軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105話 中ボス戦

「我は大悪魔グラシャラボラス様に仕える使徒! 邪魔をした貴様らは、グラシャラボラス様への贄としてくれる!」

その姿は羊の角の生えた筋肉質の大男で、全身の肌がコールタールの様に真っ黒だ。翼はないが、いわゆるテンプレ的な悪魔と言った感じの外見だった。

「リッケ! 友達を連れて逃げてろ!」

「う、うん! 分かった」

NPCが死んだら消滅しちゃう可能性が高いからね。逃げていてもらった方が安心だろう。

悪魔を鑑定して見ると、名前はグラシャラボラスの使徒となっている。頭の上に赤マーカーとライフゲージが出現し、戦闘が始まってしまった。もう交渉も逃走も出来そうにないな。

「白銀さんたちは後ろに! サポートをお願いして良いですか?」

「分かった! 俺たちはあまり戦力になりそうにないからな」

「まずはいつも通りに行くぞ!」

「了解!」

俺はモンスたちと一緒にマルカたちの後ろに下がった。相手の強さも分からないから、俺たちじゃ一撃死の可能性もあるのだ。なので、直接戦闘は避けて、後ろからのサポートに徹するつもりだった。

「ぐははは! 死ね!」

マルカたちのパーティのバランスは悪くない。回復役が風魔術師のマルカ、索敵役がシーフの男しかいないが、前衛に盾士、剣士、槍士、が揃っており、単純な戦闘力は高めだ。

グラシャラボラスの使徒の攻撃を盾士が防ぎ、その隙に他のメンバーが攻撃を加えて行く。

悪魔は拳での物理攻撃がメインな様だな。時おり状態異常を引き起こす術を使う様だが、マルカの魔術ですぐに癒されていた。

攻撃力はかなり高いが、マルカ達のパーティなら対応できている。俺たちだったら一発で死に戻りそうだが。

俺はヘイトに気を付けながら、魔術で援護をしていった。クママやリック、オルトは、相手の気を引くために挑発を繰り返す。サクラは俺と一緒に魔術で援護だ。

戦闘は思いのほか順調だった。見た感じ悪魔の攻撃パターンは単調で、物理攻撃と状態異常を繰り返すだけだ。ボスなだけあってHPは多いが、これなら何事もなく勝ててしまうかもしれない――なんて思ってたんだけどね……。

HPが半減した悪魔が、突然笑い始めた。

「下等な人間どもにしてはやるではないか! 少々本気を出す必要があるな!」

例の奴だよ! 追い込まれたボスが変身しちゃう系のイベントだ。悪魔の筋肉がメキメキと音を立てて、さらに膨れ上がっていく。変身中に攻撃を仕掛けるが、弾かれてしまった。変身中は無敵ってことか。

「ぐははは! 無粋な輩め!」

悪魔に言われたくないよ!

その間にもグラシャラボラスの使徒は不気味な変化を続けていた。およそ10秒後、その姿は先程までとは全く違う物へと変わっている。

「アオーン! 貴様ら全員食い殺してやる!」

「うわー」

思わず声が出ちゃったよ。変身後のグラシャラボラスの使徒はそれくらい気持ち悪い姿だった。その姿は全身毛むくじゃらの、猫背で二足歩行の巨大な犬だ。それだけ聞くと可愛くも思えるだろう。だが、実際はそんな生易しい姿じゃなかった。

犬は犬でも、数年くらい体を洗っていないせいで体毛が固まって縮れた雑種犬だ。それも微妙に毛が長めの奴である。目は水木先生の描く妖怪の様にギョロリとしており、ベロンと垂れ下がった赤茶けた舌が妙に不快感を煽る。

パッと見、先程までの方が断然強そうだな。だが、それは気のせいだった。

「アオーン!」

「くっ! 攻撃力が上がりやがったぞ!」

「くそっ!」

お約束の2回攻撃だよ。しかも、攻撃力も上がっているらしい。盾士のHPが盾の上からでも大きく削られるのが見えた。

状態異常攻撃の頻度も上昇し、回復役のマルカのMPが凄まじい速度で減り始めたな。

もう、クママやリックは攻撃に参加することさえできなくなってきた。

極め付きが、ウザい範囲攻撃である。

「アオオオォ!」

悪魔が一際大きな咆哮を上げると、黒い光が悪魔を中心にドーム状に広がった。そして、次の瞬間には凄まじい衝撃が俺たちを襲う。後方に居た俺達まで巻き込まれるほどの広範囲攻撃だった。

俺やリックのHPが僅かに残る程度なので、このレベルのボスにしては威力は大したことないんだが、全員がダメージを喰らうというのはそれなりに厄介だ。回復が追い付かないしな。

「マルカ! こっちの回復は自分たちでやる! そっちだけに集中してくれ!」

「大丈夫なの?」

「平気だ!」

ぶっちゃけ、俺たちが死に戻っても大勢に影響はないが、マルカたちの誰が抜けてもピンチになるだろう。最悪、彼らの盾になったり、ボスのヘイトを稼いで囮になることも覚悟している。

「とりあえず、俺たちはもっと下がるぞ」

そこでアイテムでHPを回復してから、どう動くか考えよう。もしマルカたちがピンチな様なら、いよいよ盾代わりだな。

俺はモンス達を連れて、花畑から神聖樹の近くまで後退した。 範囲攻撃は連発できない様で、そこは助かったな。もう一発食らってたら、俺たちのパーティは全滅だったのだ。

「ふう、皆、傷薬だ」

「ムム!」

「キュ!」

「クマ!」

「――!」

さて、どうやってマルカたちをサポートしよう。そう考えている時だった。俺は自分のHPバーの異常に気付いた。いや、MPバーもおかしいな。

「これは……HPとMPが自動で回復してるのか?」

多分、1秒で1点くらいは回復しているだろう。凄まじい速度だ。傷薬なんか使わなくてもすぐに全回復しそうだな。

周辺を見回すと、神聖樹から俺たちに光が流れ込んできているのが見える。これのおかげなのか?

俺は神聖樹から距離をとってみた。10メートル程離れると、光が消えて自動回復も途切れてしまった。また近づくと、再び光が俺を包みこみ、自動回復が始まる。間違いないな。

「おーい! マルカ! こっちに来い! 神聖樹の側にいるとオートヒール効果があるぞ!」

俺の声が届いたんだろう。マルカたちが悪魔と交戦しながら、神聖樹に近づいてきた。そして、その回復効果に驚いている。

「すご! なんだこの回復効果!」

「助かった!」

「白銀さんグッジョブ!」

しかもそのまま戦闘を続けていたら、更なる効果に気づいた。なんと、悪魔の状態異常攻撃が一切効果を発揮しなくなっていたのだ。

結果として、悪魔から食らったダメージはすぐに回復してしまい、MP不足に陥ることもない。状態異常の術を使えば隙が生まれ、全員が本気で攻撃を繰り出すことも出来ている。まあ、俺たちだけだったら神聖樹のオートヒールがあっても瞬殺されてただろうけどね。ピンチが一転、楽勝ムードであった。

いや、さっきもそんなことを考えていて、奴の変身に泡をくったんだった。まだ2回くらい変身が残っている可能性もあるし、油断せずに行こう。

そう思ってたんだが……。

「グギャオオォォオォ!」

はい、あっさり勝利してしまいました。まあ、中ボス扱いだし、こんなものか? 神聖樹の回復効果が無ければ負けていたとは思うが……。むしろ、神聖樹の近くで戦う事が前提のボス戦なのか? という事は最初のピンチは、花畑に棘を持って行った俺のせいか? いやいや、まさかね。

「どうしたの白銀さん?」

「うん? い、いや、何でもない。ドロップは何かなーと思ってさ」

「それがさー、ドロップなしみたいなの! 止めを刺した私にも何もないし。イベントポイントはたくさん貰えたけど」

「やっぱ、プチ・デビルと同じくくりってことか」

「そうみたい――あ!」

そうやってドロップやポイントの確認をしていたら、マルカが何かに気づいたらしい。驚きの声を上げた。

「どうした?」

「コクテンさんから連絡が来てた!」

戦闘中で気づかなかった様だ。メールは3分ほど前の物だった。なんと、ガーディアン・ベアの黒い靄が消えて、どこかに逃げて行ってしまったらしい。もしかしたら洞窟に戻ったかもしれないから、気を付けてくれと書いてあった。

3分前と言うと、ちょうど俺たちがグラシャラボラスの使徒を倒した時間だ。

「ねえ、どうする?」

「うーん、とりあえずリッケたちを連れて逃げるか?」

「それがいいかなー」

俺はマルカと相談して、一旦逃げ出すことにした。まだガーディアン・ベアがどうなったかもわからないしな。せっかくボスに勝ったのに、ガーディアン・ベアに鉢合わせて全滅とか笑えないのだ。