軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263

昨夜はギブアップして寝させてもらった。

ふたりのゲオルグ爺はまだまだ元気そうだった。

あいつら酒に弱いんじゃなくて退屈に弱いんだな。

おとといは遠慮して質問攻めにするのを我慢してくれたのだろう。

顔に疲労感が滲み出ていたのかも知れない。

ありがたいことだ。

さて、目が覚めればやはり部屋は暑く、開かない窓の隙間から日差しが差し込んでいる。

窓が開かない理由を聞いておけば良かった。

意味が分からないので精霊にお願いしてみる。

「済まないがこの窓を開けてくれないか?」

すると窓がカタリと音を立てた。

鍵が外れたのかも知れない。

窓に触れてみると何の抵抗もなく押し開けることができた。

と同時に誰かが顔を覗かせた。

その顔は「わっ」と声を上げて驚いて走り去った。

パッと見、十五〜六歳くらいに見えたから二十歳くらいの青年かも。

そういえば最近気づいた事がある。

俺の性格が子供っぽいことについてだ。

最初の頃はオミ氏が俺になってしまった事を隠すために演技をしていた。

その後も演技を続けていたつもりではあったのだが、若干の違和感を覚えた。

というのも、嬉しい時は強烈に嬉しいし、寂しい時はかなり寂しいと気づいたのだ。

そこで思いついたのだが、この身体が子供である以上ホルモンの分泌は子供なのでは、という事だ。

やはり精神というものはその入れ物に依存する部分が大きいのだ。

ホルモンには勝てん。

とはいえ俺には経験も知識もあるから、心が大袈裟に反応するとそれを自然と鎮めようと意識が働くのでパニックに陥ることはない。

しかし気を抜けば何かあった時に泣き喚いたりしまうのかも知れない。

その「何かあった時」のそれが何かって事は今は考えないでおこう。

あまり警戒して心を防御すると何か大切な判断を誤るような気がする。

俺は考えすぎた結果よく間違うからな。

そんな事を考えながら窓枠に置いてあったつっかえ棒を立てて窓を開け放しにした。

窓から入ってくる新鮮な空気を味わいながら服を着る。

髪の毛も撫でつけて寝癖がないか確認した。

髪が伸びてきたので最近寝癖がつくのだ。

ちなみに髪は直毛に近いが、日本人のようなツヤツヤの直毛ではない。

上手く表現できないが、緩い細かなちぢれがある。

モワッと膨らむ。

村でお団子にしていた時は意識した事がなかったが、若干の天パーなのだな。

今はマッシュルームカットみたいな感じになっている気がする。

来年には結べるようになるかも知れない。

そしたら百円ショップに髪ゴムを買いに行かなきゃな。

身だしなみを確認してから意を決してドアノブに手をかけた。

声は聞こえないがまたエルフの子供達が来ているかも知れない。

彼らにどう接すれば良いかまだ気持ちは決まっていないが、少なくとも嫌われないようにしなければ。

意を決してドアを開ける。

居間にはふたりのゲオルグが茶を飲んでいた。

「おはようございます。えっと今日は子供たちは?」

「もう帰ったわい。貴様は寝坊助じゃの」

「ぐーたらじゃ」

マジか。

朝には強い方だと思ってたんだけどな。

「まあ良いわい。昨夜も遅かったしの」

「それにあまりお主と子供たちを触れさせたくもないからの」

そう言われると若干傷つく。

差別ではないのだろうけど、確かに今後、人との距離を置くなら変に慣れたりしない方が良いのかも知れないよな。

「お主らオリジナルの人間はすぐ病気に罹って死ぬからの」

「そうじゃ病弱じゃ」

あ、そういう配慮?

エルフは遺伝子組み換えだから病気に強いの?

「まあ、飯でも食え」

「食え食え」

「ありがとうございます。あの、部屋の窓って、、、」

「里の子供たちがな、興味を持って覗こうとするので固めておいたんじゃ」

「来るなといっても朝も夜もなくうろつきおる」

なるほど。

「さっき開けちゃいました」

「暑かったか」

「ええ、ちょっと」

「まあ、ええわい。寝る前にまた固めておくと良いぞ」

そっか。

魔術で固定されてたのか。

そういう使い方もあるのか。

もっと色々教えてくんねえかなと口を開きかけたら先に問われた。

「オミクロン貴様、お主と同じような転生者がこの世界に残したものにどれくらい気づいた?」

えっと、色々と聞いたよな。

「畑に撒く堆肥とか、時計とか、王都の下水とか、、、」

「それだけか?」

「色々教わったんですけど、ちょっと思い出せないですね」

「お主が自分で気づいたのは?」

「そうじゃ、何も気づかんかったのか?」

何かあったっけか?

「あやしいと思ったのはイリス教とか、あとアーメリアっていう国名とか、、、」

「残念〜。その辺はワシらじゃ!」

「見事に引っかかったの!」

そうだったのか。

こいつらが作ったのか。

「へー、何でそんなことを?」

「人間は宗教がないとひとまとまりにならんのじゃ」

「そうじゃ。そんな事も知らんのか?」

うん、まあそうか。

「アーメリアは、ひょっとしてアメリカから?」

「そうじゃ。お主らは自分の出身ドームにこだわって潰し合いそうだったのでな。あまり互いの敵対心が育たぬうちに連邦政府を持ってもらうことにした」

「どうじゃ、名案じゃろ?」

なるほど、なるほど。

「EUみたいな連合では駄目だったんですか? 地理的にはそっちの方がしっくり来るんですけど」

「ある程度強い参加強制力が必要だったでな」

「そうじゃ『ウチは入らん』では困るのじゃ。全ての国を封建制にしないといかんかったからの」

え、なんで?

「民主主義じゃ駄目なんです?」

「駄目に決まっておろう!」

「コイツやはり頭が弱いの!」

ふたりはきゃっきゃっと笑った。

「え、だって資本主義と民主主義が文明発達の近道でしょう?」

「それが愚かだというのじゃ。安定した民主主義というのはな、長期間続いた封建制から資本家や中産階級とブルジョワジーが育まれて、それらが封建制を打倒して生まれねばならんのを知らんのか?」

「お主の国の学者の理論じゃぞ?」

え、そんなの聞いたことない。

「誰です?」

「えーっと、お主の国の人名はやたら字数が多くて覚えにくくての。忘れてしもた」

「そうじゃ、読み上げる気力すら湧かん」

悔しいがちょっと分かる。

俺もタイ人の名前とかって難しく感じる。

何でなんだろうね?

「ともかくじゃ、ヒトは自分らが自らの手で打ち立てた政権や選挙制度でないと信用できずに直ぐにクーデターを起こしてしまうんじゃ」

「へー、そうなんですね」

「お主はもっと勉強せい!」

今勉強したわ。

何ならその本を貸してくんねえかな。

原語で読めるぞ。

「イリスにもそういう学術的なアレがあるんですか?」

「土着の変な宗教を排除するには一神教が最も効果的なんじゃ」

「そうでしょうけど、、、」

「それにドームから逃げた者たちが自分らの国を作ったと聞いて『出エジプト紀』を思い出してな」

何それ?

キリスト教ってそういうのあるの?

「こやつピンと来ておらんな」

「近代以降の世界から来たのじゃ仕方あるまい」

「しかも極東の小島じゃしの」

「触れる機会がなかったか」

クリスマスにケンタッキーを食べるくらいには触れてたよ。

「じゃあ何でシンボルを十字架にしなかったんです?」

「アホか。後から召喚された野良転生者に『本当の教えはこうです』とかやられたら面倒じゃろうが」

「そうじゃそうじゃ」

ふーん、そうかあ。

「そういえば、先日バーゼルのイリス教会にちょっと寄ったんですけど、イリスを広めた聖人てのが飾られてまして、あれはエルフの皆さんですか?」

「そうじゃ、皆フードを被っておったろ?」

「ちょっとしたイースターエッグじゃ」

ふむふむふむ。

「我らエルフは己の死期を悟ると長い長い散歩に出るんじゃ」

「そして旅の途中で命を全うする。イリスの経典は彼らが各地の方舟に残した手記を集めたものじゃ」

「そんなので良かったんですか?」

「そんなのとは何じゃ! ユダヤ教の経典そっくりになったぞ!」

「経典なんてものは謎めいている方がありがたみが増すんじゃ!」

俺はふたりのゲオルグがその長い散歩とやらにまだ出なくて良いのか聞きそうになったけど、グッと堪えたよ。

俺偉い。