軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

864話 地獄鬼ごっこ

陰陽師ラウンジから入場できる鬼ごっこダンジョンは、浜風たちに聞いていた通り不気味な場所だった。

鍾乳洞なんだが、石の色が白ではなく黒いのだ。しかも、天井や壁からは血のような赤い液体が無数に滴り落ち、本当に地獄のようだった。

光源は、大小の青い鬼火だ。蛍のように小さいものもあれば、握り拳大のサイズのものまで、様々な大きさの鬼火が洞窟内を漂い、周囲を薄く照らしている。

この洞窟内を無数の激強鬼が徘徊してるわけか。ちょっと怖いけど、進まねば。

「制限時間は30分だからな、まごまごしてる時間はないか……。みんな、行くぞ!」

「スネ!」

「ウアー」

「フ!」

頭の上にはスネコスリ。前後を幽鬼とフウキが固めてくれる。うん、仲間がいるって言うのはいいね! 安心感が違う!

妖怪たちに勇気を貰い、俺は洞窟を歩き出した。

足元はデコボコしており、非常に歩きづらい。しかも、赤い水のせいでツルツル滑るところもあるし。

鬼ごっこにこれほど適していない場所も珍しい。運営、プレイヤーを逃げ切らせるつもりないだろ?

壁に手を突いたら赤い水で汚れるし、なんかヌルンとしているし。素材は赤テング茸や闇鉱石など、すでに知られている素材ばかり。普通のダンジョンだとしたら、実入りがほとんどないクソダンジョン扱いになるだろう。

ブツクサと運営に対する愚痴を呟いていると、先を飛んでいたフウキが警戒するように声を上げた。

「フフ!」

「も、もしかして遂に出たか?」

俺が足を止めた直後、洞窟の闇の向こうで、大きな影が蠢く。

道を塞ぐほどの巨体。頭部から伸びた二本の角。のそりと近づいてくると、闇に塗りつぶされていた色もしっかりと見えてくる。血のように赤い肌に、虎縞の腰巻。乱れた白い髪に、巨大な木の棍棒。

紛れもなく、鬼であった。鬼と言ったらこれだろうって感じの、正統派の鬼である。

「ガガァ」

「赤鬼! 逃げるぞ!」

声を上げた鬼の顔は、獲物を前にしてニヤリと笑ったかに見えた。実際は表情が動いて笑っているように見えただけかもしれないが、そう確信する程度には迫力があったのだ。

赤鬼に背を向けて、洞窟を引き返す。幸いなことに赤鬼はさほど速くはなく、少しずつ引き離すことができている。

これは浜風とロクロネックが話していたんだが、挑戦者の敏捷によって鬼の走る速度が調整されるらしい。

絶対に逃げきれない速度で瞬殺されるんじゃ、鬼ごっこにならないからな。そこは運営も考えているのだろう。

鍾乳洞を全速力で逃げ続けると、なんとか赤鬼を撒けたらしい。何度か角を曲がったせいで、現在位置とか全くわからなくなったけど。

地図とかもないので、現在地が分からないのだ。

「に、逃げ切ったか……」

「スネー」

スネコスリが俺の肩の上で汗をぬぐう仕草をしているけど、妖怪って汗かくの?

「赤鬼、追ってきてないよな?」

「ウアー」

「なら、このまま――」

「フフー!」

ほんの少しだけ足を止めて休憩していると、フウキが俺のローブをグイグイと引っ張った。ただ事ではない様子に慌てて振り返ると、通路の向こうからこちらを覗いている鬼と目が合ったではないか。か、可愛い仕草してるんじゃねぇぇぇ!

「あ、青鬼だぁ! 逃げろぉぉ!」

「ガアアアア!」

弾かれるように走り出した俺たちを、青鬼が追ってくる。立て続けに鬼に遭うなんて、ついてないな!

だが、本当についていないのはこの後だった。

「ガ?」

「げぇぇ! 赤鬼ぃぃぃ!」

赤鬼と鉢合わせしたのだ。咄嗟に道を曲がったことで前後を鬼に挟まれることは回避したが、後ろから赤鬼青鬼が仲良く追ってくる。

やばいやばいやばい! このままじゃいずれ追いつかれて――。

「ガオオオオ!」

「ぎゃぁぁぁ! 白鬼ぃぃ!」

完全に前後を挟まれた! 終わった! こんなのクリアできるようになってんのかよ! 攻略不可なんじゃないか?

「いや、諦めてなるものか! この場合、前方の白鬼を瞬殺できればまだ逃げられる! やるぞ!」

「フフー!」

「ウアー」

いやー、そうは言っても、無理だよねぇ! 俺の奥義でも2割削れたくらいだし、妖怪たちはまだ弱いし、そもそも白鬼メッチャ強いし!

何かアイテムで有効な物はないか? 意識を引き付けるようなアイテム!

戦闘離脱系の道具は? 無理! 吹き飛ばし系の爆弾は? ノックバック耐性持ってるのね! 麻痺系のアイテム! 全然効く気配ないな!

入れ替えたキンキ、河童、ハナミアラシが白鬼を引き付けてくれているが、もう限界が近そうだ。背後からは赤鬼と青鬼の足音が近づいてくる。

「何か……何かないか……」

焦りながらアイテムをスクロールしていく中で、あるアイテムが目に入る。

「これは! も、もしかして効いたりするんじゃないか……?」

俺はそのアイテムを取り出すと、白鬼目がけて投げつけた。

「うぉぉぉ! 鬼はぁぁ外ぉぉ!」

俺が投げつけたアイテム、それは豆だった。初期からのリックの好物、ソイ豆である。鬼と言えば豆! そう思ったんだが……。

「ガ、ガァァ?」

「え? ちょっと怯んで――」

「ガガガァァァ!」

「やっぱ効かないかぁぁぁ!」

ちょっと怯んだようにも思えたけど。その後メッチャ怒った白鬼に叩き潰され、死に戻ったのだった。

このダンジョンの場合、死んでも入り口に戻されるだけでデスペナはないからいいんだけどさ。

「……とりあえず、拠点に戻るか」

今の俺じゃどうやっても攻略できそうにないって分かっただけでも収穫だ。そうでも思わんとやってられん! ちくしょー! 絶対に攻略してやるからな!