軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219話 リキュー

「この路地だと思うんだけど……」

待ち合わせ相手の顔も格好も、種族も何も知らないことに気付いたのは、ソーヤ君に指示された路地のすぐそばにまで移動してしまった後であった。

「やべー、どの人か分かるかな?」

指定の路地に入ってみる。左右を家屋と壁に挟まれた、薄暗く細い路地だった。ゲームを始めたばかりの頃にやったマップ作製クエストの時にも思ったが、ここだけなんか雰囲気が違うんだよな。

前から歩いて来るNPCが盗賊ギルドの構成員でしたとか、そういう展開でも不思議はなさそうだ。

「フムー?」

俺の腕にしがみ付いているルフレは、興味深げに周囲を見回している。こういった場所は初めて来るからな。珍しいんだろう。

そんな路地をしばらく進むと、前方に人影が見えた。灰色の外套を頭から被った、メチャクチャ怪しい人物だ。

「あれがリキューか?」

「フムー?」

ここからでは外套の人物が男か女かも分からない。ただ、かなり背が高いので、多分男性だろう。

そう思って近づいたんだが――。

「くくく……来たわね。白銀さん」

「ええ?」

なんと灰色の外套の向こうから聞こえて来た声は、ややハスキーだが紛れもなく女性の物であった。

「初めまして……リキューよ。くく」

そう言って、女性が被っていた布を脱ぎ去る。その下から現れたのは、長身のクール系の美女であった。身長は一七〇センチを超えているだろう。

赤紫のロングヘアは、前も後ろも長い。後ろは腰下まであるだろう。前も、顔の上半分を覆い隠してしまう程長かった。

右目だけが髪の間からのぞいているが、金の瞳が非常に印象的だ。どうやら蛇の獣人らしく、瞳孔が爬虫類のように縦に長い。

身に着けているのは、肩を大きく出すような和服風のローブだ。なんと言えば良いのだろう。花魁風の巫女服? 色合いも白と赤で、まさに巫女っぽさも感じさせた。それだけだと神官系の職業なのかとも思うが、背中には槍に似た長物を背負っていた。

この女性が本当に爆弾製造で有名なプレイヤーなのか? 錬金術師には全く見えんが……。

「もう知ってるみたいだけど、テイマーのユートだ。白銀さんて呼ばれてるらしい」

「よろしく……くく」

い、いちいち含み笑いをしなくちゃ喋れんのかこの女……。ソーヤ君に注意されたから覚悟はしてたけど、想像以上にキャラクターが濃かった!

「え、えーっと、爆弾を作ってるって聞いたんだが……」

「ええ。作ってるわよ……くく」

間違いなかったらしい。ということは、この含み笑いのぶっ飛び女性プレイヤーが、爆弾作りのトップって事? そりゃあ、爆弾魔ってよばれるだろう。PK有りのゲームだったら、確実に警戒して近づかないな。どう見ても不審人物だ。

「あー、時間がない中、わざわざ会ってもらって悪いな」

「くくく。いいのよ。一度会って、お礼を言いたかったから」

「お礼?」

「私はお茶が大好きなの」

「はあ」

いきなり何の話だ? でもお茶か。さすがリキューっていう名前なだけあるな。

「くくく。名前も、本名をもじってるだけじゃなくて、千利休からも取っているのよ?」

なんと、本当にリキューリスペクトだったらしい。

「だけど、さすがにゲームの中で飲むのは諦めていたわ。でも、あなたがハーブティーの製法を広めてくれた」

え? ハーブティーの製法って、俺が広めたことになってるの? あれって確か、ハーブの栽培セットが発見されて、どうせ数日でハーブの情報が出回っちゃうだろうって思ったから、タゴサックたちに色々と情報を開示しただけなんだけど。

むしろ掲示板に書き込んだタゴサックや、ハーブティー栽培セットを発見したプレイヤーの功績じゃね? ハーブティーの茶葉を無人販売所で販売したから、ハーブティーの存在を広めるのには一役買ってはいるだろう。だから、発見者的な扱いをされるのは仕方ないかもしれんけど……。

「それに、ハーブティーでいいのか? リキューの言ってるお茶って、お抹茶的な物じゃないのか?」

「まあ、お茶はお茶だし?」

首を傾げつつ、アバウトな回答を返してくれた。そこはあまりこだわらないって事らしい。俺もそうだが、お茶を飲む気分が味わえるのが重要ってことなんだろう。

「ありがとう。おかげで、好きなだけお茶が飲めるわ……くく」

「あ、ああ」

「時間もないし、商談に移りましょうか?」

おっと、リキューはもうログアウトしなきゃいけないんだったな。リキューの濃さに圧倒されて、すっかり忘れていた。

「そうだった。爆弾をいくつか売ってもらいたいんだが」

「くく、ソーヤ君からだいたいの話は聞いてる。これがあれば、問題ないはず」

「え? あ、どうも」

リキューが手渡してきたのは小さい金属製の球だった。黒光りするそれは、一見すると砲丸投げの球のようにも見える。

リキューは球を次々と取り出すと、俺に渡そうとしてきた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

俺は慌ててそれらを受け取って、インベントリに仕舞う。すると、それがなんなのか判別できた。小型火炎爆弾・リキュースペシャルという名前が付いていたのだ。オリジナルレシピで製作した爆弾であるらしい。

「や、やっぱり爆弾だったのか」

「くくく……これが欲しかったのでしょう?」

そりゃそうだが、いきなり手渡しされるとは思わないじゃないか。

俺は渡された4つのうち1つを取り出して、手の平の上に乗せて眺めてみる。まじで外見だけだと黒い鉄の球にしか見えん。

「威力はどれくらいなんだ?」

「範囲も、威力も、始まりの町で普通に売っている物の倍近いわよ?」

「ま、まじか! それは凄い! これがあれば、フィールドボスとやりあえるぞ」

「くくく、楽勝よ。むしろ作業過ぎてつまらないかも?」

そ、それほどか。

「使った瞬間、周囲に大量の火炎を撒き散らし、大輪の花を咲かせるの。私の初期の最高傑作の1つよ」

このゲームはフレンドリーファイアはないが、自爆はある。アイテムにもよるが、確か爆弾は下手な使い方をすると自分にもダメージが入ったはずだ。

リキューの説明を聞いてたら、爆弾を持つ手が震えて来たぜ。ぶっちゃけ怖い! いや、町中で爆弾が誤爆するはずはないんだが、気分の問題? それに、含み笑いを発しながら爆弾の説明をするリキューが怖いのだ。

「使うときの注意点とかあるか?」

「ちゃんと離れて投げつけないと、自爆死するわよ」

やっぱりね! だと思った。

「くくく……自爆ダメージ上昇効果がついてるの」

「ええー。な、なんでそんなものを」

「自爆ダメージ上昇効果と同時に、有効範囲が広がる効果もあるのよ。それに、その方が面白いでしょう?」

あー、このタイプね! 面白さ優先! いや、俺もそのタイプだから理解はできるよ? でも、爆弾で遊んではほしくなかった!

とは言え、自爆にさえ気を付ければ非常に高性能なことに変わりはない。トッププレイヤーのオリジナルレシピで作った強力爆弾なのだ。ここは細心の注意を払いながら、有りがたく使わせてもらおう。