軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:133 メルの散歩

その日、ユニウス家の庭では、モンタが頬を膨らませていた。リカルドがキレス領へ行くと聞いて、一緒に行くと言ったのだが、ダメだと言われたからだ。

リカルドとしては、範囲攻撃魔術の試験に立ち会うので、ちょろちょろと動き回るモンタは危険だと判断した。

「メル、ヒドイよね」

モンタは賢者ミミズクのメルに話しかけた。メルは産毛が抜け落ちると、驚くべき早さで成長していた。体格だけなら大人のミミズクと同じほどである。

「ギャギャ」(メルも行きたい)

「そう、そうだよね」

モンタは退屈なようだ。

「今日、何して遊ぼうか?」

メルが翼を広げ、嬉しそうに首を回す。

「ギャッ」(お散歩)

「お散歩。でも、メルは飛ぶんでしょ」

「ギャギャッ」(モンタ、一緒に飛ぶ)

「いいけど、メルは時々モンタのこと、忘れるから」

「ギャアッ」(大丈夫)

モンタは首を傾げた。メルは空を飛ぶと夢中になって、一緒に飛んでいるモンタのことを忘れる傾向があるのだ。

モンタは首輪に付いている収納紫晶から、セルジュが作ったカゴを取り出した。何かの蔓で編んだカゴで、同じ蔓で編んだ取っ手が付けられていた。

モンタがカゴに乗ると、メルが取っ手を足で掴みバサリと羽ばたいた。モンタの乗るカゴを掴んだメルが、上空に舞い上がる。

「ギャーー」(気持ちいい)

「そうだね。でも、足を放さないでね」

「ギャッ」(任して)

メルはアントニオのいる飼育場へと向かう。人間が歩くと一時間半ほどかかる距離も、メルが飛ぶと一〇分ほどで到着。

メルは海岸沿いの上空を旋回する。眼下には多くの人が働いていた。

「アントニオは、どこかな?」

モンタがメルに尋ねた。

「ギャッ、ギャ」(アントニオ、あそこ)

開発区画の中心辺りでアントニオを見付けたメルが、急降下する。

「はや、速すぎるうぅぅーーー!」

急降下でカゴから放り出されそうになったモンタが、悲鳴のような声を上げた。

アントニオの傍にメルが舞い降りた。

「やっぱり、メルか。カゴを持った鳥が飛んでいるから、メルとモンタじゃないかと思っていたんだ」

アントニオが声をかけると、カゴを放したメルがアントニオの肩に飛び乗った。

メルは嬉しそうに頬ずりする。

「よしよし、どうしたんだ?」

「ギャッ」(お散歩)

「そうか。変な奴がいたら知らせてくれよ」

最近、開発区画が騒がしくなったからなのか、魔獣が近付くことが多くなったのだ。

「ギャオ」(知らせる)

モンタは地面に転がっていた。メルが勢いよくカゴを放したので、カゴから放り出されたのだ。

「メル……モンタの扱いが雑」

メルがモンタを見て、

「ギャウ」(ごめんなさい)

モンタはお兄さんなので、我慢することにした。

メルはアントニオと遊んだ後、また飛び上がった。もちろん、その足にはモンタが乗ったカゴがある。

「メル、どこいくの?」

「ギャオッ」(見回りする)

アントニオから魔獣がいるかも知れないと聞いて、周辺を見回る気になったようだ。

上空を旋回するメルは、その鋭い視力で地上を確認する。

「変な奴が見える?」

「ギャウ……ギャオッ」(見えな……見付けた)

「えっ、何を?」

メルが発見したのは、二匹のホーン狼だった。

大型犬ほどの体格で、額に角を持つ狼である。凶悪な牙を持つ狼は、武器を持たない人間なら簡単に殺せそうだ。

「メル、アントニオのところに飛んで」

「ギャウ」(了解)

アントニオのところに戻り、モンタはホーン狼のことを報告した。

「よく見付けた。どこにいるか案内してくれ」

アントニオは収納紫晶から魔彩功銃を取り出した。

「二匹だけなら、これで十分だろう」

その様子を見ていた作業員の一人が不安になったのか、アントニオに尋ねた。

「どうかしたんですか?」

「ホーン狼が出たらしい。今から退治してくる」

その作業員は同行を申し出た。

「俺は、元魔獣ハンターなんですよ」

二年ほど魔獣ハンターをしていたが、思ったほど稼げないので諦めたらしい。

その作業員は、プラチドという名前らしい。三〇代後半の体格の良い男である。そんな男でも魔獣ハンターを諦めたのだ。魔獣ハンターで成功するには、幸運が必要なのだろう。

「それじゃあ、これを使ってくれ」

アントニオは予備武器として持っている魔功銃を渡した。

「これが魔功銃ですか」

「ああ、頭を狙って引き金を引けばいい。絶対に人に向けるなよ」

「分かりました」

年齢はアントニオの方が若い。しかし、ユニウス飼育場の経営者となり、多くの雇用者を抱えるようになったアントニオは、貫禄のようなものが備わるようになっていた。

モンタとメルの案内で、ホーン狼に遭遇した。

プラチドが少し興奮して声を上げる。

「本当にいた」

自分たちが疑われたと思ったモンタが頬を膨らませる。

「モンタ、嘘つかないよ」

「ありがとう。モンタ、メル」

アントニオは礼を言って、魔彩功銃を構えた。それを見て、プラチドも構える。

「プラチドは、左の奴を狙え」

「は、はい」

久しぶりに魔獣と相対し、恐怖を感じているようだ。

その恐怖を感じたのか、モンタが、

「モンタも手伝おうか?」

「二人だけで大丈夫だ」

アントニオが笑って答えた。

ホーン狼は警戒しているようで、ゆっくりと歩み寄る。プラチドが射程内に入る前に、引き金を引いた。

その衝撃波は、狼の肩を掠めて後方の地面に生えている雑草を切り刻む。

ギャンと鳴き声を上げたホーン狼は、後方に跳び退いた。

「攻撃が早い。もう少し引き付けてから撃つんだ」

アントニオが強い口調で言った。

もう一匹のホーン狼が、アントニオに向かって跳躍した。その狼が空中にある間に、魔彩功銃の引き金が引かれ息の根が止まる。

プラチドはやけになって狼を追って飛び出し、魔功銃を乱射する。アントニオなら、頭を狙って一撃で仕留めるのだが、魔功銃について知らず慣れていないプラチドは乱射する方法を選択したのだ。

「もういい。死んでいる」

アントニオが止めた時、プラチドが持つ魔功銃の魔力は尽きていた。

この経験で、将来建設される町を守る集団が必要だと感じた。

アントニオは自警団の必要を感じ、それを作るためにどうすればいいか悩む。王都の傍に武装集団を持つことは、少なくとも王家の許可が必要だった。

リカルドに相談しなければならないようだ。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

キレス領へ出発する日、リカルドは魔術士協会へ向かった。魔術士協会には、十数人の魔術士が集まっていた。その多くがジャンピエロと同じ長老派の魔術士である。

「おはよう」

タニアと朝の挨拶を交わした。その後ろでパトリックが眠そうな顔でアクビをしている。

「眠そうだね。夜遊びですか?」

パトリックがニヤッと笑う。

「なははは……。昨日、飲み屋でモテモテで」

タニアの鋭い視線が、パトリックの顔に突き刺さる。

「へえ、モテたんだ」

「そういう日も、あるんだがや」

パトリックは念願が叶い、来年から討伐局に配属替えになる。イサルコの尽力とパトリック自身が魔術の技量を上げたからだ。

それが原因で気分が高揚しているのか、飲みに行く機会が増えたらしい。

ジャンピエロがリカルドたちに気付き近寄ってきた。

「君たち、一緒にキレス領へ行くそうだね?」

タニアが代表し、

「ええ、勉強のために見学させてもらいます」

「イサルコ理事の指示じゃないのか」

リカルドは曖昧に笑った。

「儀式魔術がどんなものか。見聞を広めるには、絶好の機会ですから」

ジャンピエロが嫌な感じで、リカルドたちに視線を送る。

「ふん、見聞だと……我々の技術を盗むつもりじゃないのか?」

パトリックが目を怒らせた。リカルドは目で合図して堪えさせる。

出発したリカルドたちは、ジャンピエロたちの後ろを歩み始めた。港に到着した一行は、コグアツ領行きの船に乗り込んだ。

船は、旧来の帆船である。コグアツ領まで二日、退屈な船旅だった。

コグアツ領の領都ブルグから、リョゼン領の領都モルタを経由してキレス領へ向かう。三人はブルグで借りた馬車に乗っていた。

「ジャンピエロの術者としての実力は、どれほどか知っていますか?」

リカルドの質問に、タニアが答えをためらう。

「……私もあまり知らないの。ジャンピエロは、魔術士協会で練習しないのよ」

長老派は秘密の練習場を持っているらしい。どうして、秘密の練習場を長老派が持っているのかというと、長老派は独自に開発した魔術をいくつか持っており、他派の魔術士に秘密にしているようだ。

「ジャンピエロの持つ魔力量が、知りたかったんだけど……仕方ない。本番で確かめよう」

パトリックがリカルドに顔を向けた。

「珍しいがね。リカルドが他の魔術士の力量を気にするなんて」

「いや、範囲攻撃魔術に興味があるだけです。どれほどの魔力を必要とするのかが、知りたかったんです」

「なるほど。四人で行う儀式魔術と言っていたから、ジャンピエロの魔力量を四倍にして必要量の上限を判断しようと思ったのね」

タニアはすぐに理解したようだ。

それほど魔獣とも遭遇せず、旅は順調に進んだ。例外は、リョゼン領の領都モルタ近くで、遭遇した猪頭鬼である。

モルタ近くに到達した時、前方で馬のいななきが響き渡った。

リカルドたちは馬車を降り、前方を行くジャンピエロたちの馬車に駆けつけた。

その時には戦いが始まっていた。

二匹の猪頭鬼の前に、長老派の魔術士三人が並んでいた。【水刃嵐爆】を行うジャンピエロたちでなく、ジャンピエロの手伝いで付いてきた魔術士たちだ。

「お前たち、これくらいの魔獣なら倒せるだろ」

ジャンピエロが自派の仲間たちに指示を出す。どうやら弟子のような存在らしい。

リカルドは魔功ライフルを取り出す。パトリックとタニアは、リカルドのはからいで購入した【風】の魔彩功銃を取り出した。

だが、リカルドは手を出さなかった。長老派の魔術士がどれくらいの技量なのか知りたかったからだ。

戦いは【爆炎弾】の呪文で始まった。

長老派の魔術士たちは、【爆炎弾】【重風槌】【爆散槍】などの中級下位魔術で攻め立てた。

その命中率は思ったほど高くない。研究一筋で実戦経験が少ないためだろう。

「やけに手間取っとるがね」

パトリックが感想を口にする。

「実戦に慣れていない感じがしますね」

「研究ばかりしとるからだがね」

リカルドはジャンピエロの範囲攻撃魔術に不安を覚えた。こんな連中が開発した魔術の完成度を信じられなくなったのだ。