軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74話 鉢植え

ムラカゲたち忍者夫婦が立ち去ると、ちょうど朝日が昇り始めた。

「よし、今日も一日頑張りますか」

「ムッム!」

「キュ!」

「クマ!」

「――♪」

皆で畑の作物を収穫していると、声をかけられる。

「おはようさんユート。今日もせいが出るな」

「おはようタゴサック」

鍬を肩に担いだタゴサックが声をかけてくる。ログインしてきたばかりらしい。やはりファーマーの活動時間は朝なんだな。

すると、タゴサックが俺の方をじっと見ている。

「どうしたんだ?」

「いや、そのな……」

「ああ」

「その、だな……」

タゴサックは何か聞きたそうな顔をしているのだが、その質問を飲み込んで何やらモゴモゴと呟いている。

珍しく歯切れが悪いな。まだ短い付き合いだが、タゴサックが竹を割ったような、言いたいことをスパッと言う性格なのは分かっている。だから、こんな姿はちょっと新鮮だ。

「マナー違反は承知なんだが……」

「何だ? タゴサックには世話になってるし、何でも聞いてくれよ」

「ユートは、畑で雑草を育ててるじゃないか? あれって、何か意味があるのか?」

おっと、その質問か。というか、今まで聞かれなかったのがおかしいのかもな。タゴサックがそのことに気づかないはずがないし。

あー、どうするか。何でも聞いてくれとか言っちまったが、これは俺だけの問題じゃないしな。

「えーっとだな……」

「すまねえ。言いたくなけりゃ良いんだ。ちょっと気になっただけだからよ」

どうしよう。

俺が悩んでいたら、タゴサックの後ろから誰かがやって来た。

「おはようユートさん」

「おはようございます」

挨拶をしてきたのは、アシハナとアカリだった。珍しいというか、予想外のコンビだ。

「あら、タゴサックもいたのね」

「よおアシハナ」

「なんだ? 知り合いだったのか?」

「アカリんは私のお得意さんなのよ? タゴサックもそう。そのクワとか、私が作ってるんだから」

「私はアシハナちゃんのところに遊びに来たら、ユートさんの所に納品に行くって言うから、ついてきちゃいました」

納品? ということは――。

「ジャジャーン! ついに完成しました! クママちゃんのための養蜂箱~!」

「おおー!」

名称:養蜂箱+

レア度:3 品質:★8

効果: ホームに設置すると、ハチミツを収穫可能。責任者によって量や品質が異なる。

ついに来たか! しかも品質が凄い!

「クママ! ついに養蜂箱来たぞ!」

「クックマー!」

クママがキラキラした目で養蜂箱を見ている。

「ただ――ちょっと高いか?」

そう、養蜂箱は人間用の高さに作られていたため、クママには背が高すぎるのだ。これでは、中をのぞき込めもしない。

それとも、責任者に任命しておけば養蜂スキルが勝手に発動するのだろうか?

そう思っていたら、アシハナがさらに何かを取り出した。踏み台みたいだな。

「ふっふっふ、私が高さの事を考えていないと思っているの? これも合わせての完成品よ! 我が最高傑作、クママちゃん用踏み台!」

本当に踏み台だったか。それにしても最高傑作? 見た目は普通の踏み台だが。何か特殊な効果でもあるのか?

「色をクママちゃんと同じ黄色に染めて、見た目の相性は抜群よ。さらにここの持ち手を見て! 少し大きめの丸い穴を付けたことにより、クママちゃんでも簡単に持ち運びが可能だわ!」

特殊効果がある訳ではなく、単に家具として優れているということだったか。まあ、クママに似合っているのは確かだが。よく見たら、踏み台部分が熊の顔の形をしている。無駄に細部に凝っているな。

「この台も貰っていいのか?」

「もちろん。養蜂箱とセットだと思ってくれていいわ」

「じゃあ、ありがたく」

そもそも、この台が無いとクママが養蜂箱を使えないしな。

踏み台を使って養蜂箱をのぞき込んでいるクママの横では、アカリがリックの尻尾をモフモフしている。触り方が上手いのか、リックも気持ちよさげだ。

「そういえば、アカリは遊びに来ただけなのか?」

「はい! ユートさんのモンス達と遊ばせてもらおうと思いまして。でも、それだけじゃないですよ?」

そう言ってアカリが何やら、植木鉢のような物をインベントリから取り出した。いや、ような物ではなく、完璧に植木鉢だ。

「お土産です」

「これは?」

「第5エリアの町で売ってた、ハーブ栽培セットです! 鉢と種がセットになってて、農業スキルが無くても5日間くらいでハーブを育てられるらしいですよ?」

「え? まじか? それ、ちょっと見せてくれる?」

「いいですよ。そもそもこれはユートさんにお土産として買ってきたんですから。ファーマーだったら絶対に喜んでくれると思って」

アカリから受け取った鉢植えからは、小さい芽が出ている。それはバジルルの芽だった。間違いなく、ハーブを栽培できている。

そして、これでハーブを育てて収穫をすれば、植物知識が解放されるだろう。なるほど、植物知識持ちのプレイヤーが優遇され過ぎだと思っていたが、第5エリアまで行けば誰でも簡単に取得可能になるスキルだったってことか。

「ほほう、俺にも見せてくれよ」

タゴサックもハーブと聞いて、興味深げに鉢植えを見ている。

「これって、安いのか?」

「1つ1000Gくらいですね」

「第5エリアに行けば、誰でも買えるのか?」

「はい。実際、第5エリアのお土産として、かなりの人気が出始めてます。私も一つ育ててますし」

という事は、今後植物知識は珍しいスキルじゃなくなるだろう。俺のハーブティーが異常な人気なのも、あと数日ってことだ。

正直、儲けが減ってしまう残念さよりも、バカ騒ぎに巻き込まれなくなるという安堵の方が遥かに勝っている。ゲームの進行上の理由によって植物知識の情報が広まってしまうのであれば、アシハナとソーヤ君に対する義理を欠くことにもならないだろう。

「俺の知り合いが第5エリアに到達したって言ってたし、早速いくつか買ってきてもらおう」

タゴサックも入手する気満々だな。農業スキルがある彼女なら、下手したら明日にはスキルを得ているかもしれない。

「タゴサックは、俺が雑草を育ててる理由が知りたいんだよな?」

「できれば、だぜ? 無理に教えてもらおうとは思ってないからな」

俺はチラッとアシハナを見た。すると、アシハナは大きく頷く。

「いいのか?」

「これは仕方ないよ。どうせ1日か2日早まるだけだし」

アシハナも、タゴサックが直ぐに条件を満たすと考えているようだ。まあ、だよな。俺はタゴサックに植物知識スキルについて教えてしまう事にした。

タゴサックに植物知識の情報を広めてもらえば、ハーブ祭りが早く終わるかもしれないからな。むしろ、そうなってほしい。

俺の説明を聞いて、タゴサックが大きく頷く。

「なるほど! だから雑草を……」

「ああ、タゴサックも育ててみろよ。農業スキルがあれば、鉢植えなんか使わなくても畑で育てればいいからな」

「そうだな。早速やってみるか。ありがとうなユート!」

「ここで教えてなくたって、鉢植えもあるし、タゴサックならすぐにでも辿りついてたと思うぞ」

「いや、こんな貴重な知識を教えてもらったんだ、俺にできる事なら何でも言ってくれ」

想像以上に恩を感じてくれたらしい。なんか、逆に申し訳ないな。単にハーブ祭りが早く終わってほしかっただけなのに。

「じゃあ、そのうち何かあったら頼むよ」

「おう。任せておいてくれ」