軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159

「我が騎士オミクロン、わたしにダンスを申し込みなさい」

小声でそう命令されてしまった。

もちろん拒否権はないのだろう。

いや、騎士云々は置いといてこういうのは断ってはならぬという事は世間知らずな俺にも察知できる。

さっき王子がやっていたように右手を出して軽く膝を曲げる。

「アレッシア姫、わたくしとダンスを踊っていただけないでしょうか?」

姫はくっと顎を上げ俺の手を取り、はっきりと言った。

「オミクロン、其方は平民の身なれど、我に命を捧げると誓った騎士。今日この日だけは特別ですよ?」

そういう感じなのね。

了解した。

よく分からんが何処かに向けた政治的なメッセージなのだろう。

「ありがたき幸せ!」

俺はより一層頭を低くした。

「頭をお上げなさい。参りますよ」

「はっ」

俺は王子がやっていたようにアレッシアの手を左手で持ち替え、姫をダンスフロアにお連れした。

手を軽く引かれたのでその場で向き合い、改めてお互いに頭を下げる。

姫の手を取り、俺の左手は姫の腰の辺りに添える。

姫の右手は俺の胸の辺りに置かれた。

どちらも触れるか触れないかの微かな接触だ。

姫の体重が僅かに移動したのでそれに合わせて俺は足を引く。

スローなバックステップのような動き。

全てアレッシアのリードで行っていく。

毎日王子と剣術をやっていなかったら、この相手の体重移動に合わせて動くというのは出来なかったかも知れない。

俺は剣術の時と同じように相手の身体の中心あたりを目の焦点を合わさずに見ていた。

するとアレッシアが小声で言った。

「視線を合わせるのです」

俺は慌てて姫と視線を合わせる。

そして俺はギョッとした。

思っていたよりもふたりの距離が近かったからである。

こんな至近距離で真正面から女子と見つめ合うなんて生まれて初めてだ。

しかも美少女。

俺は自分の顔が真っ赤に上気するのを感じた。

ただでさえ恥ずかしいのにより一層恥ずかしい。

このフロア中の視線が自分に注がれているのではないかと思う。

いや実際視線を集めている筈だ。

姫の目から視線を外しそうになるが必死に耐える。

ちょっと待て。

さっき俺は何処を見ていた。

姫の身体の中心。

つまり胸元を見ていた。

側から見たら俺が姫のおっぱいを凝視していたように見えたのではないだろうか。

なんか色々とヤバい。

年齢的な倫理観的にも、身分差的にも完全アウトだ。

ツイフェミのお姉さんたちにも、姫推しのヲタのお兄さんたちからも総攻撃を喰らってネットの海から完全追放されてしまう。

リアルの世界でも身柄が特定されて迷惑系のインフルエンサーから実家を凸られて晒されてしまう。

そして警察に捕まって夜のニュースで流されるんだ。

中学の同級生にモザイク越しに『大人しくて真面目な方だったんでそんなことするなんてちょっと信じられないですね』とか言われてしまうんだ。

俺の人生、終わった、、、

と、思ったら曲が終わり、アレッシアは俺から手を離し優雅に頭を下げた。

俺も慌てて膝を曲げて頭を下げた。

そして姫をエスコートしてフロアを出ると、アレッシアは迎えに来たレディメイドに少し困ったように言った。

「平民の素手で触れられてしまったから、もう他の殿方と踊るのは無理ね。だって失礼に当たるもの」

「そうですわねアレッシアさま。今宵はもう失礼させていただくしかありませんわ」

「折角の日なのに、残念ですけれど、、、」

アレッシアとそのメイドは周囲の「あ、、、」という悲しげに出された手を無視して領主とその妻に暇の挨拶をすると、今更申し込まれるダンスの申し出を残念そうに断りながらホールを出て行った。

「我々も逃げるぞ」

耳元でクラウディオ王子にそう囁かれ、振り返ると俺は王子と長官に両側から挟み込まれるようにホールから連れ出された。

背中に数多くの強い非難の視線を感じたような気がしたが、もちろん振り返るような真似はしなかったよ。

階段を降りながら王子に聞かれた。

「ダンスは初めてか」

「ええ、もちろん」

「少しでもやっておけば良かったな、酷いものだったぞ」

「えっ」

マジか。

俺的には精一杯頑張って、そこそこにはこなしたつもりだったんだけどな。

「ぷっ」

長官が噴き出した。

俺は文句を言う。

「長官、酷いじゃないですか」

「いやいや、初めてでアレなら充分だと思うぞ。足を踏んだりドレスを踏んだりアレッシアを転ばしたりしなかったではないか」

「しかし、姉君。全く音楽にリズムが合っていなかったではありませんか」

そうか。

確かに音楽は全く耳に入ってなかったわ。

ダンスとは、という根本的な問いを全世界に向けて投げかけてしまったな。

「変に上手いよりは良いだろう? 平民感がある」

「言われてみれば、それもそうですね、、、」

平民感。

なんか本当の事なんだけど、なんだか心に引っかかりを感じるな。

これが差別か。

やーい、平民!

とか言われた方がすっきりするかも。

そうですけど何か? って言い返せるもんな。