軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「ここまでで結構です。中で馬車は折り返せませんので」

イェネクトとオラヴィの二人がテキパキと樽を下ろす。

俺も手伝おうとしたのだが触らせてくれなかった。

馬子さんたちはワインとセルヴォワーズとどちらが好きか聞いたらワインを選んだ。

肉には赤ワインという情報は知っていたらしい。

牛や豚、老いた馬なんかを解体した時には端肉や内臓を馬子たちだけで食べるのだそうだ。

何だ、しっかり役得はあるんしゃないか。

俺も呼んでくれないかな。

リーダー氏は酒樽を簀で巻いて、緩衝材として積んであった藁で埋めて見られないようにカモフラージュしていた。

「水で薄めたヤツなのであまり日持ちしないらしいから早めに飲んでしまってください」

「では数日中に、、、、」

ふむふむ、数日中に何かを解体するのだな。

きっとあの河原に違いない。

こっそり混ざろうかな。

俺はホルモンも好きなのだ。

「では私はここで失礼します」

「ありがとうございました。助かりました」

シリリャが慌てて走り寄って馬子さんに葉っぱに包んだ何かを渡してした。

干し魚か白キノコかな?

ささやかだけどそんな交流も生まれて良かった気がする。

そしていよいよ炭鉱である。

お城から見える岩壁の穴穴は人ひとりが通れる程度の小さな穴が多かったのでそうした場所から入るのかと思っていたのだがこのトンネルはひろびろとしている。

招かれるまま踏み込むとそこは補強無しの素掘りのトンネル。

先行するイェネクト氏の肩に手を置かせてもらって歩いていく。

思ったよりは床は凸凹が少ない。

数十メートル進んだらもうほぼ真っ暗。

自分の掌も見えない暗黒の世界だ。

自分の目が開いているかどうか自信がなくなって無駄に目を大きく見開いてしまう。

目が慣れてくると数メートル毎に天井に微かに光る石か何かが埋め込んであるのに気付いた。

それを頼りに歩けば壁にぶち当たる事はなさそうだ。

途中から地質が変わったようで音の反響が少なくなって、それまでと違い足音がぐわんぐわんと響かなくなってきた。

「少し右に寄って止まりましょう」

先に居るオラヴィから指示されて右に寄る。

肩が壁に触れた。

空いている手で壁に触れると滑らかで湿り気のある粘土のような質感だ。

程なく前方から多くの足音が聞こえ、オラヴィと挨拶をしてすれ違った。

彼らが樽を運んでくれるみたいだ。

俺たちは手ぶらだ。

「ではまた進みます」

「あ、あの、、、、皆さんは目は見えてるんですか?」

暗闇が続いて俺は神経が疲れてきていた。

もの凄く長い時間歩いて来たような気がする。

でもきっとまだ十分も経っていないのだろう。

「我々ドワーフは人族よりは夜眼が効くと言われてますな。先生は天井の明かりは見えてますか?」

「ええ、微かに」

「我々には天井や壁がうっすら見えてます」

「マジすか」

「もう直ぐシュゴトヴォです。そこまで行けばしっかり明かりが灯してありますから安心してください」

「り、了解です」

「少し休みますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では行きましょう」

暗闇の行進が再開した。

正直なかなか辛い。

魔術のキャンドルを灯したいところだが、なんとなくこうした体験をしといた方が良い気もする。

こうして暗闇を歩くと自分がどれだけ目に頼って生きて来たかよく分かる。

「先生は所々、天井の明かりが二個並んでいるのに気づきましたか?」

イェネクト氏が気を使ってか、小声で話しかけてくれた。

「いえ、気づきませんでした」

「ほら数歩先の辺り」

「あ、本当だ」

「あれは横道のある合図です。ここだと左寄りにまた別の明かりがあるでしょう?」

ああ、確かにある。

「この道はずっと真っ直ぐで左右に幾つも横道があります」

「メインストリートなんですね」

「ええ、これが曲がりくねってたら我々でも迷ってしまうかも知れません」

こわっ。

こんな所で遭難したら絶対パニックになるわ。

無駄にルチェソラレとか魔力消費の多い光魔術を使って遠くまで照らそうとして魔力切れになってしまいそうだ。

しかしイェネクト氏が話し相手になってくれたお陰でかなり気持ちは楽になった。

「普段、我々は余り歩く時には喋りません。音の響きの変化を聞き逃してしまうからです」

「あ、すいません」

「大丈夫です。もう直ぐそこです」

確かに奥からガヤガヤと人の賑やかに話し声が聞こえてくる。

その響きからかなり大きな空間があることが想像できる。

「見えてきやしたぜ」

おお、明かりが見える!

天井に埋まっている発光体の青白い光ではなく温かみのある炎の光だ。

気付けば道はかなり広くなっていて、壁面も掘ったものではなく自然な洞穴になっていたようだ。

そしていよいよ「そこ」に足を踏み入れると広大な鍾乳洞がひろがっていた。

数百メートルか、下手すりゃキロを超えるようなこの空間は長細くすり鉢状になっていて、奥側は今居る入り口側よりも遥かに高くなっている。

丸い階段状に広がる床面。

きっとかつては水がそれぞれに溜まっていたのだろう。

巨大な丸いお盆をずらしながら重ねたように階段状になっており最下層には水が流れている。

所々にある乳白色鍾乳石の上に篝火が焚かれている。

天然の巨大な蝋燭のように見える。

ここは地下水が流れていたところなのか。

しかし今はお盆状の床には水は溜まっておらずドワーフたちの荷物が置かれていたり寛いでいたりと生活スペースになっている。

使いやすいように水の流れを変えたのだろう。

なんとまあメルヘンでかつ壮大な眺めだろうか。

この世界に来て初めて想像を超える光景を見た。

オラヴィ親方が胸を張る。

「どうです、凄いでしょう?」

「凄いですね。とても美しい、、、」

「こうした洞穴がこの地方には幾つかありまして、我々ドワーフの城はこちらが本陣と言われる程です」

「いやあ、分かります。見事ですね。ポリオリ城の謁見の間や式典のホールも凄いと思いましたけど、これほどじゃないですもんね」

そこらじゅうにドワーフの荷物が置かれているせいで生活感が溢れているが、片付けたら、それこそ王様の間として相応しいだろう。

ファンタジーだ。

これだよ、これ。

俺の異世界生活に足りなかったのはこういう景色だよ。

しかも居るのは全員ドワーフ。

ああ、本当に俺は異世界に居るのだな。

なんか泣きそうだ。

オラヴィの解説は続く。

「かつてはここシュゴトヴォを中心に数千の同胞が暮らしておりましたが、今は世界中に散り散りになりここに住むドワーフは百五十に満たない程です」

それでも百五十人も居るのか。

パッと見はそんなには居なそう。

もっと深い所に仕事に行っている連中が沢山いるのだろう。

「あの高くなっている場所にあるステンドグラス。あれが人族で言うところの我々の国旗です」

玉座がありそうな場所にある丸いステンドグラスは裏側から炎で照らされている。

図案は斜めに引かれた境界線を境に上が緑で下が赤となっていた。

あれ、何処かで見たな。

そうだポリオリ城の謁見の間だ。

あそこでは王座の後ろではなく部屋の明かり取りとして入り口側にあった。

「上の緑は地上を、下の赤は大地を表していると言われています」

なるほど。

「お城の王様の謁見の間にも同じようなのがありましたね。あっちはめちゃくちゃデカかったですけど」

「ご覧になりましたか。あれは内側から火で照らすとポリオリ城の壁面に色が浮かび上がってそれは綺麗なもんです」

そういう使い方をするものだったのか。

部屋の明かり取りとか内側から見て綺麗とかじゃないのか。

オラヴィは腕を広げてシンボルに向かって頭を下げてから続けた。

「ドワーフの王の威光で世界を照らすという壮大な仕掛けですな」

なるほどなあ。

そういえば斜め線の入り方が俺が見たのと逆だわ。

あれは裏側だったんだな。

俺も真似して両腕を広げて頭を下げた。

「では先生、今日の宴会場へ向かいましょう。こちらです」

あ、ここがドワーフの居城の全てではないのか。

観光客に観光地を見せてくれただけか。

そういえばカイエンでもあっちこっち見どころを連れていかれたな。

そういうもんか。

俺も外国人のお客さんとかが来たら近所の寺とか神社に連れていくかも。

ドワーフも人間も同じなんだな。

オラヴィに連れられて幾つかお盆を降りて壁面の裂け目に入った。

また真っ暗な通路を進んだ先の左側に大きな部屋があった。

大きなと言っても学校の教室くらい?

この部屋に全員集合するのだろうか?

その部屋のそこここにちゃぶ台が置かれ、入り口脇には既に酒樽が置かれていた。

酒樽の横にはグラスとお椀と柄杓がスタンバイしてあってもう飲む気満々だ。

ドリンクバー方式ということだろうか。

「さあさあ、こちらへ」

部屋の奥まで連れてこられ床に座るとドワーフたちも続々と部屋に入って来て、酒が汲まれグラスが配られた。

なんか和風の宴会みたいだ。

「では、久しぶりの来客を祝して!」

あ、もう乾杯?

えっと長官と王子も来るんだけど待たない感じ?

そういえはオラヴィ親方は二人か来るって知らないんだっけ?

アワアワしてると入り口に明かりが灯った。

「間に合ったようだな! 皆久しいな! スクティを手土産に私が戻ってきたぞ!」

テンションの上がった長官が宴会場に雪崩れ込んできた。