軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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不思議な光景だ。

たゆたう海はこの世界に生まれてからずっと見てきたが舷側ごしに見る海は今までと全く違うものに見える。

底の見えない深さ、広さ、そして圧倒的な水の質量。

陸が霞むほど離れているのに目を転じても水平線の先には何も見えてこない。

世界はそこまでで終わりですと言われたら地球が丸いと知っている俺でも信じてしまいそうだ。

しかし、こう暇になると気になる事はひとつ。

イータの気持ちの事だ。

求婚され、受けたら相手が碌に話しもしないまま船に乗り込み姿を晦ましてしまったのだ。戸惑いもするだろう。

イータもだが、とうさんもかあさんも驚いているだろうな。

長官と話した感じだとバルドムも悪気があったのではない気がする。

「ちょっと(具合を)見てやってもらえませんか」

というニュアンスが、

「ちょっと(世話を)見てやってもらえませんか」

と伝わってしまったのだろう。

あるある。

かあさんなんかはバルドムに詰め寄ってるかもな。

イータは泣いてるかもしれない。

バルドムも気の毒に。

とうさんに殴られてなきゃいいけど。

俺はといえば僅か数分で諦めがついた。

元々いつか村を出ようとは思っていたのだ。

ただ、まあこのタイミングはないよな。

生まれて初めて彼女が出来たのに。

まだキスもしてないのに。

キスどころか触れたことすらないような気がする。

肩には触れられたけど。

俺からは肩どころか手にすら触れてない。

あ、髪には触れたな。

耳やおでこにもちょっと触れたかも。

ああ! なんで感触を覚えてないんだ!

女子との貴重な甘い記憶を!

本当なら今頃ふたりで手を繋いで浜を歩いたり、なんなら誰も見ていないところでそっと肩を抱いたり。

なんならなんなら、誰も来ない崖沿いにイータを誘って、、、

絡み合う視線、火照る身体、熱い吐息、遠くに聞こえる潮騒、ふたりだけのパライソ。

クソッ、やはりバルドムはコロス!

俺の全てを奪いやがって!

悪気があろうとなかろうとミスはミス!

被害者がいる以上、罪は償われなければならない!!

と、怒りに任せて手摺に拳を叩きつけたらカンカンカンカン、とブリッジの方から鐘が鋭く鳴る音が聞こえた。

ヤベ、見咎められたかな。

見るとキコが薄目を開けて、また閉じた。

それ以上何も起きなかった。

「あの、キコさん。今のは、、、?」

キコはため息を吐いてまた目を開けた。

「今のは四点鐘」

「ヨンテンション?」

「よんてんしょう。鐘が4回鳴ったろ? アレは30分毎に回数を増やしながら合図として鳴らすんだよ。八点鐘になったら持ち場を交代だ。俺らは下の櫂に移る。普通の船なら非番だがな」

「ほう?」

「この船は船員を半分に減らして非番をなくして航行するのさ」

「え、なんてブラックな、、、」

「その代わり、この船は24時間航行はしない。夜は必ず錨を下ろして停泊するからまあ、どっこいどっこいだ」

「はあ」

「長く船乗りをやってる奴は4時間ごとの休憩が身体に染み付いてるからキツイみたいだけどな」

「キコさんは?」

「俺も最初は戸惑ったが毎晩長く寝れるほうがありがたい」

「なるほど。この船だけ特殊なんですか?」

「そう。普通は停泊させる時もナイトウォッチがあるからな。この船はバルゲリス長官の個人所有の偵察艇だ。長官の好きなように運航するのさ」

「へえ、個人所有」

「長官の家は莫大な資産を有している。それも長官の魔眼のチカラで築き上げたものだ。元々長官は炭鉱の盛んな地域の領主の娘だが、魔眼を活かして炭鉱族も顔負けに魔石や温泉を掘り当ててあっという間に領地を豊かにしちまったのさ」

「へえ」

「成人する前に新兵訓練に参加して魔術を習得すると今度は各地のダンジョンをクリアして回って国に莫大な富をもたらした」

「マジすか、凄いですね」

「お前そんなことも知らなかったのか?」

「はい、何も」

「ふん。有数のダンジョンをクリアすると暫くは魔術教練の任に就いていたが、自分の船を建造すると、価値あるものは何も無いと言われていた大陸の東側南方の探索を開始して続々と領地を増やしているんだ」

「へー」

「あの人こそ我がアーメリアのスーパースターさ」

「アーメリア?」

「ひょっとしてお前、自分の国の名前すら知らなかったのか?」

「はい、ギルドのマニュアルにも『国』としか書いてありませんでしたし」

「ああ、それは世界広しといえど国と呼べるのはアーメリアしかないからだ」

「どういうことです?」

「種族ごとの集団や単一の島民といった『国のようなもの』は沢山あるが、アーメリアのような多民族を法で統一し、まとめ上げた『国』というシステムがあるのは我がアーメリアだけだな」

「それは凄い。では他所の国にはギルドとかが無いってことですか?」

「そうだ」

なるほど、異世界のクセに結構近代的な国づくりをしてるんだな、、、

感心しているとまたブリッジから何やら指示が聞こえてきた。

「次のタッキングだってよ。配置に付きな」

「あ、はい」

「違う違う! さっきとは逆に付け!」

言われてみればそうか、さっきと逆に帆を動かさなきゃならんわな。

ロープの先を目で追うとマストに固定された横木(セールというんだっけ?)につながっている。

今は遠くにある先端をこちらに引き寄せるワケだな。

てか、さっきのは緩める動作だったのか。

マジか。

結構重かったよ?

「さあ、引け!」

ブリッジからの指示はまたもや聞き取れなかったがキコに言われてロープを引く。

さっきとは比べものにならないほど重い。

メインマストの方を見ると屈強な大男が猛然とロープを引いている。

ああいう感じか。

全体重をかけて綱引きみたいにやるのか。

俺も大男を見習って欄干に片足をかけ、倒れんばかりに身体を斜めにし勢いよくロープを引いていった。

滑り出せばある程度軽く滑車は回っていく。

引いて引いて、セールの先端がこちらに近づいてくるのが見える。

帆は張りっぱなしだ。

ある程度までいくと滑車の動きが急に軽くなった。

と、思うと船が先ほどとは逆向きに傾いだ。

「よーし! お前なかなか動けるな」

キコが背中を叩いてきた。

さっきよりキツかったが、こんどは船を操作している感覚があって楽しかった。

「帆船って凄いですね!」

また俺はアホ面して答えた。