軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242

宿に帰ると女将さんに叱られた。

帰って来ないと表の鍵を掛けられないから寝られなかったとのこと。

それは申し訳ないことをした、と謝っているとアルトマンたちが女将を茶化した。

「違う違う。俺たちが帰って来たから怒ってんだ」

「そうそう。殺されたり、打ち首級の何かをやらかしたりしたんだったら軍に接収される前にアンタらの馬を裏で捌かなきゃならねえってんでワクワクしながら近所を駆けずり回って情報を仕入れてたに違いねえ」

「馬と鞍を売れればひと財産だからな」

「それなのに無事に帰って来たからガッカリしてんだろ?」

「“夢を見させておいて帰ってくんな”ってな」

女将さんは雑巾を投げつけた。

「そんな訳ないだろ! お客が減って喜ぶ女将が居るかい!」

そしてこちらを向いて猫なで声を出した。

「あんな奴らの言う事を聞いちゃいけないよ? ウチは王族のお客さんはいつだって大歓迎なんだから」

なるほど。

情報収集はしていたようだ。

商魂たくましいな。

王子は女将に優しく笑いかけた。

「我々は女将を疑ったりしていないよ。荷物と馬を守ってくれてありがとう。礼を言わせてもらう」

女将はホッとしたように微笑んだ。

「分かってくれて良かったよ。それでこの街にはいつまで滞在するんだい?」

「済まぬがもう発つ。もちろんこの時間までの延長料金は支払わせてもらう」

「えっ」

昨夜は牢屋で寝たのだ。

休んでから明日発つのでは駄目なのだろうか。

アウグストも明らかにガッカリしている。

酒場の女将にもう会えなくなるからな。

「我々が王族と噂が広まる前に発たねば」

ロレンツォがアウグストにそう説明した。

確かに。

身代金目当ての誘拐が横行する世の中だ。

長居は無用だ。

俺たちは部屋に上がり荷物を纏めた。

そして馬具を担いでえっちらおっちらと階段を降りる。

馬房に向かうと馬たちは朝の散歩ができなかったことに腹を立てているのか少し興奮気味だった。

馬を宥めながら鞍を乗せていると、ひとりの小僧さんが俺のところに寄ってきた。

「あの、魔術師さん」

魔術師って俺のことか。

「魔術ってどうやったら使えるようになるんだい?」

顔は真剣だった。

そういうことを教えてくれる大人が居ないのだろうか。

「ええと、この街には学舎やギルドの塾があるかな?」

「あるけど、、、」

ああ、宿で働いてたら行く暇がないか。

流石に夜学があるとは思えないし。

「字の読み書きができるようになると、魔術を教えてもらえる筈だよ。読み書きは女将に教えてもらって、後は適当に『仕事に役立てるから』って言って塾に通わせてもらえば良いんじゃないかな?」

無理だろうか?

「魔術が使えれば馬を持てるようになるかな?」

やはり真面目な質問のようだ。

あんまりいい加減に答える訳にもいかないか。

「正直分からない。アカデミーを出ても兵士やギルド員になるのが普通みたいだし。でも魔術が使えれば水屋とか、氷室を冷やす仕事とか幾らでも選択肢は広がると思う」

少年は俺が馬具を付けるのを手伝い始めた。

「あのさ、馬に乗るのは難しい?」

「そうだね。僕はこいつに振り落とされて馬糞まみれになったよ」

「こいつ騸馬だろ?」

「そうみたい」

「普通、騸馬は大人しくなるんだ。なのにこいつは気が荒いよね」

「そうなんだよ」

「こいつ多分、すごく頭が良いんだと思う」

そうなのだろうか。

「そうなのかもね」

「こいつ名前は?」

「フルミネ」

「フルミネかあ。カッコいい名前だなあ。良かったな、フルミネ。賢い魔術師さんが飼い主で」

フルミネは鼻息で返事をして尻尾をプンと振り上げた。

どういう意味だろうか。

「魔術師さんは何でこの子を選んだの?」

「他の馬みたいに小さな事でビクビクしないし、下手くそな僕が乗ってもあんまり嫌がらないから、かな」

「優しいんだな、フルミネ」

俺がハミを噛ませようとすると嫌がって避けるのだが小僧さんには従順に噛まされていた。

よく人を見てるよな。

フルミネは小僧さんの耳を唇で優しく喰み、小僧さんを笑わせていた。

俺の時は髪を歯で噛んで引っ張るクセに。

よそ行きの顔をしているフルミネを見ていると段々と腹が立ってきた。

「ほれ、行くぞ」

手綱を持った俺を横目でチラリと見てフルミネはブッとオナラをした。

こいつと本当にやっていけるだろうか。