軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:235 新たなる旅立ち

リカルドがティターノフロッグを倒した後、魔境から魔獣が暴れ出るということは起きなかった。セラート予言の最後の年が終わった。

被害が相当出たのは事実だが、ロマナス王国だけで言えば、死傷者は最小限で抑えられたと思われる。但し、隣国のモルドス神国は、数十年立ち直れないほどの被害があったようだ。

ロマナス王国の死傷者は少なかったが、魔術士が大勢殉職した。特に宮廷魔術士は壊滅的な被害を出し、新しく作り直すとガイウス王太子が言っていた。

魔術士協会も代表理事と理事の数人が亡くなり、立て直しが大変になりそうだった。

王都で一番被害が大きかった貴族街では、屋敷の修理や建て直しが始まっていた。リカルドの新しい屋敷も建て直している最中である。

「リカルド、ワイが討伐局の局長にされそうなんやけど、どう思うがや?」

「ナサエル副局長を局長に、という声もあったけど、それはどうしても嫌だという人が多かったみたいだよ」

パトリックがナサエル副局長のことを思い出し、顔をしかめた。

「ナサエル副局長は活躍したんやけどな」

「黒震鎚で多くの魔獣を倒したそうだけど、黒震鎚は撲殺しているように見えるからな」

「作ったのは、リカルドじゃないきゃ」

「ナサエル副局長には、似合いそうだったから。まあいいじゃないか。それより、代表理事が決まらないらしい」

「魔術士協会の立て直しで、苦労することになるがや」

リカルドとパトリックが研究室で話していると、タニアが現れた。

「パトリックもここにいたのね。局長就任おめでとう」

祝福されても、パトリックは嬉しくない様子だった。局長になれば、苦労するからだろう。なにせ副局長がナサエルなのだ。

タニアがリカルドに目を向けた。

「理事の一人に、代表理事には誰が相応しいか、と尋ねられたので、リカルドの名前を出しておいた」

リカルドが驚いたような顔をする。

「冗談でしょ」

「リカルドは、伝説の魔獣三匹を倒しているのよ。それくらいは当然よ」

現在は生き残っている理事たちによって運営されているが、そろそろ代表理事を決めなくてはならない。

リカルドは代表理事などという面倒な役職は嫌だったので、代表理事の話は断った。そのせいで王権派の理事が代表理事になった。

それから数カ月後、屋敷が完成した後にリカルドとグレタが結婚した。王族や貴族も参加する盛大なものになった。

「リカルド、おめでとう」

「ありがとうございます、殿下」

ガイウス王太子を始めとする大勢から祝福されて、リカルドとグレタは大いに感謝した。

リカルドたちが結婚した一年後に、タニアとパトリックが結婚した。リカルドも、そんな気がしていたので、祝福した。

リカルドの家族は、それぞれで幸せを掴んだ。モンタもティアと結ばれ、多くの賢者モモンガが生まれて幸せそうだ。

幸せになったのは、ガイウス王太子も同じである。ミシュラ大公国のリリアナ王女と結婚し後継者も生まれたのだ。

後継者については、リカルドとグレタの間にも息子と娘が生まれた。

子供たちを育てながら、リカルドは魔術の研究を進め、賢者マヌエルの『魔術大系』に匹敵する『魔術原理』という著書を発表した。

この『魔術原理』が世に出ると、リカルドの評価が上がり、賢者マヌエルに匹敵するという声が高くなった。

その頃には、ガイウス王太子が代替わりしてガイウス王となっていた。

リカルドの評判を聞いたガイウス王は、リカルドに『賢者』の称号を送った。史上で二人目の賢者が誕生したのである。

リカルドは三十代となった時に、魔術士協会の代表理事となった。それから後輩を育てることに力を入れ、大勢の優秀な魔術士を育て上げた。

ガイウス王とリカルドは、この頃から国を発展させるために製鉄産業に力を入れ始る。造船業や建設業、それにリカルドが始めた自動車産業で、大量の鉄を使うようになったからだ。

この世界では石油が発見されていないので、魔術駆動フライホイールを推進機関とするものになる。自動車が国内に普及し、それが諸外国にも広まる。

そうなると、大陸の各国の中でロマナス王国が一つ抜きん出た力を持つ国だと思われるようになった。

「リカルド、大陸同盟の盟主にロマナス王国が選ばれることになった」

「おめでとうございます」

「リカルドのおかげでもある。感謝するぞ」

ガイウス王は、城の窓から副都街へと目を向けた。副都街は城から見えるほど大きな街となっている。

「セラート予言は、また繰り返されると思うか?」

王の問いに、リカルドは頷いた。

「九十年ごとに起きるのは、確実なようでございます」

ガイウス王が溜息を漏らす。

「我々が死んだ後になるな」

「はい、そのために準備はしております」

リカルドが『魔術原理』という魔術書を書き、後輩を育てているのも次のセラート予言に備えてのことだった。

「我々の孫、いや曾孫の時代になっているだろうな」

「そうでございますね」

「だが、伝説の魔獣は倒している。我々の時より、楽になるのではないか?」

「どうでしょう。魔境の異星人は、強力な魔獣を作る研究をしております。また別の魔獣を作っているかもしれません」

「やめさせることは、できぬのか?」

「この世界は、異星人たちが魔獣の研究をするために、用意した世界だそうです」

「人間はどうなのだ? どうやって、この世界に来た?」

「異星人が、別の世界から連れてきたのだと思います」

「余計なことを……連中がそんなことをしなければ、我々は生まれた世界で、楽しく暮らしていたかもしれないのに」

「そうですね。ですが、戻る方法はありません。我々は、この世界で生きていくしかないのです」

「そうだな。余は時々悩むことがある」

「何でございましょう?」

「王都だ。王都をこの場所に決めたのは、魔境が近くにあるからだ。魔獣を倒して手に入る触媒や素材が、国の主な産業だったから、祖先は王都をここにした」

ガイウス王は、王都を別な場所に移すべきなのではないかと、悩んでいるのだ。ロマナス王国に新しい産業が生まれ、王都の場所が魔境の近くである必要が薄れたのである。

「王家が、この場所を離れたら、セラート予言のことを忘れてしまうかもしれません」

リカルドがそう答えると、ガイウス王が意外だという顔をする。

「リカルドなら、『王都を移転しろ』と意見するだろう、と思っていた」

「魔獣になど負けない国にするのです。魔境の周りに鋼鉄の防壁を築き、伝説の魔獣にも打ち勝てる魔術士を育てる。逃げていては、強い国は造れません」

「分かった。王都を移転することはやめよう」

リカルドは自宅の屋敷に帰って、リビングのソファーに座った。

モンタが現れ、リカルドの膝の上に乗る。リカルドは優しく撫でた。

「リカ、こんな日がずっと続けばいいのにね」

「そうだな」

月日が過ぎ去り、リカルドも年老いた。根源力を使えば、老いることのない身体に変えることもできたのだが、リカルドはグレタや子供たち、兄弟・友人たちと一緒に老いることを選んだのだ。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

一組の夫婦と子供が、大きな墓の前に花束を置いた。

「お父さん、この墓は誰のなの?」

「伝説の魔獣を倒した賢者リカルドの墓だよ」

「僕、知っている。自動車を発明した人でしょ」

「そうだよ。偉大な人だったんだ」

子供の肩に賢者モモンガが駆け上がった。

「パト、お腹空いた」

「モモは、いつもそうだね」

「その賢者モモンガも、最初は賢者リカルドが育て始めたんだぞ」

「そうなんだ」

その家族は、賢者リカルドの墓に向かって、頭を下げてから駐車場へ向かった

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

死ぬ瞬間、リカルドは意識を源泉門に飛び込ませた。このまま死んでも満足できる人生を送れた、と満足したと思うのだが、研究者としてのリカルドは、もっと世界について知りたいと思ったのだ。

再び訪れた狭間の留界は、少しも変わっていなかった。根源力に満たされた世界は、苦しいほどのエネルギーに満ち溢れている。

「やり残したことは、全て実行したのかね?」

数十年前と同じ姿で、リカゲル天神族のウィセリアが立っていた。

「驚いたな。ずっとここで監視していたのですか?」

「そうではない。ここで監視しているのは、私の分身だ。本体である私は、別の星にいる」

「あっ、そうだ。やり残したことは、全てやり終えました」

「もう少し、家族と過ごせる時間が、残っていたはずだ。どうして病気など治して、最後まで家族と過ごさなかったのかね?」

「これでいいんです」

「そうか。ならば、失った身体の再生から始めねばならない。その方法を教えよう」

リカルドは根源力を基に、十八歳だった時の身体を再生した。

「次は、私の居る惑星に転移する方法だ」

リカルドはウィセリアから多くのことを学び、リカゲル天神族となって宇宙に旅立った。