなかった。レミジオは知っていたようだが、ビアンカは知らなかったようだ。

「旧王朝時代の遺物だろ。それがどうした」

レミジオが言う旧王朝というのは、現在のロマナス王朝が成立する前に栄えていたアメンドーラ王国のことである。八〇〇年ほど前の大崩壊で滅んだ王国で、その後四〇〇年ほど続いた混乱期の後、ロマナス王朝が成立し現在に至っている。

「地下道の一部に魔獣が巣食っているみたいなので調査を頼みたいのよ」

ビアンカが眉をひそめ。

「魔獣というと危険な奴なんですか?」

「いえ、ネズミか何からしいわ」

ネズミと聞くと鬼面ネズミを連想した。地下道で大量の鬼面ネズミと遭遇するのは勘弁して欲しかった。

「ふん、ネズミだって。そんな小物なんか放っておけばいいのに」

レミジオが無責任なことを言う。それを聞いてクラレッタの顔が強張った。

「魔獣が王都に這い出てくれば大騒ぎになるのよ」

「ネズミぐらいで大袈裟な」

レミジオは魔獣と戦った経験があるらしい。彼にとって鬼面ネズミなどは雑魚に過ぎないようだ。

「とにかく、あなたたちは地下道に潜って調査をしなさい。できるなら、どこから魔獣が入り込んだのか見付けるのよ」

リカルドたちは地下道の調査を行うことになった。依頼の報酬額を聞いたが、あまり高くはない。簡単な仕事だと思われているようだ。調査期間は五日間、王都の地下に広がる地下道網は一日では調べられないほど広大なものである。当然だが、報告書の作成はお休みだ。

クラレッタから今日中に調査に必要な装備を整えておくように言われた。地下道の調査なので明かりと触媒は必要だろう。

明かりは魔術士協会の備品倉庫からカンテラを借り、触媒は街の触媒屋で補充した。

「あんな報酬額じゃ高い触媒は使えないわね」

一緒に触媒を買いに来たビアンカが愚痴のように零す。

レミジオは補充する必要はないと言っていた。自宅に買い置きがあるのだろう。

リカルドとビアンカは【地】の触媒を幾つか購入した。

翌日、クラレッタに連れられ王都の中心部であるバイゼル城の近くにある地下入口に向った。

その入口は鉄の扉で封鎖されていた。

扉の前には兵士が二人立っており、クラレッタの姿を見ると扉の鍵を開けてくれた。

「気を付けてくれ。俺たちの中にも魔獣の鳴き声を聞いた者がいる」

そんなことを言うなら自分たちで魔獣を始末すればいいのにと思ったが、この兵士は城を警備する者たちなのだろう。警備すべき場所を離れるわけにはいかないのは分かっていた。

「あなたたち、夕方には魔術士協会に戻り報告をするのよ。相手がネズミでも油断は禁物なのを忘れずにね」

扉が閉まると中は真っ暗となった。カンテラに火を点ける。その明かりで三つの人影が浮かび上がった。

ビアンカはズボンとシャツという身軽な格好をしており、触媒ポーチだけで武器はロッドしかなかった。

一方レミジオは一目見て高価だと分かる服を着ていた。シャツには贅沢な刺繍が施されており、カンテラの光で照らされ銀色の刺繍糸がキラキラと光っている。

どう見ても場違いな服装だ。武器はショートソードと魔成ロッドを持っている。

リカルド自身はと言うと、いつもの狩りの格好にヒップホルスターには魔功銃がある。

鉄の扉の内側には階段があり、地下へと続いていた。幅は五人ほどが並べるほどあり、加工した石で作られていた。

「ボーッとしていないで行くぞ」

レミジオが声を上げた。明かりを持ってきていないようだ。リカルドとビアンカに明かりを掲げさせるとスタスタ階段を下り始めた。

「おい、足元が暗いぞ。ちゃんと照らせ」

我儘な公爵令息の文句に思わず溜息を吐いた。

階段を下り地下道に到着した。クラレッタから聞いた話だと地下道はここを中心に無限の記号『∞』のような形で王都中の地下に広がっているらしい。

幅は六メートル、高さは三メートルほどなので結構広い。旧王朝の人々は地下道を何に使っていたのか気になる。日本人の間藤としては地下鉄を連想するが、この世界は科学技術が発達していないので地下鉄として使ったのではないだろう。

「よし右回りに北東の方角へ向かうぞ」

魔獣が侵入するとしたらクレム川付近からだと考えられるので、レミジオの意見は妥当なものだと思うが、他の人の意見も聞かずに勝手に決めるのは……そう、リカルドは思った。

ビアンカは肩を竦め北東に向かう。リカルドも魔力察知で魔獣を探しながら歩み始めた。

一時間ほど歩いた頃、魔力察知が前方に何か居るのを感知した。どうやら鬼面ネズミらしい。

「前方に鬼面ネズミらしい魔獣が五匹」

リカルドが警告を発するとレミジオとビアンカはロッドと触媒を取り出す。

レミジオが魔成ロッドを取り出したので意外に思った。雑魚だと言っていた鬼面ネズミ相手にはショートソードで仕留めるかと思っていたのだ。

リカルドはカンテラを地面に置き、魔功銃を右手で抜き、左手には魔成ロッドを握った。

闇の中から現れたのは鬼面ネズミだった。集団で駆け寄ってくるのを見たレミジオが【嵐牙陣】を放つ。幾つもの風の刃が生まれ鬼面ネズミに向って飛翔した。

全滅するかと思われた攻撃魔術だったが、地下道内は暗く黒っぽい鬼面ネズミを狙うのは難しかった。三匹だけが致命傷を受け倒れ、残る二匹はリカルドとビアンカを目掛けて襲い掛かる。

リカルドはビアンカに襲い掛かった鬼面ネズミを魔功銃で撃ってから、自分に飛び掛かった鬼面ネズミには左手に持っていた魔成ロッドを叩き付けた。

ビアンカは闇の中から鬼面ネズミが現れた時、慌てた。以前にも戦った相手だったが、その時は昼間の草原だった。薄暗い場所だと、こんなに狙いがつけ辛いとは知らなかった。

魔術を準備している間に、鬼面ネズミが飛び掛かってきた。

必死で逃げた。その時、ブンという音を聞いた。空中にいた鬼面ネズミがぶるんと震え力なく地面に落ちる。

「えっ」

驚きの声を上げてから、年少のリカルドの方を見ると奇妙な武器を右手に持ち、ビアンカを襲った鬼面ネズミを攻撃したらしいのに気付いた。

戦いが終わり、リカルドが鬼面ネズミから触媒となる牙を回収しているとビアンカが歩み寄る。間近に見ると同僚である少年は、幼さの残る子供だった。

こんな少年が自分以上に戦い慣れていると知り、ビアンカは驚いた。

「助けてくれてありがとう」

レミジオも近寄り。

「おい、今使った武器は何だ?」

「新しい魔砲杖を作ったエミリアさんの工房で一緒に開発した『魔功銃』という武器です」

「魔砲杖の一種なのか。小さいな」

物欲しそうな目で見ているが、魔功銃は三丁しか存在しないものだ。譲るわけにはいかない。

リカルドは魔功銃を仕舞うと先に進もうと促した。

「チッ、周りが暗すぎて戦い難かったぞ。明日は何とかしろよ」

この貴族様は自分でなんとかしようとは思わないようだ。貴族には珍しく春の魔術士認定試験を受けたので、貴族だからと言って特別扱いされたくないのかと思っていたが、そうでもないようだ。

単に少しでも早く魔術士になりたかっただけだったらしい。

「勝手なことを言わないで、私たちはあなたの使用人じゃなく同僚なのよ」

我慢できなくなったビアンカが抗議した。

抗議されたレミジオは驚いたような顔をしている。父親以外から言い返された経験がないのだろう。

「大体、何で明かりを持ってきていないのよ」

「五月蝿い、この中で戦闘力が一番なのは僕だ。僕が戦いやすいように周りが支援するのが効率的だろう」

戦術的には間違っていない。だが、最初から自分が一番強いと決めつけているのはどうなんだろう。

これ以上険悪なムードを広げないために、リカルドが仲裁に入る。

「こんな所で内輪もめしている場合じゃないですよ。先に進みましょう」

ビアンカがふっと笑った。

「何か、リカルドが一番年長者のように思える」

精神年齢なら一番年長だと思いながら。

「それは褒められているのかな。それよりクレム川に近付いていますので、周囲の壁もチェックしてください。魔獣が横穴を開けているかもしれません」

この地下道に魔獣が侵入するとしたら、地上から穴を掘り地下道に繋げた場合である。

「本当にしっかり者ね」

ビアンカがレミジオをチラリと見てから言った。

それから三〇分の間に、鬼面ネズミの群れに二度遭遇し撃退した。その時もレミジオは中級下位の魔術を連発している。……触媒と魔力は大丈夫なんだろうか。

リカルドが余計な心配をしている時、前方から何かを引き摺るような音がした。

急いで魔力察知を発動すると鬼面ネズミでは有り得ない大きな反応が返ってきた。

「前方に大きな反応あり。気を付けろ」

レミジオが舌打ちをして。

「チッ、大きな反応じゃ何も分かんないだろ」

「だったら、自分で確かめてください。但し危険かもしれませんよ」

リカルドは貴族様のご機嫌を伺っている余裕がなくなっていた。前方の反応は双角鎧熊に匹敵するものだったからだ。

「生意気な……」

リカルドは魔成ロッドと【爆散槍】の触媒を取り出した。

ビアンカが心配そうな顔をしてリカルドに尋ねる。

「ねえ、何なの?」

「反応の大きさは双角鎧熊に匹敵します」

その答えを聞いてレミジオとビアンカが顔を強張らせる。

漸くカンテラが照らす光の中に、そいつが姿を現した。

体長三メートル、モグラのような体形で体表は真っ黒な毛で覆われていた。その口には人間の足らしきものが咥えられており、よく見ると死体が巨大モグラの身体の下にあった。

リカルドたち三人は息を呑み顔色を青褪めさせた。