軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話 祭壇の話

橋の下からコッソリと這い出た俺は、ダッシュで南の小広場に向かった。

その甲斐あってか、アリッサさんの万屋はまだ開いていた。俺は、早速アリッサさんに声をかけ、手に入れたばかりの果実を取り出す。

「こんばんは」

「あれ、いらっしゃい。どしたの? もしかして何か凄い情報仕入れたとか? なーんてね」

「いや、情報というか何というか……。とりあえず。こいつを見てほしいんですけど」

「ほほう」

アリッサさんは目を丸くして、俺が差し出した水臨樹の果実を見ている。猫の獣人だけあって瞳孔が縦長で、その眼は本当に猫みたいだ。

「この時期にどうやって手に入れたの?」

「この時期に? じゃあ、時期が合えば、簡単に手に入るんですか?」

「毎年4月になると、水臨樹は実をつけるのよ。それをNPCが収穫してるらしくて、その時期になると短い間だけ『熟した水臨樹の果実』っていうアイテムがNPCショップに並ぶわ。βテストの時3月~4月の設定だったから私も見たことがあるわね。1つ3000Gだったかな。レア度3のアイテムとしては安いほうなんじゃない?」

「という事は、レア度3と言っても、その内買えるってことですか? しかも結構お手頃に」

「そうなるかな」

「じゃあ、これはそれほど凄いアイテムじゃないってことか」

がっかりだ。がっかりだよ精霊様! これだったら、高級肥料の方が良かった。

「あ、でもね。それは単なる水臨樹の果実でしょ? それは見たことないわ。基本的に、ショップに並ぶのは熟した果実だから。落ちてきた実を自力採取したプレイヤーもいたけど、彼らが手に入れたのも熟した果実だったわ」

「どっちでも変わらないでしょ。むしろ、熟してる方が効果も高いんだし」

「直接食したり、薬の材料にする分にはね。でも、あなたにとっては、熟してない方が良いかもよ?」

「どういうことです?」

「熟した果実は苗にできないのよ」

なるほどそうだったのか。さすがアリッサさん。俺の好みを分かっていらっしゃる。

「だったら、こいつは畑に植えられる……?」

「ごめん、分からないわ。熟してない物は初めて見たし、水臨樹が畑に植えられるかどうかもわからない」

「いえ、それでもいいです。試してみますから」

「植えられたら教えてね」

「はい。それじゃあ――」

「待ちなさい」

畑に向かおうとした俺を、アリッサさんが呼び止めた。フレンド登録をしたおかげで、プレイヤー同士でも簡単な接触ができるようになったみたいだ。アリッサさんが後ろから俺の腕をガシッと掴んでいる。

「なんです?」

「何です? じゃないの。とぼけた顔しちゃって」

おかしいな、俺のアバターは結構美形なはずなんだけど。内面からにじみ出てしまっているということか?

「すいません。完全に忘れてました」

「それ、どこで手に入れたか、知りたいんだけど。まあ、さっきのアナウンスと結び付ければ想像もつくけど。それとも、教えたくない?」

「いえ、そういう訳じゃないです」

「じゃあ、教えて! 今すぐ!」

「近い近い!」

アリッサさんが、ズイと顔を近づけて、凄んだ。新規情報を知りたがっている時のアリッサさん、とても怖いです。

「地下の祭壇で、精霊様に貰ったんですよ」

「もっと詳しく!」

やっぱりアリッサさんは知らないみたいだ。さっきアナウンスも流れたし、本当に俺しか発見できていないみたいだな。

隠蔽されていると言っても、橋の下に入り込めば扉も見えるし、鍵だってゴミ拾いのクエストを受ければ手に入るんだけどな。

俺が扉の先に辿り着くまでのことを語って聞かせると、アリッサさんは心底驚いた顔をしている。

「その祭壇は、4月の最初の木曜日にだけ、冒険者ギルドの地下から入ることができるのよ。しかも、入ることができる人間の条件はよく分かってないの。条件を満たした人間には、その日にだけ、『樹精霊の招待』っていうスキルが与えられて、それを持ってる人だけが祭壇に入れるらしいわ」

何ともあやふやな話だ。ただ、あの祭壇に好きに行けるのはかなり凄いことだっていうのは分かった。

「俺が扉の第一発見者ですかね?」

「たぶんそうよ。不殺の称号と言い、ユート君本当に凄いわね。このゲームの神様に愛されてるんじゃない?」

「そんなことないと思いますよ」

本当に愛されてたら、今頃は超絶強いモンスとともに、攻略最前線にいるだろう。

「ねえ、この情報売ってくれるんでしょ?」

「だってもう話しちゃったじゃないですか」

「私たちのポリシーとして、対価を払っていない情報は売らないの。ここであなたが売りたくないと言えば、しばらくは私の胸にしまっておくわ」

「いえ、そのために来ましたし」

「いくつか確認したいことがあるのよね。次の木曜日に、私を連れて祭壇に行ける?」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ、前金で1000G、祭壇に連れて行ってくれたら4000G出すわ。どう?」

「いやいや、十分ですよ。そんなに貰っていいんですか?」

「なら、取引成立ね。直接攻略には関わらないけど、かなり面白そうなイベントだし。他の人でも祭壇に行けるとなったらかなりの騒ぎになるわよ?」

確かに、俺だって他の人の立場だったらお金を払ってでも行ってみたいかもしれない。

「あと、こんな物もあるんですけど」

情報の裏付けになればと思って撮っておいた動画も見せる。

「精霊の動画?」

「はい、一応撮っておいたんですけど」

「はー、凄いわね……。これ公開するの?」

「どうしましょう? 正直掲示板は読専なんで、公開と言われても……」

こういう動画や情報を掲示板などにアップせずにいて、情報の秘匿だと吊し上げられたりする話をよく聞く。

そう考えると公開した方が良いんだろうけどさ。俺ってば掲示板は見るだけで、書き込みとかはしたことないんだよね。LJOにはプレイヤーだけが利用できるゲーム内掲示板があるが、それでもハードルが高い。

「じゃあ、それ私に預けない? うちのページでアップしてあげるよ?」

「良いんですか?」

「うん。そもそも、それも早耳猫の目的だから。色々な事情でプレイヤーに秘匿されている情報を集めて、大勢のプレイヤーに開示する。中にはユート君みたいに、自分の欲の為じゃなくて、面倒くさいとか、掲示板に不案内とかの理由で情報を公開できてないプレイヤーもいるし」

つまり、新たな情報を早耳猫に持ち込む→買ってもらえる→その後早耳猫が情報を公開する→売った側は面倒なアップ作業をしなくて済む。

そういう流れか。便利だな。

「ぜひお願いします」

「じゃあ、動画は1000Gね」

「え? だってもう1000G貰ってますよ?」

「これだけ見ごたえのある動画だしね。それにうちのページの宣伝にもなるし。ただでは受け取れません」

まあ、この動画を見に来る人が早耳猫のページをついでに見ていくだろうし。確かに多少の宣伝効果はあるのか? もともとタダと思っていた情報だから凄い有り難い。

「そういうことなら、いただきます」

「うん。あと称号の情報も欲しいな~。大樹の精霊の加護? 気になるわー」

「まあ、いいですけど」

「毎度あり! じゃあ、1000Gね」

「はい。ただ、これで終わりじゃないんですけど」

「……」

「なんですかその眼は」

「いや、もう何を聞いても驚かないわよ? 何?」

「これなんですけど。分かります? 場合によっては情報を買います」

俺は称号の報酬で貰った火結晶、水結晶、土結晶、風結晶をアリッサさんに見せてみた。すると、アリッサさんが目を見開いて驚いている。

「これって……属性結晶じゃない! ど、どうしたの?」

「なんか祭壇の解放ボーナスってことで貰いました」

「こ、これってば凄いわよ。第3エリアでも激レア。βでもほとんど産出しなかったし。土結晶はノームのレアドロップだけど、他の存在は初めて見たわ」

「まじっすか?」

「うん。これ、売る気はある? 1つにつき30000G出すわ」

「え? ジョーク?」

「本気よ」

「え~」

全部売ったら12万? それだけあったら何でもできるぞ。いや、でもな。それだけレアなアイテムってことは、他に利用価値もあるかもしれんし。売るのはいつでもできるだろう。今のところはとっておこうかな。

「いえ、とりあえず売る気はありません」

「残念ね。でも、売る気になったらぜひうちでお願いね」

「その時は勿論。で、結晶の情報料は?」

「いらないわ。不殺の称号でも大分儲けさせてもらったし」

「え? あの称号の情報、もう売ってるんですか? まだ検証は終わってないんでしょ?」

「そうなんだけど、検証を待ってたら4日後よ? それじゃ遅いのよ。ほとんどの人がキャラ再作成できないくらい進んじゃうもの」

それはそうか。俺が手に入れたのが4日目。検証にはさらに4日かかる訳だから。合計で8日だ。ゲーム内で8日あったら皆それなりに進んでしまう。キャラ再作成へのハードルは上がるだろう。

「ちゃんと未検証だって伝えてから売ってるわ。前金で1000G、ちゃんと取得できたら後払いで3000G貰うことにしてるし」

「でも、再作成して新しいアバターになったら、誰が誰だか分からなくなっちゃうんじゃ?」

「再作成してもIDは変わらないから大丈夫よ。未払いの奴にはどんなことをしてでも支払わせるから……くふふふ」

俺はそう言って笑うアリッサさんを見て、この人には逆らうまいと固く決意するのだった。