軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

234話 茶釜と爆弾

始まりの町の畑に戻る途中なんだが、1つ思ったことがある。それは、第3エリアにある、東西南北それぞれの町を全然探索していないということだ。今のところ、ほぼ通り抜けているだけだからね。東の町は、毎朝畑仕事をしに行ってはいるが、畑の周辺以外は詳しくは知らない。

一応、アリッサさんからもらった町の地図もあるけど、実際見て歩いた訳じゃない。できれば一度、第2陣のプレイヤーで混み合ってしまう前に自分の足で散策してみたいと思ったのだった。粘土や珪砂を探すという名目もあるし、実験が終わったら行ってみようかな。

そんなことを考えながら納屋の前に戻ってくると、その前で蹲っている人影があった。誰だ? フレンドの誰かだと思うけど……。

近づいてみると、どうやらチャガマと遊んでいるらしい。喉を撫でられたチャガマが、気持ちよさげに目を細め、地面にダラーンと寝っ転がっているのが見えた。

「ポコ~」

「くくく、ここがいいのかしら?」

「ポ、ポコッ!」

「こっちはどう?」

「ポン」

「くくく、良い表情ね……」

爆弾魔のリキューだった。さっそくうちの子たちと触れ合いにきたらしい。言葉だけ聞くと非常に怪しいが。

「リキュー、来てたのか」

「くく、お帰りなさい白銀さん。火霊門かしら?」

「よくわかるな」

「南の森を突破しようとしてたし、今日は火の日だもの。少し考えれば分かるわ。くくく」

「ああ、なるほど」

俺と会話をしながら、リキューはチャガマを撫で続けている。長い前髪の間からのぞく目は、喜色に満ちている。

「チャガマが気に入ったのか?」

「この子、チャガマって言うのね」

「いや、分福茶釜って言う妖怪なんだが、ちょっと呼びにくいだろ? だから俺がチャガマって呼んでるだけだ」

「妖怪? NPCってことは、テイムしているわけじゃないの?」

「ああ――」

俺はチャガマを手に入れた経緯をリキューに説明した。その前に早耳猫の掲示板を確認したらもう情報が一般公開されていたので、問題はないだろう。

「そ、そんなことが……。人混みなんて絶対無理だから行かなかったけど……。次のオークションは絶対に行かなくちゃ」

「頑張ってくれ。でも、妖怪なら探せば他にもいるかもしれないぞ? スネコスリとか」

「ダメよ。茶釜じゃないと!」

「え? タヌキが好きなの?」

「くくく……。チャガマ……平蜘蛛……」

「ああ。そういう」

自爆弾正さんね。千利休だけではなく、松永久秀リスペクトでもあったらしい。メッチャお似合いだけどさ。

「おいおい、チャガマに火薬詰めて自爆兵器をつくったりするつもりじゃないだろうな?」

「くく。大丈夫よ。それは妖怪じゃない茶釜で試すから。くくくくく」

「……ポコー」

リキューを見上げるチャガマの表情が曇っている。自らをサワサワと撫でながら含み笑いを漏らすリキューに怯えているらしいな。チャガマのためにも話を変えなくては。な、何か興味を引きそうな話題はないか?

「あー……そうだ! リキューにおすそ分けがあったんだ!」

「おすそ分け?」

「そうそう。これなんだが」

「これは! 番茶じゃない!」

良かった、やはり食いついたか。俺がインベントリから取り出した番茶を見た瞬間、リキューが素早い動きで立ち上がった。そして、俺の差し出した湯呑を手に取り、見つめている。

その隙にチャガマがササッと逃げていったな。撫でられている時はあんなに気持ちよさげだったのに、茶釜爆弾の話が余程恐ろしかったらしい。もしかして自分が爆弾にされるとでも思ったのだろうか?

ただ、それに気付かない程、リキューの視線は番茶に釘付けだった。

「こ、これ、頂いてもいいのかしら?」

「ああ、どうぞ」

「では……ズズ」

たかが番茶に大げさなとは言うまい。俺だって、最初にゲームの中でお茶を飲んだ時には嬉しかったからな。

「くくくく! 緑茶だわ!」

「喜んでくれたみたいで良かったよ」

「ど、どこで手に入れたの?」

「それはチャガマが出してくれたんだよ」

チャガマにハーブティーを供えると、代わりに出してもらえると説明する。あ、そう言えばこの情報はまだアリッサさんに売ってなかったかも? まあ、リキューに口止めしておけばいいか。

「くくく。誰にも言わないわ。これでも口は堅い方なの。ねえ白銀さん、お茶は販売できる程はないのよね?」

「あ、ああ。すまんが」

「くくく。了解したわ……。でも、そう……オークションね。爆弾を大量に売りさばいてお金を貯めなきゃ。それに平蜘蛛用の茶釜も手に入れたいわね」

ああ、茶釜を利用した爆弾は平蜘蛛って名付けるつもりなのね。それと、なにがなんでも次回のオークションで茶釜を手に入れるつもりであるらしい。

「くくく。これはとっとと火霊門に行かなくちゃ。絶対にいい素材があるはずだもの」

「火結晶は持ってるのか?」

「くく、大丈夫よ。爆弾の素材になるから、いくつか確保してあるの」

あの高価な火結晶を爆弾の素材にするのか? さ、さすが爆弾魔。でも、威力はきっと凄まじいんだろうな。

「でも、どうして火霊門に行かなかったんだ?」

自分で言った通り、爆弾素材があると確信しているなら、もっと早く行けばよかったのに。

「くくく……人混みが怖いからよ」

「ああ、なーる」

確かに早く行き過ぎるとプレイヤーの数も多いか。俺みたいなスタートダッシュタイプの人で混雑してたしな。

「白銀さんは火霊の試練に行ってきたのよね? 何か爆弾に使えそうな素材はあったかしら? くくく」

「えーっと……見せた方が早いな」

俺は火霊の試練で手に入れた素材を全てリキューに見せてみた。それほど多くはないけどね。だが、リキューは目を輝かせているな。

「凄いわね……。火属性のアイテムばかり。くくく」

「あと、これとかどうだ? 木実弾で使用すると、小さく爆発するんだよ」

「発泡樹の実? へえ。それは良いことを聞いたわ。くくく、良い爆弾が作れそう」

リキューの表情が完全にマッドサイエンティストだ。髪の間からのぞく、見開かれた目が怖い。

「じゃあ、早速行ってみるわね。情報、感謝するわ。くくく」

「いや、リキューの爆弾には助けられたからな」

ただでもらった爆弾であっさりとフィールドボスを倒せたんだし、このくらいは大したことじゃない。そう思ってたんだけどね。

「くくく。じゃあ、これはお茶の代金と情報料の代わりよ」

「え? いやいや、大した情報じゃなかったし」

「くくく。そんなことないわ。お茶は素晴らしかったもの」

「いや、でもこれって」

「私の最高傑作よ。じゃ」

「あ、ちょっとリキュー?」

「くくくくくく――」

行ってしまった。俺に黒光りする爆弾を押し付けて。

しかも前に貰った爆弾とは形状も名前も微妙に違うな。その名も小型火炎爆弾・リキュースペシャル改。

「改の字が怖すぎるんだが」

通常タイプでさえ爆発に巻き込まれそうになってビビったのに、改良版はどれほどの威力なのか……。というか、通常版でさえまだ1つ余ってるんだぞ。

「まあ、いざという時の切り札だな」