軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:182 セラート予言の前夜

翌日、魔術士協会に行ったリカルドは、妖樹エルビルの枝を魔成ロッドに加工していた。

「リカ、それは誰の?」

連れてきたモンタが質問した。

「これは新しい魔成ロッドを作るために、用意しているものだよ」

「ふーん」

モンタは鼻をピクピクさせた。

「グレタだよ。こっちに来る」

モンタの嗅覚は、近付いてくるグレタの匂いを嗅ぎつけたらしい。

ドアをノックする音が聞こえ、グレタが入ってきた。今日は落ち着いた色合いのワンピースに白いジャケットを羽織っていた。

グレタは机の上に並んでいるエルビルロッドを見た。

「仕事が早いですね。もう三本も作ったんですか?」

「早く新しい魔術の開発に取り掛かりたいからね」

グレタはテーブルの上に置いてある失敗作のロッドを見た。黒魔術盾にエルビルロッドを組み合わせただけのもので、かなり不格好だ。

「もう少しカッコ良く……そう、盾を小さくできないんですか?」

「小さくできると思う。そうだな、これだと扱いづらいかもしれないな」

リカルドは形状を検討した末に、フェンシングの剣みたいな形状にしようかと考えた。半球のような鍔であるガードを黒魔術盾とすることで、扱いやすいものになると思ったのだ。

黒魔術盾の機能を手を守るガードの大きさまで圧縮するために、かなり苦労した。グレタとモンタも手伝ってくれた。

グレタは資料探しを手伝い、モンタは気分転換と癒やし役である。リカルドが疲れた顔をすると、「食べる?」と言いながら、レーズンを小さな手で差し出す仕草が可愛く、思わず笑みが浮かんだ。

二本のエルビルロッドが失敗で無駄になった。だが、三本目で新しい魔成ロッドの製作に成功した。出来上がった魔成ロッドに魔力を流し込む。黒いガードが付いたロッドに金色の雪華紋が浮かび上がる。

「これが特級魔術用のロッドですか」

グレタはエルビルロッドの存在を知っているので、金色に輝く雪華紋に驚くことはない。だが、特異な形状には興味を持ったようだ。

リカルドはロッドに組み込んだガード型黒魔術盾が機能するか試した。この盾の動力源は魔力蓄積結晶である。一度魔力障壁を発生させると、魔力蓄積結晶に溜め込んだ魔力を使い切るので、交換か魔力充填が必要だった。

魔力障壁発生のスイッチは、ガードに引き金を取り付けた。

「試してみるか」

リカルドとグレタ、モンタはルシープに乗って海に出かけた。

普段は誰も訪れない海岸へ到着したリカルドたちは、海面から岩が何個も突き出ている場所へ行く。海面から突き出ている岩を標的に魔術を使い、新しいロッドを試すつもりだ。

「魔術は、何を使うのですか?」

グレタが尋ねた。

「上級魔術の【陽焔弾】を使う」

新しく開発しようと考えている特級魔術は、【陽焔弾】を強力にしたような魔術になると、リカルドは考えていたのだ。

グレタとモンタには少し離れてもらい、新しいロッドを構えた。魔力をロッドに流し込み、触媒を撒き散らす。魔力が属性励起され真紅に輝く。

呪文を唱えた瞬間、属性励起された魔力がロッドの先端に向けて流れ出し、ロッドの先に凄まじい熱を持った光玉が生まれた。輻射熱で皮膚が熱い。

リカルドは失敗したと感じながら引き金を引いた。ガード型黒魔術盾が起動し魔力障壁が発生する。同時に光玉が発する熱を感じなくなった。

光玉が弾かれたように岩に向かって飛翔を開始する。岩に命中した光玉は、強烈な熱で岩を溶かし溶岩に変えた。

モンタは走り寄ってきて、リカルドの身体によじ登る。

「まぶしかった」

【陽焔弾】でも眩しいのだから、特級魔術はサングラスが必要かもしれない。

「成功だったのですか?」

グレタが近寄って尋ねた。

「いや、引き金を引くのが遅かったみたいだ」

「でも、魔力障壁は発生していました」

「そうだね、ガード型黒魔術盾は正常に起動した。問題は引き金を引くタイミングなんだよ。呪文と同時に引き金を引いた方がいいかもしれない」

何度か試してピッタリのタイミングを見つけ出した。呪文の詠唱で最後の単語を発した時に、引き金を引くのが良いようだ。

来た頃は雲一つない空だったが、雲が多くなり冷たい風が吹き始めた。

「寒くなったね。そろそろ帰ろうか?」

「はい。少しお腹も空きました」

「モンタも」

リカルドは笑いながら頷いた。

「副都街で何か食べてから、屋敷に送るよ。何を食べたい?」

グレタに尋ねたのだが、モンタが答える。

「串焼き、食べたい」

影追いトカゲの串焼きは、モンタの好物になっていた。但し、モンタの分は塩抜きである。

ルシープで戻る途中、雪が降り出した。大粒の雪がフロントガラスに当たり運転が難しくなる。ワイパーを開発しなければならない。

副都街に到着し、最近多くなった串焼き屋に寄った。リカルドが選んだ店は比較的グレードの高い、味で勝負している店である。

街の土木作業をしている作業員たちが立ち寄るような店は、もっと無骨で料理よりも酒をメインにした店になる。そんなところにグレタを連れていけないので、選んだ店だ。

「おや、リカルド様ではないですか。今日はアントニオ様ではなく、お嬢さんと一緒ですか」

偶にアントニオと一緒に来ることがある店なのだ。

「モンタが串焼きが食べたいと言うんで、寄ったんだ」

「ほう、モンタちゃんは味が分かるんだね」

「オヤジ、腕がいい」

それを聞いて、店の主人が笑った。

アントニオも気に入って、時おりここで一緒に食べることがあったのだ。

料理を注文して、話しながら食べ始めた。

「今年の冬も雪が積もるんでしょうか?」

「積もると思う。侯爵の屋敷は大丈夫だと思うけど、食料とか冬の分を十分に準備した方がいいよ」

「それは大丈夫だと思います」

貴族たちは昨年の経験から学んでいるようだ。

「そういえば、あの黒い大トカゲはどうしたんですか?」

「あれは猛毒黒トカゲと呼ばれているようだよ。今、職人に頼んで解体してもらっている。毒があるので、素材として使えるのは、皮と棘、牙、黒骨だけのようだ」

グレタは黒骨と聞いて、首を傾げた。

「黒骨というのは?」

「ああ、黒の触媒になると分かった」

黒の触媒は、今まで影追いトカゲからしか採れないと思われていたが、猛毒黒トカゲから大量に回収できると分かり、リカルドは喜んでいた。

記録に残っているセラート予言が実現すれば、【空】の魔術や黒震魔砲杖が活躍する機会が増えるだろう。そうなれば、黒の触媒が大量に消費される。

「棘については何か分かりました?」

「あれも黒の触媒に似たもので、機能としては体内の熱を調整する働きがあるようなんだ」

回収した三二本の棘は、後で研究しようと思っている。但し、まずは特級魔術の開発を続けなければ。

翌日、リカルドが目覚めると雪が積もっていた。まだ二〇センチ程度なので騒ぐほどではない。

「リカルド兄ちゃん、公園に行こうよ」

セルジュとパメラがリカルドの部屋に入ってきた。

リカルドは着替えて二人と一緒に外へ出た。風が冷たい。セルジュとパメラははしゃいでいる。

「ねえ、モンタちゃんは?」

パメラがリカルドに尋ねた。

「寒いから外に出るのは、嫌だって」

モンタはリカルドの部屋にある専用の寝床で眠っている。

「楽しいのに」

公園に行くと、何人かの住人が公園の雪景色を見て楽しんでいた。セルジュとパメラは雪だるまを作り始めた。これはリカルドが教えたものだ。

「リカルド兄ちゃんも手伝って」

パメラが雪玉を押しているが、大きくなって転がらなくなっている。

リカルドも手伝い雪だるまが完成した。石を目と口・鼻にした。

雪を楽しむ日は、これが最後になるかもしれない。明日も積もれば、出歩くのが困難になる。

その年の冬は、昨年並みの積雪となった。

しかし、王都では食料と石炭を地下道で販売したので、昨年ほどの混乱はなかった。それでも強度不足の建築物が崩壊したものもあり、ホームレスになった人々は王家が用意した宿泊施設や副都街の長屋で生活するようになる。

その中の一人がスラム街の住人であるミルカだ。

数日前の夜、ミルカのボロ屋は雪で潰れてしまった。寝ている時に、家がミシッミシッと音を立ててるのに気づいたミルカが妹を連れて外に出た途端、ボロ屋が崩壊したのだ。

妹は泣き出し、ミルカは途方に暮れた。

「どうしたら……あっ、副都街だ」

ミルカは自分も建設に参加した長屋を思い出した。

ミルカと妹は、副都街に向かって歩き始めた。途中、破壊音が響きスラム街のボロ屋が潰れるのを目にした。それを見たミルカは、不安になる。

「お兄ちゃん、さむい」

泣きそうな顔の妹は、ミルカに寄り添った。

ミルカも泣きたくなった。副都街を目指して歩いているミルカたちを見て、声をかけるスラムの住人もいる。

「おい、お前たち。どこに行くんだ?」

「副都街だよ。家が潰れたんだ」

「何で、副都街なんだ。王都の中に避難した方がいいだろ」

「副都街に建設された長屋は、大雪で家が潰れた人たちのためだって聞いたんだ」

「そうなのか。だったら、俺らも行こう」

「おじさんの家も潰れたの?」

「ああ、去年は何とか補強して大丈夫だったんだが、今年はダメだった」

ミルカたちは歩みを再開した。副都街を目指す人々が増え始めた。瞬く間に数十人に増えた人々が、副都街までの半分ほどを歩いた時、前方から声が聞こえた。

「お前たち、どうしたんだ?」

副都街の治安を守っている治安警邏隊の警邏官たちだった。大雪を心配して、スラム街の様子を見に行く途中だったようだ。

スラムの住人の一人が状況を説明した。リーダーらしい警邏官が部下の一人に命じる。

「この人たちを副都街に連れて行け。そして、アントニオ様に知らせるんだ」

「了解しました」

ミルカたちは、警邏官に先導されて副都街に行った。

副都街の入り口には街灯が設置されており、その明かりが家が潰れた人々の心に安心感を与えた。

警邏官が案内した長屋には、四人に一部屋が与えられた。そして、一人に一つの夜具が与えられた。ミルカには馴染みのないものだ。

「あのぉ、これ何ですか?」

警邏官に尋ねた。

「そいつは、寝袋だ。その袋の中に入って寝るんだ。温かいぞ」

寝袋は大人用しかなかったので、一つの寝袋にミルカと妹が入った。

「本当だ。温かいね」

その夜、ミルカたち兄妹は寒さに凍えずに眠ることができた。

王都近辺は家が潰れたことで死んだ者は出たが、凍死した者は出なかった。王家や副都街が十分な用意をしていたからだ。だが、まだセラート予言は本番ではない。

セラート予言が始まる来年は、こんなものではすまないだろう。

リカルドは特級魔術の研究を進めながら、冬を越した。

その特級魔術【白星焔弾】が完成した。この魔術は源泉門を持つリカルドであっても最大限の魔力を絞り出す必要があった。