軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257話 お前が彼を嫌いなように、俺はお前が嫌いだ

ダンジョンから脱出すると、入り口の前に20人ほどの人だかりができていた。もうこんなに増えて来たのか。だが、試練に入るための順番待ちなのかと思ったら、そんな感じでもない。

「おまえ気持ち悪いんだよ!」

「そ、そんな、酷い……」

どうもプレイヤー同士が言い争いをしているらしい。いや、片方のプレイヤーが一方的に罵声を浴びせられている感じだな。

周囲のプレイヤーたちは止めに入ったりはしない。面倒ごとに関わり合いになりたくない者がほとんどなのだろう。それ以外にも、どうやら怒鳴っている男性の方を応援している雰囲気のプレイヤーもいる。

「男のクセにそんなかっこうしやがってよ!」

「うぅ……」

なじられて、涙目で震えているプレイヤーの方には見覚えがあった。まるで少女のように見える男の娘ネクロマンサーのクリスだ。

「しかも連れてるモンスターどもも気持ちわりぃし! 目障りだからどっかいけよ!」

「で、でも……」

この声には、周囲のプレイヤーからいくつか賛同の声が上がっている。まあ、クリスのモンスターはアンデッドだからな。気持ちは分からなくもないが……。

「俺の邪魔しやがって! このオカマ野郎!」

「ご、ごめんなさい……」

「ああ? 聞こえねぇよ! とりあえずそのキモイやつら仕舞えよ」

クリスは困った奴だとは思うけど、あの男も言い過ぎじゃないか? いや、それだけ不快な思いをしたのか? でも、クリスはもう泣いてるし、許してやってもいいと思うが……。

「あの、何があったんですか?」

とりあえず何があったのか知りたくて、一番近くにいた野次馬に声をかけてみた。

「え? あ、白銀さん?」

「まあ、そう呼ばれてます」

「えっとですね、あのネクロマンサーの子……男ですけど。あいつが、野良パーティを募集してたんですよ」

なるほど。ダンジョンの前だし、そのこと自体は珍しい話じゃないよな?

「で、最初は普通に声上げてただけなんですけど、誰も相手にしなくて」

「なるほど」

「で、このままだとヤバいと思ったのか、ダンジョンに挑戦しに来たプレイヤーに積極的に話かけはじめたんですね」

「それも、別にマナー違反じゃないよな?」

「そうなんですけどね……。ほら、あれでしょ? 色々と生理的に受け付けないやつもいる訳ですよ」

「ああ……」

その結果、声をかけた相手に怒鳴られているというわけか? だが、そうではないらしい。

「あの怒鳴ってるやつは、隣で野良パーティを募集してたみたいなんですけど、あのネクロマンサーのせいで人が逃げちゃって、パーティが組めなかったらしくて」

「それって、言いがかりじゃなくて?」

「どうなんですかね~。まあ、影響はゼロではなかったと思いますけど。それで、あの男がアンデッド嫌いだったらしくて、あのネクロマンサーに怒り始めたんですよ」

うーん、どっちが悪いのだろうか? 嫌がる人もいるはずのアンデッドを連れて、他のプレイヤーに話しかけたクリスのマナーも良いとは言い難い。

だが、怒鳴っている男に対して、微妙に嫌悪感というか、ムカつきを覚えているのも確かだ。可愛らしい外見のクリスを虐めているように見えるだけじゃないぞ?

俺とはちょっと趣味が合わないけど、クリスがアンデッドを好きで、可愛がっているのは間違いないと思う。そんなアンデッドたちをキモイとか言われているのを聞いて考えてしまったのだ。

もし俺が見ず知らずの相手に、オルトやサクラがキモイとかダサイと言われたら? ムカつくだろうし、悲しくなるだろう。そして怒りを覚えるに違いない。

外見的なことに関してだって、そこまで嫌悪する意味が分からん。男がスカート履いたって別にいいじゃないか。いや、俺は履こうとは思わないし、そう言う人と積極的に仲良くなろうとは思わないよ? でも、そこら辺は自由じゃないか? むしろ似合っているわけだし、アレはアレで有りじゃなかろうか?

何が言いたいのかというと、ああやって怒鳴られている姿を見て同情してしまったのだ。

あと、称号の事で周りのプレイヤーに馬鹿にされていた時期のことを思い出して、共感もしてしまっていた。上から目線でクリスを罵る男と、せせら笑いをあげる一部の野次馬たちが、当時俺を嘲笑していたプレイヤーたちに重なってしまう。

「うーん」

どうしよう。偽善というか、おせっかいなのは分かるけど、助けてやりたい。いいじゃないか、ゲームの中でくらい恰好つけたって。助ける相手が美少女だったら言うことなかったんだけどね。ただ、どうやって助けよう。下手に声をかけたら、火に油を注ぐだけだと思うし……。

「まあ、そこらへんにしておきたまへ」

「ああ?」

「そうだぜ? このカワイ子ちゃんにも色々と反省する部分はあったかもしれないが、あんたも言い過ぎだ。少し目に余るな」

ありゃ、先を越されてしまったらしい。俺がいる場所とは反対側から野次馬の壁を割って現れたのは、見覚えのある2人だった。

「ジークフリードとスケガワじゃないか」

ジークフリードは分かる。こういうのを見過ごせないタイプだ。だがスケガワは? いや、悪い奴ではないけど、あんなこと言うタイプだったっけ? カワイ子ちゃんとか言ってたから、もしかしたらクリスを女の子と勘違いしてるのかもしれない。顔もメッチャ決め顔だしな。

「クリスくんは泣いているではないか」

「そうそう。もういいだろ?」

だが、2人に多少止められた程度では、頭に血が上った男が止まることはなかった。

「いきなりなんだよお前ら。だいたい、泣いたくらいで許されるかよ。女装した上に、キモイモンスター連れやがって! 反省が足りないんだよ!」

その言葉に俺はカチンと来てしまった。許すとか反省とか、何様だ? クリスが悪事を働いたわけでもないだろう。なんでこいつに許しを請わなきゃいけないんだ?

ハッキリと理解した。こいつがクリスを嫌いなように、俺はこいつが嫌いだ。そのせいだろうか。俺はつい反射的に、口を開いてしまっていた。

「そこは個人の趣味だろ?」

やべ、ちょうど静かだったせいで、結構声が響いてしまった。周囲の視線が俺に集まる。男もこっちを睨んでいるし!

ただ、俺の一言が呼び水となったのか、他の野次馬たちも口々に意見を言い始めた。ほとんどが男を否定する意見だな。俺と同じ様に、男に対して嫌悪感を抱いていたプレイヤーも多かったのだろう。

「ゲームの中でまで他人を見下すような発言するなよ、冷めるだろ。だいたいキモイのはお前のその俺様発言だっつーの」

「ファンタジーの世界なんだし、開始前からアンデッドがいるの分かってただろ? 苦手なら事前にきっちりフィルターをかけるのが本当のマナーってもんだ」

「正当なジョブとしてネクロマンサーがあって、システム上連れ歩いていいとされているんだからグダグダ言うなよ」

男も、自分が非難されていると分かったのだろう。さすがにこの人数に睨みつけられ、顔色を失っている。

「は、はあ? なんで俺が……わ、悪いのはキモイこいつだろ! な? お前らもそう思うだろ!」

「……」

「くそっ!」

何とか反論しようとするも、もう男に味方するプレイヤーはいなかった。男と一緒にクリスを馬鹿にしていたプレイヤーたちは、今では男を非難する側だ。結局男は這う這うの体で逃げ出し、騒ぎは終息したのであった。

クリスとジークフリードたちがなにやら話している。そして、その視線がこちらに向いた。クリスとジークフリードの満面の笑みに、嫌な予感しかしないんだが……。だが、最後の一押しとは言え、一応関わってしまった。逃げる訳にもいかないだろう。

俺は近寄って来るジークフリードたちに、引きつった笑いを向ける事しかできなかった。