軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219

部屋に案内される時ちょっとした駆け引きがあった。

部屋割りである。

今まで二人部屋がふた部屋というパターンだったが今日は二人部屋がひとつに一人部屋がふたつなのだ。

もちろん護衛のふたりは俺たちに一人部屋を譲ろうとしたのだが王子がそれを拒否。

護衛のふたりに一人部屋を譲ろうとしたのだ。

「我は二人部屋で問題ない。お主らこそたまにはひとりでゆっくり休め」

「我らには護衛の任があります。王子こそしっかり休まれてください」

「この街は治安が良いので有名だ。それに其方らも我がオミと一緒の方がむしろ安心だろう?」

ロレンツォとアウグストがチラリと目を合わせる。

安全を推し測っているのだろう。

ダメ押しで王子が続ける。

「今夜はオミとふたりでこの宿で夕食にする。お主らは街で羽を伸ばして来い。こうした機会はもう王都までないぞ?」

アウグストは黙って成り行きを見守っているが何だか少しそわそわとして嬉しそうだ。

そりゃ外出したいよな。

めったに行けない外国だもの。

俺も加勢してやる。

「僕では護衛として不安でしょうか?」

「そうだぞ、此奴の魔術を見ただろう? それに先日の剣の腕もだ」

ロレンツォは頷いた。

「分かりました。では我々が一人部屋を使わせて頂きます。しかし私は外出はしませんので何かあればいつでもお声掛けください」

王子は首肯した。

そして少し考えてから続けた。

「うむ。しかし部屋に客人を呼んだとしても我は咎める事はすまいぞ。古い友人と旧交を暖めることも国の為に大切なことだ」

ロレンツォは無言のまま頷いた。

そんなやりとりがあって部屋に入り荷物を下ろした。

「さっきのやりとりは何です? こっそり遊びに出るおつもりですか?」

「いや、逆だよ。言葉通りあいつらに羽を伸ばさせてやりたいんだ」

「?」

「いい大人が何日も我々のお守りで一切の自由がないのだぞ? 溜め込むものがあるだろう」

あっ、そっち系の話だった?

俺の察しが悪いのはいつもの事だが王子の気遣いに少々驚く。

部下の運用にはこうした配慮も必要なのだと知って新鮮な学びがある。

そうか、軍隊の運用なんかもそうした事も考慮しないと何なら内部から不和が起こらないとも限らないもんな。

何の話ってほら、、、はっきり言えば性欲の話だ。

プロにお願いするにしても自己処理するにしても男が紳士であるにはそうした行為が必要なのである。

溜め込めば碌なことがない。

ハニートラップに掛かりやすくなるし、場合によっては犯罪行為に繋がるかもしれない。

ひとりの女を巡って争いが起きることなぞ日常茶飯事だし、世の中のトラブルの多くはそうした生理的欲求が満たせない事から起こるものだ。

王子に聞いてみる。

「王子はそうした部下への配慮ってどこで学ばれたんです?」

「もちろん父からだ。そうした気遣いを目にした当時はあまり理解できなかったがな」

王子は少し照れたように笑った。

「なるほど。僕もいつか護衛を引き連れる事があるかも知れませんからね。今日のことは学びになりました」

「うむ。ところで、ひとつ賭けをするか?」

「と言いますと?」

「ロレンツォが『客人』を部屋に呼ぶかどうかだ」

うおお、どっちだろう?

ロレンツォはめっちゃ真面目だしな、、、

「乗りました。しかし幾つか質問させてください」

「よかろう」

「ロレンツォは既婚者ですか?」

「いや、独身だ」

「こうした宿でそうした『プロのお客人』を呼ぶのは一般的な行為ですか?」

「もちろん。大の大人が一人部屋となれば宿の主人も声を掛ける。『腕の良い按摩をご紹介します』とな」

「なるほど、、、、、、」

俺は熟考した。

俺はロレンツォとそうした話はした事がない。

中隊の副官を務めるような方々とは流石に一緒に水浴びはしないし、くだらない話をするほど付き合いが長い訳でもない。

他の兵からロレンツォの噂も聞いた事がなかった。

男色とかそっち系の疑惑のある士官はやはり噂になるのだけどロレンツォが噂話の俎上に上がった事はない。

「よし、決めました。僕は呼ぶ方に賭けます」

「おお、良かった。被らなかったな。我は呼ばない方に賭けるつもりだった」

「ちなみに何を賭けますか?」

「そうだな、、、逆に聞くがオミは何なら賭けられる?」

俺はポケットを探った。

育てている吸魔石を全部取り出して確認する。

幾つかが完全に魔石になっていたので状態の良さそうなのをひとつ選び、それをベッドの上に置いた。

赤み掛かった渋い茶色が出ており内部に濁りも曇りも無い上物に仕上がっている。

華やかな色味ではないがこうした需要だってある筈だ。

「これでいかかでしょう。以前サナのマーケットで売った時は銀貨一枚になりました」

王子は魔石を手に取って窓の光に透かしてよく見分した。

「ふむ。これは中々だな、、、よし。では我は馬を賭けよう。オミの気に入っているあの茶ブチ。お主が勝てばあの馬をお前にやる」

「え、いいんですか? 値段が釣り合わないのでは?」

馬の値段は、腕の良い職人の年収くらいの値段だと何処かで聞いた事がある。

俺のこの世界の換金計算はテキトウだからアレだけども銀貨一枚というのは普通の職人の月収くらいだから十倍以上の開きがある。

「この魔石の色とサイズなら銀貨二枚にはなるだろう。サナでどうかは知らんがこの辺では目の色と同じ色の宝石を恋人や妻にプレゼントするのが流行っていてな。この色は確実に需要がある」

「なるほど」

「そしてあの茶ブチだが、アイツは足が遅く気難しいので兵からは不人気だ。馬が苦手なオミがアレを乗りこなせてるのが不思議なくらいだ」

え、そうだったの?

まあ確かによく威嚇されるし噛みつかれるし鼻も拭かれるけどさ。

「軍馬としては不適格だから農耕用に払い下げようと考えていたところだ。だからちょうど釣り合うのではないか?」

「王子が良いのでしたらそれでいいです」

「よし決まりだ」

どのみち魔石は俺が吸魔石から育てたヤツだから懐はそれほど傷まないのだ。

それに、茶ブチを貰ってもどうせポリオリに連れ帰ってもらう事になるのだろうから、こう言うと何だが大して嬉しくはない。

売り払うのも何だし。

「ところで、ロレンツォが『お客人』を呼んだかどうかはどうやってチェックするんです? 張り込みですか?」

「明日の朝、本人に直接聞けば良い。あ奴は嘘は吐かんだろう」

なるほど、確かに。

「さあ、晩まではまだ時間がある。さっき果物の搾り汁を売る店を見かけたのだ。それに氷を浮かべて飲みたくはないか?」

「良いですね、お供させてください」

「よし、行こう」

俺たちは歳相応に見知らぬ街の見物と買い食いを楽しんだ。

もちろん観光スポットである教会のドームとかお城とかは完全無視。

刃物屋とか道具屋、武具屋なんかを見て回った。

街ぶらって楽しいよね。

て、お上りさんか。