作品タイトル不明
373話 東の漁村
東の漁村の中を軽く歩いてみると、すぐに第一村人を発見した。昔話に登場する浦島太郎っぽい格好をした青年である。
こういう閉鎖的な寒村だと、余所者は警戒されるっていうのがお決まりのパターンだ。
俺はできるだけ笑顔で挨拶してみることにした。笑顔はコミュニケーションの基本だからな!
「みんなも、可愛くアピールしてフレンドリーさを見せつけるんだ!」
「ム!」
「ヒム!」
敬礼出ました! うむ、みんなやる気満々ですな。頼もしい限りだ。
「こんにちはー」
「――♪」
俺が声をかけた後に、サクラが青年に向かってニッコリと微笑み、手を振った。メッチャ可愛い。これでメロメロにならない存在などいないだろう。
「モグモ♪」
ドリモさんもノリノリですわ。いつもは、背中を見せてのサムズアップというハードボイルドさんなドリモが、両手を顔の前で組んで、小首を傾げていやがる。俺の指示をきっちり守ってくれていた。
可愛い。可愛いんだよ? 違和感もなく、キュートさが爆発している。だが、何故か納得いかないのだ。
寡黙で頼りになると思っていた会社の同僚が、カラオケボックスでテンションマックスではしゃいでいるのを見たときみたいなモヤモヤ感? いや、本人が楽しそうだからいいんだけどね。
「あいよー、こんにちはー」
うむ、普通に笑顔で挨拶を返してくれた。それどころか、向こうから近寄ってくる。
「やあやあ、久しぶりの旅人さんだねー。こんな場所に、どうしたんだい?」
「バザールで、ここに漁村があると聞きまして。魚なんかが手に入らないかなーと思ってきてみたんですよ」
「なるほど!」
青年の表情は底抜けに明るく、俺に対する警戒心など微塵もなかった。これは、色々と質問しても平気かな?
「あの、何か名物でもあれば教えてほしいんですけど……。料理とか、見ておいた方がいい場所とか、ありませんか?」
「いい質問だ! この辺は色々あるよ!」
青年がまず教えてくれたのは、この村のそばにある砂浜のことだった。
「北にあるのが、遊楽の浜。南にあるのが戦士の浜だ。遊楽の浜にはモンスターが出現しないし、遊ぶにはもってこいの場所だよ」
「え? モンスターが出ないんですか?」
「そうさ! だから、遊びたい放題だよ」
完全に観光用のビーチだった。運営からプレイヤーへのプレゼントかな?
「逆に、戦士の浜はモンスターが結構出現するから、気を付けないといけない。まあ、遊楽の浜と違っていい猟場だから、村の人間は結構行ってるけどね」
どうも、遊楽の浜は完全に遊び用の浜らしく、モンスターだけではなく普通の魚等もいないらしい。
「となると、海の幸を手に入れるには戦士の浜に行かなくちゃダメってことですか?」
「あー、少し食べたいだけなら、村でも売ってるよ」
「そうなんですか!」
「うん」
青年に、村にあるお店を教えてもらう。食材店、雑貨屋、漁具店、海用品店、宿屋、貸船屋などがあるようだった。
「ありがとうございました」
「じゃあ、またねー」
青年と別れた俺たちは、さっそくお店に突撃する。
「まずは食材だ!」
「フム!」
「ペン!」
魚が好きなルフレとペルカが、期待の眼差しだ。色々な魚があると聞いたからだろう。
「おお! さすが漁村! 海の魚があるじゃないか!」
「フムー!」
「ペペーン!」
ルフレたちが歓喜の舞を踊ってしまうのもしかたあるまい。
露店には、ビギニアジ、ビギニサバ、ビギニタコ、ビギニイカが並んでいたのだ。初めての海水魚である。
「らっしゃい! どれにするかね!」
「うーむ、どれも美味しそうだが、全部は買えないな」
一番安いビギニアジでさえ、20イベトだ。
「仕方ない。じゃあ、とりあえずアジとサバを1尾ずつお願いします!」
「おうよ!」
どんな料理がいいかなー。刺身に塩焼き、煮つけにソテー。色々とやれるよなー。白米もあるし、夢が広がるぜ。
「あの、どっか料理していい場所ってないですかね?」
「料理? ははは、調理道具があるなら、そこらで構わんぜ?」
どうやら、村の中だったら問題なさそうだ。町なんかだと、道端で料理したりしてると怒られることもあるらしいからね。
「それにしても、兄ちゃん料理できるのかい? だったら、俺の分も作っちゃくれねーか? 美味く作れたら、とっておきの情報を教えてやるぜ? 報酬も払おう!」
「ほんとですか?」
「おう! 男に二言はねー!」
これは、本気を出さねばなるまい。実験はとりあえず後にして、今は最高の料理を作ろう。美味く作れたらっていうのが大分アバウトだが、最高の料理を作れば問題あるまい。
「となると……」
手が込んでいるよりは簡単な方が品質向上が見込めるだろう。でも、材料は何種類か使ってる方が豪華に見えるはずだ。それでいて火加減なんかが難しくない料理……。
「アジのお茶漬けだな!」
今の条件を満たすとなると、これしかないだろう。最初はアジのなめろうもいいかとおもったんだけど、しょうがもネギ類もないから諦めた。
俺は早速料理に取りかかる。
まあ、調理は簡単だけどね。アジを捌き、身は切って、骨は出汁取りに使う。あとは白米の上にアジの切り身を乗せて、出汁をかけて、刻み海苔を散らせば完成だ。
「いいできなんじゃないか?」
料理方法が単純なおかげで、品質も高い。
「ほほう、美味そうだな! じゃあ、いただきます!」
魚屋の大将にアジ出汁茶漬けを渡すと、さっそくかきこみ始めた。
「モグモグ……うむ! 美味い! こいつは最高だ!」
よかった。口にあったようだ。大将は美味い美味いと叫びながら、あっと言う間にアジ出汁茶漬けを完食してしまったのであった。
「ふー、満足だぁ」
「それは良かったです」
「こりゃあ、報酬を教えない訳にはいかないな! 兄ちゃん、魚がもっとほしいんだろ?」
「はい、そうなんですよ」
「だったら、良いことを教えてやる。うちで売ってる魚は、この辺の海で獲れるもんだ。戦士の浜で釣り糸を垂れれば、釣れるだろう」
「なるほど」
「だがな! それじゃあ、大した量は手に入らねぇ。浜から狙ったんじゃ、少ししか釣れないからな。だから、船だ」
「ははぁ。貸船屋さんで借りろってことですか」
「その通りだ。良いポイントに当たれば、入れ食いもあり得るぜ?」
確かにいい情報だった。正直、魔獣が怖すぎて自分たちだけで船を出すというのは勇気がいる。しかし、食材ゲットのためならば、チャレンジするのも悪くはないのだ。
「船か……」