作品タイトル不明
scene:229 中央研究所の魔獣
魔境のポイント4研究所では、リカルドにスーチャ星のジボウと名乗った異星人が、監視センサーに現れた数字を見て興奮していた。
「コレハ凄イ、コノ個体ハ、主ガ指定サレタ基準ヲ超エヨウトシテイル」
ジボウは、その個体の能力を確かめるために、魔境の中央研究所で管理している二体の魔獣を解き放つことにした。
この二体は魔獣を好んで捕食する魔獣だった。そこで中央研究所で管理していたのだ。巨蟻ムロフカに匹敵する戦闘力を持つ魔獣であり、注目している個体と戦えば、その能力を刺激して主が望む力を持つ個体が誕生するかもしれないと期待した。
そのことにより原住民が何人死のうと、構わない異星人たちだった。
中央研究所から伝説の魔獣と現地人に呼ばれている存在が解放された。三百六十年ぶりに解き放たれた魔獣たちは、頭に刻み込まれた情報を元に行動を開始する。
但し、巨体の魔獣は空腹を覚え魔境に住む魔獣たちを屠り食料とした。その容赦ない捕食活動で、巨蟻ムロフカが去ったことで静かになった魔境が、また騒がしくなる。
伝説の魔獣に追い立てられた一羽の熊喰い鷲が、魔境から飛び立ち王都へ向かった。その熊喰い鷲を追って見知らぬ魔獣が魔境を飛び立った。その鳥型魔獣に追い立てられるように王都の上空へ誘導された熊喰い鷲は貴族屋敷の屋根に下り立つ。
熊喰い鷲が選んだのはオクタビアス公爵の屋敷である。そして、見知らぬ鳥型魔獣がメルビス公爵の屋敷の屋根に止まった。その隣にはボニペルティ侯爵の屋敷があった。
爆雷鳥の来襲を経験した王都の住民は、建物の外に出ようとしなかった。爆雷鳥の犠牲になった人々が、建物の外に出て殺されたからだ。
王家では宮廷魔術士と独角ライフルを持った兵士を討伐に向かわせた。報告は、熊喰い鷲が現れたというものだったので、独角ライフルの連射と上級魔術で倒せると判断したのだ。
バイゼル城で魔獣の出現を知ったアウレリオ王子が、サルヴァートを連れて王太子の前に現れた。
「兄上、私も魔獣退治に参ります」
「しかし、大丈夫なのか?」
「私には、これがありますから」
アウレリオ王子は独角ライフルを出して見せた。サルヴァートの手にはトゥイストホーンがある。これは一角竜をサルヴァートが狩り、リカルドに頼んで製作してもらったものだ。
リカルドは戦力が強化されることを望んできたので、協力したのである。
「武器を過信するな。最後に勝利をもぎ取るのは、人間の技量だぞ。それから攻撃は、オルランドの合図を待て」
アウレリオ王子とサルヴァートは頷いた。
護衛を連れたアウレリオ王子は、街に出た。貴族街に向かって進むと、貴族屋敷の屋根に止まっている熊喰い鷲の姿が見えた。
指揮官であるオルランドがボニペルティ侯爵の屋敷にいると聞いていたので、その屋敷に入る。
「アウレリオ殿下まで、魔獣退治に来られたのですか?」
出迎えに出たボニペルティ侯爵の長男シルヴァーノは、驚きの声を上げる。
「ああ、オルランドは、どこにいる?」
「二階にいらっしゃいます」
アウレリオ王子は二階に上がり、オルランドを見つけて声をかけた。
「オルランド、なぜ攻撃せぬ。私を待っていたのか?」
「そうではありません。魔獣二羽のうち一羽は熊喰い鷲と分かったのですが、もう一羽の正体が分からぬので、それを調べているところなのです」
「どれだ?」
「あのメルビス公爵の屋敷にいる魔獣でございます」
アウレリオ王子は屋敷の窓から魔獣を見て、ゾクリとする感覚を覚えた。ただの魔獣ではない。体長は熊喰い鷲と同じ四メートルほどで、鋭い目と巨大な翼を持っている。熊喰い鷲と違うのは、鳥の王と呼んでも良さそうな風格が感じられることだ。
謎の魔獣と熊喰い鷲が睨み合っているので人間には見向きもしないが、何か切っ掛けがあれば二羽の魔獣は戦いを始めるだろう。
「お分かりになれますか?」
「ただの魔獣ではないな。どう思う?」
「伝説の魔獣に、風魔鳥というのがいると聞いております。もしかすると……」
「風魔鳥か、厄介な魔獣だな」
伝説として残っている魔獣だが、あまり詳しい特徴は残されていない。ただ【風】【火】【地】の魔術は使ってはならないという記録が残されていた。それをアウレリオ王子とサルヴァートは知っていたようだ。
「今、【水】の上級魔術を得意とする宮廷魔術士を呼んでいるところでございます」
「なるほど、【水】か。サルヴァートも【水】の上級魔術を習得している」
「ほほう、それは心強い」
「オルランド中将、オクタビアス公爵の屋敷で動きがあります」
全員が窓に近付き熊喰い鷲が止まっている屋敷に視線を向けた。魔術士らしい男が、最上階のルーフバルコニーに出てきて熊喰い鷲に魔術を放とうとしていた。
「余計なことを」
オルランドが呟いた。アウレリオ王子とサルヴァートはジッと見ている。
その魔術士が熊喰い鷲に【火焔剛槍】を放った。巨大な炎の槍が飛翔し熊喰い鷲へ迫る。熊喰い鷲は巨大な翼を広げ飛び上がり炎の槍を躱した。
謎の魔獣は魔術士の攻撃が気に入らなかったようだ。一声叫ぶと魔術士に向かって飛翔する。それを見た魔術士は謎の鳥型魔獣にも【火焔剛槍】を放った。
炎の槍が謎の鳥型魔獣に命中しようとした時、ドンという音がして魔術が撥ね返された。炎の槍は向きを変え魔術を放った魔術士に向かって飛翔し命中する。
「ぎゃあああーー!」
断末魔の叫びが貴族街に響き渡った。炎に包まれた魔術士はルーフバルコニーから地上へと落下して死んだ。
「……何ということだ。間違いない。こいつは伝説の風魔鳥だ」
オルランドが断定する。
サルヴァートは顎に左手を当てて難しい顔をしている。それを見たアウレリオ王子が尋ねた。
「何を考えている?」
「風魔鳥だとして、本当に【風】【火】【地】だけを撥ね返すのかどうかと考えていたのです」
「【水】の魔術も撥ね返すのではないかということか。試してみねば分からんな」
「ならば、試してみましょう。【消火水弾】を放ちます」
そんな話をしていた時、上空に逃げた熊喰い鷲が急降下してきた。狙いは風魔鳥である。鋭い爪を風魔鳥に突き立てようとした瞬間、風魔鳥が魔法を放った。
【嵐牙陣】に似たような魔法で、数十もの風の刃が熊喰い鷲に殺到し切り刻んだ。
本当の【嵐牙陣】なら、熊喰い鷲は軽いダメージを受けた程度だっただろう。だが、風魔鳥の魔法は威力が違った。熊喰い鷲の翼を切り落とし、その肉体を切り刻んだのである。
風魔鳥は、死んだ熊喰い鷲をオクタビアス公爵の屋敷の屋根に運んだ。そして、その肉を食べ始めた。
オルランドの部下が、伝説の魔獣の研究者を連れてきた。ストルキオという学者で、長年伝説の魔獣について研究しているという。
「ストルキオ先生、あの魔獣は何か分かりますか?」
オルランドは先程見た光景を説明した。
「伝説の魔獣である風魔鳥に違いない」
「やっぱりそうか。風魔鳥の特徴は何ですか?」
「それは【風】【火】【地】の魔術を撥ね返すということと、強力な魔法を持っているということだ」
「他には?」
「風魔鳥に弓矢は使うな、という記述も残っております。ほとんどダメージを与えることができない上に、魔法で反撃するそうでございます」
オルランドが頷いた。
「そうなると、やはり【水】の魔術で仕留めるしかないようです」
その時、シルヴァーノとグレタが紅茶を運んで来た。
「ん、妹さんも屋敷に残っていたのか。早く逃した方が良かったのに」
アウレリオ王子が言った。それを聞いたシルヴァーノが頷く。
「私もそう言ったのですが、妹が残ると言い張ったのです。前回の爆雷鳥の時には、外に出たところを襲われて死んだ者が多かったので、強くは言えませんでした」
グレタが力強い目付きで、
「私も魔術士の一人です。何かお役に立つことがあると思います」
「これは心強い妹さんだ。さすがリカルドの婚約者だ」
アウレリオ王子が笑いながら言った。それを聞いたシルヴァーノが苦笑いする。
「食べ終えたら、王都から離れてくれると助かるんだが」
サルヴァートが言う。それを聞いたアウレリオ王子が眉をひそめる。
「【水】の上級魔術で仕留めるのではなかったのか?」
「ここで【水】の上級魔術を使うと、周りの屋敷にも被害が及ぶのです」
アウレリオ王子が鼻で笑う。
「屋敷の心配などしている場合か、まずは仕留めることを優先しろ」
「承知しました」
オルランドとアウレリオ王子たちは、紅茶を飲みながら作戦会議を始めた。
グレタは自分の部屋に戻り、東側の窓から外を見る。そこには建築中の屋敷があった。それはリカルドとグレタが結婚した後に住むことになる新居だった。
貴族の屋敷と比べれば、それほど大きくはないのだが、少しずつ完成に近付くのを見て、グレタは幸せな気分になった。
「もう少しで完成ですよ。リカルド、早く無事な姿を見せて」
リカルドが巨蟻ムロフカを倒し、その時に魔法を受けて体調を崩したという連絡は受けていた。グレタはすぐにメルビス公爵領へ行こうとしたのだが、兄のシルヴァーノから止められた。
ボニペルティ侯爵家とメルビス公爵家は仲が良いとは言えなかったからだ。
作戦会議が終わり、宮廷魔術士たちが合流すると、兵士と魔術士たちが屋敷の外に出て道路から風魔鳥を見上げ動き始めた。宮廷魔術士の一人が【消火水弾】を風魔鳥に放つ。
風魔鳥は【火焔剛槍】の時のように撥ね返さなかった。素早く空中に飛び上がって避けたのだ。
「【水】の魔術を撥ね返せないというのは、本当らしい」
サルヴァートが満足そうに言う。
オルランドは独角ライフルを持つ兵士に、風魔鳥を狙って撃たせた。魔力圧縮玉は風魔鳥に命中する寸前に撥ね返され、撃った兵士の近くに弾着し爆発する。
兵士は爆風で吹き飛ばされ大怪我を負った。オルランドは血が出るほど唇を噛み締める。
「……すまない」
「使える武器が、一つ減ったか。残念だ」
アウレリオ王子が本当に残念そうに言った。その途端、風魔鳥がオルランドたちを狙って急降下してきた。宮廷魔術士たちが、援護の魔術を放つ。どれも【水】の魔術である。
【流水刃】【崩水槍】が放たれ、水刃や水の渦が風魔鳥に向かって飛ぶ。
数多くの魔術が一斉に放たれたので、さすがの風魔鳥でも全部を躱すことはできなかった。水刃のいくつかが風魔鳥の羽や胴体に命中する。
だが、大したダメージを与えられなかった。魔術を撥ね返せないだけで、魔術に対する耐性は高いようだ。
「やはり、上級魔術でないと大したダメージを与えられないか」
サルヴァートが呟く。
「サルヴァート、倒せそうか?」
アウレリオ王子が確認した。サルヴァートは渋い顔をする。
「命中すれば、倒せると思うのですが、空中を飛ぶ風魔鳥に命中させるのは、至難の業です」
サルヴァートは、宮廷魔術士たちのところへ行った。
「確認しておきたいのだが、どのような【水】の魔術を使える?」
【爆水弾】【竜爪斬】という答えが返ってきた。【竜爪斬】は射程が短いので命中させるのが難しそうだ。
風魔鳥は不機嫌そうに魔術士たちを睨んでいる。その中の誰が一番の強敵か見定めているようだ。そして、サルヴァートに向かって急降下してきた。
サルヴァートは【竜爪斬】を風魔鳥に放つ。この距離なら命中すると思ったのだ。賢者の上級魔術である【水神斧】を使わなかったのは、発動に時間がかかるからである。
竜の爪のような水刃の斬撃が四連続で飛ぶ。風魔鳥は機敏に動き二つまでは躱した。だが三撃目を胴体に受ける。風魔鳥は血を噴き出し錐揉み状態となる。
おかげで四撃目は命中しなかった。風魔鳥が道路に落下し、藻掻きながら起き上がる。
サルヴァートは絶好の機会だと判断し、【水神斧】の準備に入る。
もう少しで発動するという時、風魔鳥が飛ぶ体勢に入っていた。