作品タイトル不明
694話 カルロとダンジョン
「うみゃ……ちょっと目を離しただけで……たった数時間なのに……うみゃぁぁ~」
頭を抱えて、うみゃうみゃ言っているアリッサさん。驚かせることができたらしい。
「えーっと、俺の情報は以上ですね」
「うぅぅ……情報料を算出するから、ちょっと待って……」
ヨロヨロと立ち上がって、計算を始めようとするアリッサさん。
と、そこに新たな人影が現れる。見覚えのある黒髪さんだ。
「カルロ、先日ぶりだな」
「どもども」
入ってきたのは早耳猫のテイマー、カルロであった。ここで出会うと分かってりゃ、メルムあたりをローブの中に仕込んで以前驚かされた仕返しをしてやれたのに!
アリッサさんに用事なのかと思いきや、俺を見ている。
「どうした?」
「ふはははは!」
「!」
カルロの奴が、着込んでいたマントをバッと翻す。
きゃー! へんたい! じゃなくて、カルロお得意の奇術モドキだ!
「……うん?」
「キュ?」
「ヤ?」
だが、何も起きない。カルロはただマントを翻しただけだった。何か出す振りをして、驚かしたかっただけか?
だが、次の瞬間――。
「キキー!」
「うわぁぁ!」
「フマー!」
「ニュニュー!」
背後から甲高い声が響いた。俺たちは同じタイミングでピョンと跳ねて、一斉に背後を振り返る。そこには、カルロの従魔である黒いコウモリがいた。
密かに背後に回り込んでいたのだろう。
「ぐぬぬぬ……」
「やはは! 大成功!」
やられた! またしても!
「どうですか? いつ回り込んだかわからなかったでしょう!」
「ああ、それは確かに……。羽音とか全く聞こえなかったな」
「キー!」
俺の言葉を聞いて、カルロのコウモリが嬉しそうに翼をパタパタさせる。なんと、このひと驚かせのために、音を立てずに地面を歩く練習をしたらしい。
「来る日も来る日も早耳猫のメンバー相手に練習を重ねました」
「キ」
「何度も怒られましたね」
「キー」
そりゃあ、無駄に驚かせてたら怒られるのは当たり前だろう。いい話風にするな!
「そして遂に! 数メートルであれば音を立てずに歩くことを可能としたのです!」
「キキー!」
カルロの下に戻り、腕にぶら下がっているコウモリも楽し気である。その姿を見ていたら、毒気を抜かれてしまった。
「俺を驚かせにきたのか?」
「いやいや! それだけでわざわざきませんよ! 実は、ダンジョン探索のお誘いにきまして」
「もしかして、水臨大樹の?」
「そうです!」
俺が関係しているかもしれないダンジョンで、俺が何を入手するか知りたいらしい。あとは、俺と一緒に入ることで、どんな変化があるかも知りたいそうだ。
俺が関係あるというよりは、神精台が関係してると思うんだけど……。ただ、アリッサさんもカルロの提案には賛成であるようだ。
「もしカルロと一緒に潜って検証してくれるなら、情報料を上乗せするわ」
「マジっすか?」
「ええ。ユート君が出現のトリガーになった可能性は高いもの」
「どうです? 俺と一緒に、いざダンジョンへ!」
「キキー!」
まあ、初めてのダンジョンにいくのに、カルロが一緒なのは心強い。報酬も貰えるなら受けない手はないだろう。
「わかった。検証に付き合うよ」
「やった!」
「キキー!」
ということで、俺はカルロと一緒にダンジョンへと向かうこととなった。
水臨大樹の周辺は、メチャクチャ混んでいた。ダンジョンの情報が出回っているからだろう。まあ、うちの畑の周辺程じゃないけどね。歩いていて、肩はぶつからないもん。
「おい、白銀さんだ!」
「遂にきたー!」
「ど、どんな大発見があるんだ……」
プレイヤーたちからメッチャ見られているが、それは仕方ない。なんせ、うちの神精台がトリガーかもしれないということは、知られているのだ。
ヒソヒソと話しているので内容は聞こえないが、悪口を言っている雰囲気ではないかな? 特殊なイベントを発生させたとなったら、嫉妬やいわれのない中傷の対象になっても、おかしくはないが……。
まあ、今のところその心配はなさそうかな? よかったよかった。
「ここから登りますよ」
「いやー、改めて見上げると、でかいよなぁ」
うちの水臨樹、まじでこのサイズになったらヤバくない? 根っこですら、家屋くらいのサイズ感なのだ。
俺はカルロの案内で、水臨大樹の根っこを登り始める。気分はクライマーだ。
「チュー!」
「キキュー!」
カルロのネズミさんと、うちのリックが木登りしながら追いかけっこをしているな。小動物同士気が合うらしい。
しかし、絶壁みたいなところで走り回ってるのを見ると、ちょっと怖くなる。まあ、町中だから落ちてもダメージはないと思うが、それがこの場所でも適用されるのか分からんし。
今回、俺たちは3体ずつモンスを連れてきている。本来1パーティ6人だが、俺がいればモンスを+2体まで連れていけるからね。
「ヤー!」
「キキー!」
「ム!」
「ウサー」
俺はファウ、オルト、リックと、補助、防御、遊撃をバランスよく連れていくつもりだ。カルロは、ネズミ、コウモリ、ウサギと、小回り重視の構成である。
少しバランス悪い気もするが、プレイヤーに合わせて難易度が変化するというし、いきなり詰むことはさすがにないだろう。
「見えました。あそこです」
「おお、ようやくか」
ちょっと登った所って聞いてたからすぐかと思ってたんだが……。多分1時間くらい登ったよな? 町が一望できる高さだ。
「少し休憩しましょうか?」
「そうだな。ここで景色見ながら、おやつでも食いたい気分だし」
「おお! それはいいですね!」