軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:124 宝箱の秘密

王太子暗殺未遂事件は王都中を騒然とさせた。

街のあちらこちらで人々が不安そうに話をしている光景が見られる。リカルドもその一人で、ベルナルドの店で話をしていた。

「大変なことになりましたね」

ベルナルドの不安そうな声が、リカルドの耳に響く。その声の調子から、港での事件が王都中の人々に不安を与えたのだと分かる。

「ええ、王太子殿下は無傷だったと聞いていますが、護衛の兵士たちが大勢亡くなったそうです」

「気の毒に……それにしても犯人が捕まっていないそうじゃないですか」

「事件の混乱を利用して、犯人は逃げたそうです」

「まずいですな。せっかく交易の御蔭で王都が盛り上がっているというのに」

「ところで、ユジュラ王国で仕入れた商品はどうでした?」

リカルドが話を変えると、ベルナルドがニコリと笑う。

「イゴールの奴が、珍しく笑っておりましたよ」

ミラン財閥総帥をイゴールと呼べるのは、ベルナルドくらいしかいない。

ロマナス王国で仕入れた商品はユジュラ王国で高く売れ、 彼(か) の国で仕入れた商品は王都で人気商品になっているらしい。

「ミラン財閥では、次の交易に備えて商品の仕入れを始めております。リカルド君の方はどうなのです?」

リカルドは頭の中で計算する。

「用水路工事の資金は確保しました」

実際は工事費用の三倍ほど利益が出たのだが、ベルナルドにも教えなかった。

「ああ、羨ましい。私も南の大陸へ行きたかった」

ベルナルドはミラン財閥総帥に交易に参加させてくれと頼んだのだが、歳だから無理をするなと諌められたらしい。

「何度か交易を成功させ実績ができたら、誰でも南の大陸へ行けるようになりますよ」

「そうだね。それまで待ちますか」

少し話をした後、リカルドは魔術士協会へ向かった。

究錬局の一階で、タニアとグレタに会う。グレタはタニアの所で勉強していたようだ。グレタが嬉しそうな顔でリカルドに駆け寄る。

「リカルド様、どこに行っていたんですか。探したんですよ」

「ごめん、ベルナルドさんの所へ行っていたんだ。何か用があったの?」

「用というほどのものではないのですが、ユジュラ王国の話が聞きたくて」

「じゃあ、部屋に行こうか」

タニアも一緒に付いてきた。

「タニアも?」

リカルドが声を上げると、タニアが冷やかすように笑う。

「あらっ、私はお邪魔?」

グレタが顔を赤らめる。

「そんなことはないけど、仕事は大丈夫なの?」

「研究していた魔砲杖の論文は、書き上げて提出したの。今は時間があるのよ」

リカルドは研究室へ行き、ユジュラ王国の風景や人々について語る。グレタは宝探しに興味を持ったようだ。

「持って帰った宝箱はどうしたのですか?」

「ああ、そこにある」

グレタは部屋の隅に置いてある箱に目を向けた。大きな箱に白い布が被せられている。

「こんな所に置いているんですか。不用心ですよ」

「中身は空だからね」

タニアが首を傾げる。

「だったら、どうして持ち帰ったのよ?」

リカルドは宝箱が収納碧晶に入れられなかったことに興味を持ったからだと答えた。

グレタとタニアは不思議そうな顔をして、被せてある布を取る。

「うわーっ、きれい」

グレタが目を輝かせて声を上げた。

タニアは注意深く宝箱の細部をチェックした。王族の持ち物らしい豪華な作りだ。蓋を開けて、その裏側もチェックして、気になる部分を発見する。

「ねえ、裏側の数字は何?」

リカルドも気になっていたが分からなかった。グレタも考えるように眉間にシワを寄せる。

「数字が『1』から『7』まで、円形に並んで……中心には小さな穴があるのね」

リカルドは帰りの船の中でも考えたが、突き止められなかった。

(中心の穴は何だろう。鍵穴? 鍵は表側の魔力伝導金属だ。鍵穴じゃない。数字と穴か?)

「何か部品が取れた痕じゃない」

タニアが推測を口にした。

「部品……どんな?」

「分かんないけど、穴の内部を調べたら何か分かるかも」

リカルドは光を当て、穴の内部を覗き込む。穴の底に六角ボルトの頭のようなツマミがある。

「ツマミか……数字とツマミ……もしかすると」

リカルドはラジオペンチのような工具を使って穴の奥にあるツマミを回す。カチリと音がした。

しばらく待ってみたが、何の変化もない。

「関係なかったか」

リカルドは蓋を締めた。その時、宝箱の内部で魔力が動く気配を感じた。

「タニアさん、気付きましたか?」

「えっ、何?」

「宝箱の内部で何か作動したようです」

「分からなかった。グレタは感じた?」

「いいえ」

リカルドは確かめるために、もう一度蓋を開けた。

空だったはずの宝箱の内部に、金貨がぎっしりと詰まっている。

「どうして?」「やはりそうか」

グレタとリカルドが同時に声を上げた。

タニアが視線をリカルドに向け問い質す。

「どういうこと。説明してよ」

リカルドは宝箱を持ち帰った理由をもう少し詳しく説明した。

宝箱が収納碧晶に入らないと分かった時、一つの事実が頭に浮かんだ。収納碧晶に他の収納碧晶や収納紫晶を入れられないという特性がある。

収納碧晶は亜空間に繋がっている。亜空間同士で衝突が起こるのか、他の収納碧晶や収納紫晶を入れられないのだ。

宝箱の特性を知った時、その中に収納碧晶が使われているのではないかと思った。そうならば、宝箱の中に入っている財宝は、金貨五万枚だけではないはず。

それで宝箱をもらえないかと交渉してみたのだ。

蓋の裏に刻まれている数字は『1』から『7』まで、宝箱に亜空間へ通じる入り口が七つある収納碧晶が使われているに違いない。蓋の裏にある穴のツマミを数字に合わせて動かすことで、対応する亜空間と繋がり宝箱の中身が入れ替わる仕組みなのだろう。

グレタがキラキラした目で宝箱を見つめる。

「リカルド様、他の数字の所には何が入っているのでしょう」

「私も気になる」

二人に急かされて、リカルドは何が入っているのか確かめた。『1』は空だった。ユジュラ王国で取り出した金貨が入っていたのだろう。

『2』は先程の金貨で、『3』と『4』は金の延べ板だった。

「羨ましい」

タニアが本音を吐いた。

『5』は何かの権利書が入っていたが、今ではただの紙クズである。それを見たグレタは、残念そうな顔をする。『6』には様々な宝石。タニアとグレタが歓声を上げた。

リカルドは宝石の中から、二人に似合いそうなものを一つずつプレゼントした。宝箱の謎を解く切っ掛けを与えてくれた礼である。

「本当にもらっていいの?」

タニアが目を輝かせて宝石を見ながら言う。

「もちろんです。タニアさんの閃きがなかったら、謎は解けなかったかもしれないですから」

一方、グレタは本当に嬉しかったらしく跳びはねて喜んでいる。

そして『7』には魔術道具らしいものが入っていた。

「へえ、魔術道具ね」

タニアが興味深そうに取り出して確認する。どれも古い型の魔術道具である。その中で一つだけ見慣れない魔術道具があった。小型の盾のような防具らしい。

グレタが盾を手に取って、

「盾の魔術道具というのは、珍しいです。どんな機能を持っているんでしょう?」

リカルドは首をひねった。

「調べてみないと分からないですね」

グレタが意外だという顔をする。

リカルドはタニアと二人掛かりで調べ始めた。

「これっ、魔力の壁を作る魔術道具じゃないですか」

「えっ、もう分かったの」

短時間にどういう魔術道具かを突き止めたリカルドに、タニアが驚いた。

「魔力の壁というのは、何?」

「どうやら、魔術を撥ね返す壁のようなものを発生させるようです」

「そんな馬鹿な!」「ウソっ!」

タニアとグレタの驚きの叫びが、研究室に響き渡る。

それも無理もなかった。今まで魔術を防御する方法は、同規模以上の魔術を放ち相殺させる以外ないと思われていたからだ。

その盾の魔術道具は、タニアと一緒に共同研究することになった。

数日後、サムエレ将軍がユニウス料理館に予約を入れ、リカルドを呼んだ。リカルドが店で待っていると、疲れた顔をした将軍が姿を見せた。

「待たせたか?」

「いいえ。それより、今は忙しいのでは?」

将軍が頷いた。

「あの事件があって以来、王城は大騒ぎだ。それに貴族の間でも、誰が命じたのか話題になっているようで、貴族街もピリピリしている」

事件の詳しい状況を聞いたリカルドは、刺客が使った魔術が【爆炎弾】ではないかと見当を付けた。

「配下に置いている情報屋が、王太子暗殺のために殺し屋が雇われたという情報を持ってきた」

リカルドは将軍の顔から、雇われた殺し屋が厄介な奴なのだと分かる。

「どういう殺し屋なのです?」

「『炎滅師』と呼ばれる奴だ。強力な【火】の魔術を使うらしい」

「港で王太子殿下を襲った奴ですか?」

将軍が肯定するのをためらった。

「違うんですか?」

「奴にしては、使われた魔術の威力が低い。奴の他にも雇われている可能性があるのだ」

「厄介な……」

サムエレ将軍は、リカルドに魔術を防ぐいい方法はないか尋ねた。

「刺客を捕らえるまで、外出しなければ良いのでは」

「それがダメなのだ。半月後に『祭礼の儀』がある。王太子殿下は陛下の名代として、大地母神ヴァルルの神殿に向かわねばならない」

毎年、王族が行う神事である。これだけは王族の代表が神殿に行き、大地母神ヴァルルへの祈りを捧げなければならない。

「そうですか。ならば、魔術による相殺ではダメなのですか?」

「もちろん、宮廷魔術士には頑張ってもらう。しかし、この前も油断しているところを襲われた。咄嗟に魔術士が対応できるとは思えんのだ」

魔術士は不意を打たれると脆い。魔術で対抗するには時間が必要だからだ。

「魔砲杖の威力が高ければ、その攻撃魔術により相殺するという方法が取れるのですが……」

開発途上にある魔砲杖は、魔術士の放つ魔術に比べ威力が低い。その代り発動までの時間が何倍も早いので、使い方次第だ。

それに魔術を魔術により相殺するという方法自体がひどく難しいので、万策尽きた時の最終手段としか使えない。

「【火】の魔術が得意なのだとしたら、潮吹き竜鮫の革で何か防御用のものを作るのは、どうでしょう」

潮吹き竜鮫の革は、【火】の魔術に高い耐性を持つのが分かっている。それを使った防具は役に立つだろう。小型装甲高速船から取り外した潮吹き竜鮫の革は、王太子が欲しいというので売却していた。

将軍が顔をしかめる。

「あの革は、小型装甲高速船を作るために使ってしまった」

「えっ、また小型装甲高速船を作ったんですか?」

交易に出る前、王太子に頼まれたリカルドは、複数の船舶用動力炉と八連魔術駆動フライホイールを製作し納品している。その一つを使って造り上げたようだ。

「元の船より、一回り大きな装甲高速船を作った。王太子は中型武装船の建造を提案したのだが、官僚たちが予算を問題にしたのだ」

装甲高速船は予算と防衛問題とを協議した結果の妥協の産物らしい。

「祭礼の日は、王城から馬車で神殿まで移動し、神殿の門から徒歩で祈りの間まで移動する予定になっている」

「必要なのは、魔術で攻撃された場合の防御方法ですか」

盾の魔術道具が、リカルドの頭に浮かんでいた。だが、盾の魔術道具を使っても強力な魔術だと防げない可能性がある。ただ魔術を防御する方法を探している時に、盾の魔術道具を手に入れるという偶然に、何か運命的なものを感じた。

「少し時間を下さい。考えてみます。それと暴食ウツボの革で良ければ、防具の製作に使いますか。潮吹き竜鮫の革には劣りますが、魔術に対する耐性はあるようです」

「ありがたい。使わせてもらおう」

将軍と話し合い、王家の馬車に暴食ウツボの革を貼り付け、内部も補強することにした。また、その革でフード付きのマントを作り、防具代わりにしようと決める。

話が終わった後、メイン料理が運ばれてきた。暴食ウツボの肉を使った甘酢ソースかけである。

将軍は一口食べ、うっとりとした顔になった。

「これは何の肉だ?」

リカルドは暴食ウツボの肉だと答える。

「王太子殿下には、黙っていてください。きっと食べに来ようとしますから」

「まさか、殿下も状況は分かっている……はずだ」

将軍の返答を聞いて、リカルドはどうだろうと首をひねった。王太子の性格を考えると、変装か何かしてでも店に来そうな気がする。

翌日から、リカルドとタニアは盾の魔術道具を大急ぎで研究し始めた。その結果、盾には魔力伝導金属が貼り付けられ、魔術回路が組み込まれていることが分かった。

魔術回路に使われている因子文字を解析すると、その仕組みが分かり始める。魔術回路は魔力障壁のようなものを展開する機能を持っているらしい。

但し、その障壁が遮断できるのは、魔術的な力だけで物理的なものはダメなようだ。

「強力な魔術でも受け止められるのかな?」

タニアが独り言のように言った。

「いや、魔術回路に流し込んだ魔力に比例する力しか受け止められないと思う」

展開する魔力障壁は、盾の表面から三メートルほど離れた位置に出現するようだ。これを使えば、少なくとも敵の攻撃魔術に直撃されることは防げるだろう。

「凄い発見よ。発表したら大騒ぎになる」

タニアが興奮した様子で言った。

「待って、これは発表しない方がいいかもしれません」

「どうしてよ?」

「サムエレ将軍や王太子殿下と相談しないと判断つきませんが、軍事的に重要な技術になりそうです」

「戦争に使われるということ?」

「そうです」

取り敢えず、二人はイサルコ理事に相談することにした。