軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

267話 スコーンと英国人

品評会が始まると、皆にハーブティーが配られる。最初はアスカのハーブティーからだ。 ただ、数が足りないな。5人分くらいしかないんだけど。しかし、足りない人にはもう1人の主催者であるウサミのハーブティーが配られた。

毎回全員分用意するのは難しいし、厳密に順位を決める訳でもないので、これで充分であるそうだ。

「興味があるなら他の人と交換もできるよ!」

「ああ、大丈夫だ」

因みに、モンスたちは俺の後ろで並んでいる。いつもなら他のプレイヤーが遊んでくれるんだけど、今日は皆が目くばせをしあいながら遠目から見ているだけで、積極的に声をかけてくることはなかった。品評会だし、皆がモンスよりもハーブティーに興味があるってことなのだろう。さすが料理プレイヤーが揃っているだけあるな。

さらにウサミ特製というお茶菓子が配られた。なんとウサミは料理の中でもお菓子を専門に作るプレイヤーだそうだ。この品評会も、ウサミの発案であるらしい。

そんなウサミが作ってきたのはスコーンだった。プレーンと胡桃入りがあるようで、香ばしい香りが食欲を誘う。さらに、果物を使ったデザートピザなどもあった。

「スコーンか、美味しそうだな」

「ご賞味あれだよ!」

「いただきます――うま! なんだこれ!」

メチャクチャ美味い。ウサミ特製のフルーツジャムを付けて食べたら、いくつでも食べられるだろう。

「あんがと!」

「どうやって作るんだ?」

「第7エリアで手に入るベーキング粉があれば簡単だよ」

「第7エリア? それって、けっこう貴重品なんじゃないか? 随分気合い入れたな」

俺にとったらかなり先のアイテムだ。

「やっぱ英国人ですから、スコーンに手は抜けないよ! まあ、手抜きする方が美味しいって言われてるけど! 実際、食用草の粉とベーキング粉とバターを混ぜて焼くだけだしね。あと気を付けるのは火加減くらいかな」

英国人? スコーンの作り方よりも、そっちの方が気になるんだけど? 単に、イギリスかぶれってことか? だが、そうではなかった。

「日本在住10年目の、モノホンのスコットランド人でーす!」

「ええ? でもLJOの初回ロットって、日本限定じゃなかったっけ?」

「まあ、日本在住だったら問題なく買えるからね~。意外と外国籍のプレイヤーは多いんだよ?」

そりゃそうか。初回ロットは日本で限定販売、日本サーバーのみというだけで、外国人がプレイしてはいけないという訳ではない。

「やっぱ日本在住の人にはゲーム好きも多いしね。ただ、アバターがそもそも西洋風だから見た目や名前じゃ中々見分け付かないんだよ。翻訳ソフトも優秀だから、少し話したくらいじゃ気付かないもん。あ、私は翻訳ソフト使ってないよ?」

ウサミの言う通り、見た目やネームじゃ外国人かどうかわからないだろう。しかもウサミレベルで日本語堪能だったら、言われないと気付かないかもしれない。

むしろウサミのアバターは純和風だ。黒髪ロングに黒目で、西洋感はエルフであるという部分にしか感じない。

「このお茶会にも、私以外に外国人プレイヤーはいるよ」

「え? そうなの?」

「うん。料理プレイヤーの中には、母国の味を再現したいっていうプレイヤーも多いから。あそこの2人がそうだね。紹介するよ」

ウサミが紹介してくれたのはドワーフの男性プレイヤーと、金髪白猫獣人の女性プレイヤーだった。

「冬将軍ダ」

「ブランシュです」

ドワーフの冬将軍がロシア人。獣人のブランシュが韓国人だそうだ。

話してみると2人とも日本語堪能で、意思疎通も全く問題がない。冬将軍の方はイントネーションが少し変な時もあるけど、昔旅行にいった青森の民宿のおばあちゃんよりは数段ましである。

「キャラネームは日本語なんだな」

確かハングルとかロシア語も選べたはずだけど。それでも翻訳字幕が出るので、問題はないはずだ。

「せっかク日本でゲームやるんダ。ほら、あれダ。ナんだっけブランシュ?」

「郷に入っては郷に従え?」

「そう! そレ!」

「あと、外国人だと分かると、色々と言われることもありますから」

「あー……」

やっぱそういうこともあるのか。ただ、最近はほとんどなくなってきたそうだ。何せこのゲームはお馬鹿さんに厳しい。差別的発言をしたやつのほとんどが運営から罰則を与えられて大人しくなったという。

「それに、日本人の友人もたくさんできましたしね」

「オタク仲間が増えたのは嬉しいナ」

結局、日本人だ外国人だということではなく、個人を見ろってことなんだろう。

「唐辛子を発見したら是非ご一報を」

「俺はスビョークラ! いや、日本ではビーツだったカ? 是非見つけてくレ! 白銀サンならなんとかなル!」

唐辛子は探せばありそうだけど、ビーツはどうだろう? ボルシチに使う野菜のことだろ? でも本場の人が作る韓国料理やロシア料理は凄い興味があるし、いつか食べさせてもらいたいものだ。

「見つけたら絶対に教えるよ」

「ぜひぜひ」

「頼んダ!」

俺はブランシュたちと会話しながら、ウサミのピザにも手を伸ばす。ウサミ的には自信作だそうだ。

「確かに美味いな」

俺も作ったことがあるけど、それよりも大分美味しい。単純にスキルレベルの差なのかと思っていたらウサミが丁寧に作り方を説明してくれた。

「品質の高い素材を使ってるっていうのもあるけど、ハーブも使ってるから」

隠し味にハーブを色々と入れているという。なるほど、隠し味か。俺が使う時は、ハーブをメインにしちゃってるが、隠し味的に使うことはあまりない。リアルのレシピで入れる場合は使うけど、それも自分で考えて工夫してるわけじゃないしね。

「味がすっごい変化する訳じゃないんだけど、明らかに美味しく感じるんだ~」

「だから隠し味ってことか」

「うん。色々試してるんだよ」

俺も今後は色々と試してみないとな。これが知れただけでも、ここに来た甲斐があったというものだ。

さて、俺が作ってきたお茶菓子とかはどうしよう。先に出した方がいいのかな?

「なあ、ウサミ」

「はいはい?」

「俺もお茶菓子持ってきてるんだけど、出した方がいいか?」

「え? 白銀さんのお茶菓子?」

俺がウサミに聞いた瞬間、冬将軍やブランシュ、さらにその周辺にいたプレイヤーたちまでもが立ち上がり、俺を凝視している。

「ま、まじ?」

「食べたい!」

「ぜ、全員分有ります?」

ウサミが周囲を軽く見回しつつ、メッチャ真剣に問いかけてきた。

「あ、ああ。少し多めに準備して来たから」

「ホッ。そうですか。よ、よかった、暴動にならずに済む……」

「うん?」

「いえいえ、何でもないんです」