作品タイトル不明
873話 堕ちた大天使の亡骸
雲外鏡で映したら、天使の姿が変わってしまった。多分、真実が暴かれて、本当の姿が現れたのだろう。もしくは、天使に変身する類のバフが剥がれた?
名前も天使から『堕ちた大天使の亡骸』に変わっている。要は、でかいフォールンエンジェルスケルトンってことだよな?
「……グオオオォォォ!」
「きた! 逃げるぞ!」
「ヒヒン!」
「キョ?」
姿を暴いても、超強いデカブツレイドボスであることに変わりはない。俺たちだけじゃ絶対に勝てないのである。
雲外鏡を抱えて、再び逃げるようにキャロにお願いする。
速度バフが消えたおかげなのか、やつの追跡速度が一気に下がってくれた。今度こそ、逃げ切れそうなのだ。
キャロのスタミナのことを考えて、少し速度を落とす。これでもまだキャロの方が速いしな。
すると、他の面々も追いついてきた。カルロと、ネクロマンサーのレクイエムだ。
レクイエムはスカルホースという骨の馬に乗っている。数少ない初期組のネクロマンサーとして、検証班に協力しているらしい。
その姿は不健康そうな青白い肌の、猫背エルフさんだ。髪の色は黒で、目は赤という、まさにネクロマンサーって感じの外見である。
名前もレクイエムだし、最初から狙ってやっているんだろう。話し方とかは普通だけどさ。いや、ゲーム開始初期には、死霊魔術師っぽい感じの「くくく、我が名を教えてやろう」みたいな話し方をしていたらしい。
しかし、ふと気づいてしまったそうだ。「なんか、この喋り方恥ずかしいな」と。それからは喋り方は普通に戻し、黒歴史の名残である職業と名前と外見だけが残ったわけだ。
ゲームの中で中二病が完治してしまうという稀有な経験をした男、それがレクイエムであった。
「うちの子、あれに反応してたっぽいですね!」
「キキ!」
レクイエムの肩に乗っている骨の蝙蝠が甲高く鳴く。
ヒバリ草原の村から出撃することになったのは、レクイエムの使役するスカルバットが騒いだことが理由だった。
明らかにソワソワしながら外を気にしているというので、何かのイベントの前兆かもしれないという話になったのだ。だが、コウモリ特有の高い感知能力で、プレデターの接近を感じていただけだったらしい。
「こいつ、死霊感知っていう能力持ってまして」
「あー、天使と見せかけて、実は死霊だったみたいだもんなぁ」
「あれ、白銀さんがやったんでしょ?」
「雲外鏡の真実看破が効いたみたいだ。でも、雲外鏡がいなきゃ正体を暴けないってなったら陰陽師有利過ぎるから、他にも何か方法があると思うぞ」
そんな話をしていると、ヒバリ草原の村が見えてきた。いやー、何とか生き残ったらしい。
村に飛び込むと、先に死に戻ったハイウッドたちが出迎えてくれた。
「白銀さんたちも無事だったか!」
「おう。何とかなぁ」
「あの骨、天使ですか?」
「ああ――」
あったことを全てハイウッドに語る。天使がスケルトンに変わったからと言って攻略が楽になるとは思えないが、検証班や早耳猫なら何か気付くかもしれないしね。
すると、ハイウッドたちが喜び始めた。しかも、俺の予想の何倍もの喜びようだ。
「えーっと、デカ天使がデカスケルトンに変わって、何がいいんだ?」
「それはですねぇ。この浮遊大陸だと光属性のアイテムがかなり多いわけですよ。村で売ってる武器も光属性のやつありますし、装飾品もいっぱいある。つまり、天使には通用しそうもないって思ってた最新の武器が、死霊なら特効になりそうってことです」
「なるほどなー」
ライチョウ草原の町の店でも光属性の武具や、属性付与薬が売っていた。相手が死霊なら、あれが使えそうなのだ。
「よーし! 早速検証だ!」
「どうせステ半減してるんだし、ゾンビ戦法で検証しまくるか!」
「いいな!」
検証班の人たちが盛り上がっている。これから夜通し、死に戻りつつ検証を続けるつもりであるらしい。
凄いを通り越してヤベーな。さすが検証班。真似できんわ。俺? 俺は帰るよ? 属性野菜の実験もしたいし。
「白銀さん! 頑張りましょうね!」
あれ? 俺、参加決定しちゃってんの? 正体暴いたから? それとも、ゲーム的には参加するのが当たり前なのだろうか?
「白銀さんと一緒に検証! なんかテンション上がる!」
「これは勝ったな!」
「期待値爆上がりだー!」
「あー、えーっと……が、頑張ろうな?」
「「「おー!」」」
仕方ないじゃん! あんな盛り上がられちゃったら断り切れないし!
ただまあ、その後の戦闘は思ったよりもきつくはなかった。堕ちた大天使の亡骸には想定通り光属性が刺さりまくったのだ。
半数以上がデスペナでステータス半減しているのに、余裕をもって勝ててしまったほどである。どちらかというと、天使の正体を暴くまでが難しいらしい。
ただ、それで検証終了ではなかった。なんと、草原を駆け回って、再びプレデターを探すと言い始めたのだ。いや、検証をするにはまた戦わなきゃいけないのは分かってるけどさ……。みんな元気だぜ。
その後、雲外鏡以外の方法でプレデターの正体を暴けるようになるまで、かなり時間がかかった。
闇属性の攻撃を一定以上当てる、強力なデバフを一定時間与える、看破系スキルを連続で成功させる、ネクロマンサーの死霊探知を使う。その辺が有効であると分かったが、どれもかなり難しいのだ。
ああネクロマンサーの死霊探知を使えば簡単だけど、不人気職のネクロマンサーを連れてくるのがそもそも難しいからね。ただ、今後は少し改善されるかもしれない。
なんと、検証後半でレクイエムが堕ちた大天使の亡骸を従魔化することに成功したのだ。正確には、そのドロップを死霊化したんだが。
まあ、弱体化して、レイドボスだったときほど強くはないけどね。ゲームにありがちなやつだ。
それでも相当強く、現在のエリアだと無双状態だった。スケルトンの天使とかメッチャカッコいいし、欲しがる人は多いだろう。ネクロマンサーになるかはともかく、死霊魔術を取得したい人はかなり増えると思う。
色々と得る物もあったし、付き合ってよかった。メッチャ疲れたけどな!
「じゃあ、俺は帰るよ」
「情報ありがとうございましたー!」
「またよろしくお願いしますー!」
「サスシロ!」
騒がしいカルロや検証班に別れを告げ、ホームへと戻ってくる。新しい仲間である野衾の周りにうちの子が集まってきたな。
「フマ!」
「ポン!」
「あいー!」
モンス、妖怪、マスコット。みんなで仲良く自己紹介をしている。
「キュ!」
「スネ!」
「ブシュー!」
小動物トリオ結成だな。それぞれに撫で具合が違っていて、素晴らしい。下手したらずっと撫でてられるんじゃないか? それくらい気持ちよかった。
野衾はこうして撫で比べると、やはりモコモコ感が段違いだ。
「そうだ、オルト。浮遊島にあった属性が偏った野菜を、うちでも作りたいんだ。光は浮遊島の畑で作れると思うから、それ以外を畑でどうにかできないか?」
野衾を撫でながら、オルトに尋ねる。オルトも光属性のソイ豆やキャベ菜を見ているから、話が早かった。
「ム!」
「トリ?」
「――♪」
畑の番人たちが何やら相談している。そして、振り返ったオルトが胸をドンと叩いて、サムズアップしてた。属性野菜を育てるのも問題ないって事なんだろう。
「じゃ、畑行って色々作業しますか」
「ムム!」
「トリリ!」
「――♪」
楽し気な3人に引っ張られながら、畑に向かう。
浮遊島では死にそうな目に遭ったし、ログアウトまでは畑でまったり過ごそう。