軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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式典は、想像していたよりずっと簡易だった。

参列する軍幹部は5名、軍楽隊は2名。

おそらく服装も式典用ではなく普段使いの軍服だ。

要するに略式の式典という感じだ。

軍幹部の一人が懐中時計で見て頷くと、一人の女性が前に出て挨拶をした。

肩の記章を見たって階級なんか分かりはしない。

式服だったら勲章の量とかで偉さを図れるかもしれないが何しろ略式だ。

腰に剣を刺して海軍らしい白の制服を着ている。

長い髪をひっつめに結んで帽子にたくし込み、鋭い目線で俺たちを睥睨しているが若いせいかあまり威圧感はない。

「この村で生産される食料は我が軍の魔力回復と健康維持におおいに貢献しており感謝の念が尽きない。今後の益々の繁栄を国として最大限助力することをここに約束する」

短くそう言い切ると後ろに控えていた別の幹部が前に出てバルドムに三角形に畳まれた国旗を渡した。

バルドムは恭しく頭を下げて受け取ると、ラムダと共に厳かに旗を広げロープに括り、トレスがロープを引き、いよいよ国旗が高らかに掲げられた。

ラムダなんかは普段はダラダラ働いているように見えるが、こういう軍の国旗掲揚とかの儀式の作法とかちゃんとできるのを見るとやっぱ元軍人なんだなと改めて感心してしまう。

再びファンファーレが鳴らされると、別の幹部が前に出て蝋で留められた書簡を広げ国王から賜われる祝いの品々の目録を読み上げた。

鉄が何貫とか麦が何斤とか言われても全然ピンと来ないがトレスの表情を窺うに、あまり多いとは言えないようだ。

トレスは普段ポーカーフェイスを気取っているがこういう時に微妙に顔に出るのだ。

アイツはきっと出世できないタイプだ。

目録を読み終えると式典は終わり。

長々とした演説や国民の義務は何たらみたいな訓示とか国歌を歌うとかそういうのもナシ。

時間にして5分くらいだっただろうか。

驚くほどあっけない式典だった。

軍幹部がボートで帰り、大人たちが下賜された品々を桟橋で受け取っているのを眺めているとバルドムが手招きしているのに気づいた。

「オミよ、お前のことは伝えてある。船で診てくれるということだからこの船に乗せてもらってちょっと行ってこい」

「あ、はい。分かりました」

「くれぐれも失礼のないようにな」

「大丈夫です」

俺は空になった船に乗り込むと漕ぎ手の兵士に頭を下げて挨拶をした。

兵士たちには無視されたが、たかが平民のガキなのだからこんなもんなのだろう。

直ぐにボートは出発した。

4人の漕ぎ手の腕がいいのかかなりのスピードが出る。

こんなに沖に出るのは初めてだったので海の様子を見たかったのだが船の真ん中に座らされていたので良く見えなかった。

こうして落ち着いてくると思い出すのはイータの返事だった。

確かに「いいわよ」って言ったよな?

その後すぐに式典が始まったから話どころか顔も見てないけど、確かにイータはいいわよって言った。

てか結婚をいきなり申し込んじゃったけどおかしくなかったかな?

でも俺のとうさんも16歳とかで結婚してるんだからおかしくはないよな。

いや、やっぱり10歳じゃおかしいか。

でもOKしてくれたしな。

でもOKしてくれたからって直ぐ結婚てわけでもないよな。

ひとまず婚約ってことなんだろうな。

ふたりで暮らす家とかってどうするんだろう?

シータの家に俺が転がり込むのかな?

親父さんが居ないからそれもアリだよな。

マスオさん状態なのかな。

てことはイータはサザエさんだな。

そんなことを考えていたら軍艦が間近に迫っていた。

帆船というものを初めて近くで観たが、遠くから見るのとは迫力が違った。

なにしろ高さがある。

屹立した2本のマストと張り巡らされた複雑なロープ

帆を広げたらさぞかし壮観だろう。

「お前は先に降りろ、俺たちはスキッパーを上げなけりゃならん」

「あ、はい。ありがとうございました!」

俺は船腹に作り付けられた梯子におっかなびっくり飛びついて登っていった。

ボートと帆船の船腹がガンガン当たって怖い。

海ってこんなに乱暴な世界なんだな。

甲板に上がると待っていた船員達に押しのけられてボート引き上げの準備が始まった。

するとさっき式典で目録を読み上げていた幹部が俺を手招きした。

「こっちだ」

「あ、はい! この度はありがとうございます長官!」

「俺はこの船の副船長だ」

「はっ! 失礼しましました!」

「いい。来い」

副船長は船尾の方にある扉を開けて中に招き入れてくれた。

そして入って一番奥の扉を力強くノックする。

「長官どの! 例の子供を連れてきました!」

声がバカでかい。ノックも怒ってるのかってくらい強かった。海の男たちってこんな感じなのかしら。ちょっと野蛮で苦手かも。

返事を待たずに扉を開けると中には式典の最初に挨拶した女子が座っていた。

艦長席と思われるデスクには座らずに向かいの壁に作りつけたベンチに座っている。

あれ、バルゲリス長官はまだなのかな。

その前に持ち物検査とかかな。

そうだよな軍の偉い人だもんな。

と考えていたら副船長に頭を叩かれた。

「挨拶をせんか、東方統括部長官バルゲリス海佐である!」

え、この女の子が?

マジか、俺の印象としてはホークアイ中尉って感じなんだが。

「失礼しました!」

俺はそう思いながらも即座に頭を下げた。

「構わん、慣れてる」

「では、わたくしは失礼します!」

副船長は深々と頭を下げて出ていった。

バルゲリス長官は俺をしげしげと見つめた。

魔眼持ちと言っても目に何か紋章が浮かんでる訳でもなく、オッドアイでもなかった。

ただ普通の青い眼だった。

「その腰はなんだ?」

「え、腰?」

「魔石でも隠し持っているのか?」

「あっ、これは吸魔石を魔石にするアルバイトです」

「アルバイト?」

「あ、いえ。僕は魔力が多いようなので身体の中に魔石ができないようにとギルドのトレスさんが用意してくれたんです」

「ほう、その話は聞いてなかったな」

「はい、、、外したほうが、、、?」

「そうだな、外してくれ」

俺は内心ギョッとしたがフンドシを解き全裸になった。

何気に恥ずかしいが俺はまだ10歳なのだから大丈夫だろう。

長官はショタがお好きなのかもしれないと思うとちょっと怖い。

なにせ俺には婚約者がいるのだ。

あ、でも結婚初夜までに経験をしておかないと上手くコトが運べないかもしれないな。

となればショタ好き長官に手ほどきを受けておくのも悪くないのかも、、、

「では何か魔術を発動してみせろ」

「はい、では出来てませんがウォーターボールを」

「うむ」

「“精霊よ、水の精霊よ、、、”」

「ほほう」

いつも通り詠唱を始めた途端、手に結露がつき始めびしょびしょになり肘から水が垂れ始めた。

「ふむ、なるほどな。魔力の出し入れとかはできるのか?」

「いえ、そのような訓練はしたことがありません」

「魔石に魔力を込めるときはどうしているのだ?」

俺は腰の魔石に魔力を込めるイメージをしてみた。

俺自身の感覚としては何も起こっていない。

ただオーラを身体に纏わせる念能力者になった妄想をしているだけだ。

「ふーむ、そうか、、、」

バルゲリス長官は腕を組むとそのまま床を見つめ考え込んでしまった。

考えるのが長い。

もう1分くらいは経ったのではないだろうか。

フルチンで立たされるにはちょっと長く感じる時間だよね。

「あの、、、」

「考えている。しばし待て」

びしゃりと言われ黙るしかない。

それにしても帆船てのは仕組みが複雑そうなだけあって停泊中もいろいろやることがあるんだな。

さっきから表では怒号が飛び交い船員達が走り回る音がずっとしている。

そして船はゆっくりとではあるが右に傾き左に傾ぎ、若干気持ちが悪くなってきた。

これが船酔いか。

前世ではついぞ船に乗る機会がなかったから分からなかったが俺は船酔い体質だったのだな。

なんだか揺れながらもずっと床が左に傾ぎっ放しな感じがあるな。

荷物のバランスとかあるんだろうか?

どうでもいいけどかなり気持ち悪くなって来たから早く降りたいな。

俺の魔力はそんな厄介なことになってるのかな。

そうしてたっぷり10分は待たされただろうか。

ようやくバルゲリス長官は口を開いた。

「よし、お前はアカデミー訓練には回さず、わたし直属の世話係として常に側に置き教育することにしよう!」

「はい?」

「お前もその方が良かろう。人の価値の分からんアホに前線に送り込まれたりされることもない」

「いや、あの、僕の魔力を見てくれるのでは?」

「そうだ。時間を掛けて付きっきりで直々に育ててやろう」

「あの、僕は村に戻らないと。婚約者もできましたし、、、」

「、、、、? お前、わたしに魔術を見てもらいたかったんではないのか?」

あれ、なんか話が行き違ってる。

「ひょっとして、船もう出てます?」

「うむ、お前が乗り込んで直ぐに出航したぞ?」

「引き返して頂くなんてこくとは?」

「無理だ」

「村に戻るのは?」

「この船は物資を南方に届ける任務を兼ねてるから数ヶ月後だな」

「ちょっと見てみていいですか?」

「海をか? 無論」

俺は慌てて甲板へ出ると身を乗り出して後方を確認した。

白い泡を海面にたなびかせて船は悠然と進んでいた。

陸は意外と近くに見えたが村は既に目視できなかった。

ワンチャン泳いで戻れるかとも思ったのだがこれは無理だ。

魔物が出なかったとしてもちょっと泳げる距離じゃない。

急に吐き気がこみ上げてきて、俺は手摺りに身体をもたせかかるようにして海に向かって吐いた。