軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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次の授業の話に行く前に乗馬について話しておこう。

ひとつ言っておきたい。

あの生き物は邪悪だ。

人を見て従うか従わないか決めている。

王子はもちろん軍の方々や馬の扱いが分かっている人物には従順にするが、俺のような馬が初めてというタイプにはとことん意地悪にするらしいのだ。

恥ずかしながら俺は馬を間近で見てその大きさに驚いてしまった。

大きいのは知ってはいたのだが、諸君らは近くに立つと文字通り見上げる大きさなのを知っているだろうか?

体高、つまり馬の背中までの高さが俺の身長よりも高いのだ。

頭までの高さで言ったら2メートル以上あるのではないだろうか。

腹もパンパンに張って丸太のように太い。

顔の大きさだけで俺の胴体よりもボリュームがある。

そしてそして、もの凄い筋肉量なのだ

圧倒的なムキムキ感。

毛の向こうに血管が浮いてるのが見える。

もちろん俺は独りで跨ることができなかった。

鐙に足を掛けるのが精一杯で、そこから飛び乗ることもよじ登ることも不可能だった。

みっともないがトレーナーさんにお尻を押してもらい、やっとこさ乗れたほどだ。

乗ったら乗ったで歩き出せば上下運動が激しくて優雅に手綱なぞ持っていられない。不安定な上に高いわ怖いわで大忙しなのだ。

「馬の揺れに合わせて尻を鞍に乗せるのだ」

王子はアドバイスをくれるがこっちはそれどころじゃない。

え、てか、じゃあ基本は中腰ってこと?

座ってられないの?

馬に乗るのってそんな重労働なの?

そういえば長官も『身体が鈍って馬にも乗れん』みたいなこと言ってたよな。

乗馬って完全にスポーツだったんだ。

「我々はこうやって乗るが、サナではこうらしい」

また王子が何か説明してるが、見ても何が違うのかさっぱりわからない。

そもそもこちらは馬の歩く方向すら指示できないのだ。

脚の締め付けと膝だけでバランスを取って両手で手綱を持つのがもう難しい。

中腰になって少し尻を浮かせバランスを取る。

その瞬間、馬の上下に合わせられず尻が鞍に打ち付けられた。

バランスを崩した俺は前につんのめり、慌てて馬のタテガミを掴んだ。

それが気に食わなかったのか馬は後ろ脚を跳ね上げ俺を弾き飛ばした。

なんとなくそうなる未来が見えていた俺は手綱を手放し自由落下を選んだ。

世界が逆さまになり、このままだとおれは頭から地面に叩きつけられる。

馬が横顔で俺を見ているのが見えた。

あいつらは目が横に付いてるから正面の物が見たい時は顔を横に向けるのだ。

咄嗟に俺は頭を庇い、でんぐり返しをするように肩から着地した。

そのままコロリと転がり受け身を取る。

怪我はないが馬場は馬糞まじりの砂地である。

一張羅のシャツが汚れてしまった。

王子は大笑い。

馬も多分笑ったんだろう。

歯茎を剥き出しにしてブフンと鼻を鳴らした。

トレーナーさんが駆け寄ってくる。

「落馬する時に手綱を手放すと馬に踏まれる事がある。手綱からは絶対に手を離すな」

「そうですか、危なかったですね」

「ああ、馬が骨折でもしたら大ごとだからな」

「ぐぬ、、、」

トレーナーさん冷たい。

馬の方が大事か。

それもそうか。

大事な国の戦力で、唯一の速い移動手段だもんな。

育てるのにも餌代やら管理費もかかる。

一頭がひと財産ってとこだろう。

ほっとけばそこら辺から生えてくる人間のガキとは違うわな。

事前に馬の乗り方といった座学をやってくれなかった王子も王子だが、何よりも俺が馬に怯えていることに問題があるように思えた。

そこで俺は馬の世話をすることにしたのだ。

空が白んで目を覚ますと真っ先に馬小屋へ向かう。

そしてトレーナーさんたちを手伝い餌やりと馬の寝床の藁を交換し、床掃除をする。

飯を食って馬場を走り回って汗をかいた馬の汗を拭いてやりブラッシングする。

運動して汗を拭いた馬は水を飲みたがるが、急激に身体や腹を冷やすと、割とすぐに具合を悪くするので何より先に身体を拭いてやらねばならないらしい。

少しの休憩ののちに水やりだ。

俺が世話を手伝うのは朝だけだが、馬は大食漢で飯を切らしていけないらしい。

食事は一日に四回と、合間合間にオヤツの野菜や果物を与えるとのこと。

牛飲馬食とはよく言ったものだな。

もちろん扱いは戦場でも同じらしく、馬のための休憩や食事時間を取らなければいけないらしい。

なんか一晩中、馬や馬車で駆け続けるみたいな映画とかアニメのシーンってあった気がするんだけどアレって嘘だったんだな。

ついでに言っておくが馬は臭い。

何というか、良い匂いではない甘い匂いがする。

馬が好きな人は良い匂いと思うらしいが、俺にしてみれば咽せるような不快な匂いだ。

それに藁草の匂いと馬糞の匂いが混ざって独特なしつこい匂いになる。

馬の世話を終えて自室に戻って食事を摂ると自分の手から馬の匂いがするのに気づく。

この世界には洗濯用の匂いのキツい石鹸は存在するが手を洗うのに使える俺たちの知っている良い匂いの石鹸はない。

慣れるしかないのだろう。

馬にも慣れるしかないのだ。

あいつら今に見ておれ。