作品タイトル不明
645話 ロバーナン爺さん
一向にのんびりイベントを発見できなかった俺は、ラウンジの受付で話を聞いてみることにした。
だが、受付の女性は、首を傾げるばかりだ。
「申し訳ございません。こちらでは把握しておりません」
この人が分からないんじゃ、普通の方法では発見できないってこと?
とりあえず、ギルドをもう少し回ってみよう。チラシを見落としているのかもしれん。そう考えて数分ほどギルドを歩き回っていると、俺はある人物を発見していた。
発見というか、ずっと視界には入っていたんだけど、あまり気にしていなかったのだ。一見すると、牧場の前で座ってモンスを見守っている老人である。
ただ、何度も前を通っていて、気づいたのである。
「あのお爺さん、全く動いてないよな」
「――?」
「そこの牧場のところのお爺さん。さっきと全く同じ体勢だっただろ?」
「――!」
サクラも確かにって感じで、ポンと手を打つ。やはり俺の勘違いではないよな。
白髪白髭で顔が良く見えないお爺さんが、椅子に腰かけてパイプを燻らせている。だが、お爺さんは彫像のように一切動いていなかった。パイプの煙がなければ、本気で人形かと思うレベルだ。
あれはのんびり屋さんと言っていいのじゃなかろうか?
「よし、声をかけてみよう」
「クマ!」
俺はモンスたちを引き連れ、牧場の入り口前にいるお爺さんへと近寄っていった。すると、お爺さんの視線がこちらを向く。
「この先は牧場じゃよ?」
「いや、牧場じゃなくて、お爺さんに聞きたいことがありまして」
「ほう? 何かな?」
うーむ、渋い。パイプを片手にこちらを横目に見るお爺さんは、妙に格好よかった。もしかして、のんびり仲間じゃないのか?
まあでも話し掛けちゃったし、とりあえず尋ねてみよう。
「このギルドでのんびりイベントが開催されてるって聞いたんですけど、何かご存じないですか?」
「ほほう! なるほどのう。確かにのんびりするのが好きそうじゃね」
やっぱりこのお爺さんで正解だったか!
さらに詳しく話を聞くと、このお爺さん――ロバーナンさんがのんびりイベントの開催者で間違いなかった。まあ、盛大なイベントというよりは、お爺さんと一緒にのんびりしましょうってことらしいが。
のんびりする場所は、牧場だ。立ち入り禁止の場所に入っていいのかと思ったが、お爺さんが認めた者なら許されるらしい。
「のんびりしとるモンスターたちを驚かせてはいかんよ?」
「分かりました。お前らも気を付けるんだぞ? うるさくするなよ?」
「フマ!」
「フムム!」
アイネとルフレは特に気を付けて見ておこう。こいつら、デカいモンスとかに飛びついてよじ登ったりしかねん。
そうして牧場へと足を踏み入れた俺たちだったが、そこはパラダイスであった。流派クエストの時にもギルドの庭に入ったが、ここはあそこ以上だ。
小型から超大型まで、様々なモンスと触れ合えた。鑑定はできないんだが、座っているだけで俺の身長よりも高い狼さんとか、モフモフ過ぎてずっと抱き着いてしまったのだ。
大きなカメさんの背中に登頂したり、蛇さんの鱗をすべすべしたりと、後で思い返したら少し反省してしまうくらい、はしゃいでしまったのである。
自分でうるさくするなって言っておいて、一番騒いじゃったからね。
「フマー……」
「フムー……」
アイネとルフレからのジト目は甘んじて受け入れましょう。これ以上の醜態をさらすわけにはいかないので、俺は自重することにした。
ロバーナン爺さんの横に、以前作ったロッキングチェアを取り出して腰かける。前後に揺られながら飲むお茶は美味しいね。揺らし過ぎると紅茶が零れるけど。
牧場で遊ぶ大量のモンスたちを見ながらというのも中々おつなものだ。
すると、ロバーナン爺さんがこちらをじっと見ているのに気づいた。その視線は、俺が座るロッキングチェアに向いているようだ。
「この椅子、興味ありますか?」
「うむ。そう言った椅子があることは知っておったが、間近で見るのは初めてじゃよ」
「じゃあ、座ってみます?」
「いいのかね?」
「ええ。ちょっと待ってくださいね」
俺は新たなロッキングチェアを、インベントリから取り出した。サクラと一緒に作った、ランクも品質も高いやつだ。
そこに、アイネが作ってくれたクッションが置いてある。
「どうぞ」
「それじゃあ、失礼するよ。おぉ……これは気持ちいいねぇ」
「あと、これを膝の上にどうぞ」
俺が渡したのは、これまたアイネが作ってくれた膝掛だ。絶対に必要ってわけじゃないけど、ロッキングチェアに座る老人ときたら、膝掛はセットみたいなもんだよね。
ロッキングチェアに揺られながら、パイプを吹かす白髭の老人。ヤバイ、絵になり過ぎてて感動する!
「これはいいねぇ……」
「でしょう? よろしければ差し上げますよ」
「いやいや、これほどの物、ただでは頂けんよ。これと交換でどうじゃね?」
「これは、通行証?」
「うむ。儂の出身村の通行証じゃ。余所者は受け入れておらんのだが、お主ならよかろう」
ロバーナン爺さんは草食獣系の獣人だが、出身はビステスではなかった。特殊な村であるらしく、普通では入ることができないそうだ。
「場所は、ここよりもさらに海に近い場所じゃ。いずれ、訪ねてみるとよかろう」
「ありがとうございます」
ほとんどタダで作ったロッキングチェアが、通行証に化けたぞ! ラッキー!